あいみょん、中村佳穂、幾田りら、アイナ・ジ・エンド……声優としても活躍を広げる女性シンガーたち

 主人公・すずの親友であるヒロ(別役弘香)役を演じたのが、同じく声優初挑戦となった幾田りらだ。彼女は、声優のアフレコと音楽制作におけるレコーディングの共通点について、次のように語っている。

「声優であれば、このシーンのヒロちゃんは確実に喜んでいるだろうと思っても、あえて真逆の怒っているような感じで台詞をしゃべってみる。そうやって一つひとつの台詞を様々な感情で表現してみることで、違った捉え方や新たな発見をすることができると思いました。音楽も同じで、この曲はこういうふうに歌おうと自分で決め込んでしまうと、レコーディングの現場でディレクションが入った時に臨機応変に対応することができなくなってしまうんです。あらゆる可能性を想像して、そのシミュレーションをできる限りする。そんな心構えが必要だと思っています」(※3)

 この言葉からは、シンガーと声優の表現は決してかけ離れているものではなく、むしろ重なり合う部分が大きいことが伝わってくる。彼女は「小説を音楽にする」というコンセプトを掲げるYOASOBIとして活動する中で、登場人物が胸の内に抱く簡単に言葉では表し切れない感情にシンガーとして寄り添い続けているからこそ、声優初挑戦でありながら、声優と音楽の共通項にすぐに気づくことができたのかもしれない。実際にヒロ役の演技には、細かな感情の機微と溢れ出る想いの強さの両方が滲んでいて、この映画の物語を鮮やかに彩ることに成功している。

『竜とそばかすの姫』予告1【2021年7月16日(金)公開】

 また、映画『SING/シング:ネクストステージ』の日本語吹替版には、前作のキャストに加わる形で、稲葉浩志(B'z)、ジェシー(SixTONES)と共に、アイナ・ジ・エンドが声優として参加した。『竜とそばかすの姫』と同様に、この映画においても歌が重要な役割を担っている。アイナは、オリジナル版ではホールジーが演じたポーシャ・クリスタル役を務め、本家に負けない圧巻の歌声を響かせている。ミュージカル映画においては、歌声の力こそが映画のクオリティを左右するが、アイナは日本語吹替版の音楽プロデューサーを務めた蔦谷好位置の期待、および観客の期待に見事に応えてみせた。そして注目すべきは、ポーシャの天真爛漫さを伝える声の演技。いつもより高いテンションの声色に、普段アーティストとして歌ったり喋ったりしている時とのギャップに驚いた観客は多かったはず。

『SING/シング:ネクストステージ』本予告|日本語吹替キャスト完全版

 他にも、映画『バブル』で、シンガーソングライターのりりあ。がヒロイン・ウタ役を演じていたり、ミュージシャンが声優デビューする流れは近年の潮流の一つになっている。冒頭で触れた『君たちはどう生きるか』におけるあいみょんは、物語を牽引する極めて重要な役を担っていて、彼女独自の声色や抑揚、リズム感があるからこそ、一つひとつの台詞に豊かさや深みが生まれていると感じるシーンも多かった。今はまだ、彼女が起用された経緯や、彼女のアフレコの体験談などは明かされていないが、追ってそうした背景も明らかになるはず。これから『君たちはどう生きるか』を観る(観直す)方は、ぜひ、あいみょんの声の演技に耳をすませてみてほしい。

※1、2、3:『SWITCH』2021年8月号

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