RUCCAが語る、“職業作詞家”としての矜恃 『パリピ孔明』OP「チキチキバンバン」の手応えやアニメタイアップ曲の変化も
日本の音楽シーンをビジネスとして捉えた場合、無視できない大きな市場となっているのがアニメや声優、そしてアイドルといったカテゴリーだ。それらのジャンルはさらに細分化しており、熱心なファンでも追いきれないほどのコンテンツが生み出され、そこから数えきれないほどの関連楽曲が派生し、無数のアーティストたちが日々パフォーマンスを続けている。
そんな世界をメインフィールドに、作詞家として膨大な作品を生み出し続けているのがRUCCAだ。自らを「歌詞屋」と名のり、さまざまな業界を縦横無尽に渡り歩きながら、唯一無二の活躍を続けている彼の謎に包まれたその仕事ぶりと、昨今の「職業作詞家」の事情について聞いた。(大谷弦)
作詞家としてオリジナルでありたいし、常に新しいものを追求したい
ーー膨大な量の作詞を手掛けてますが、キャリアはどのくらいになりますか?
RUCCA:作詞家としては17年やっていて、リリースされた曲は今までに850曲ぐらいはあると思います。iTunesのプレイリストで自分の関連した楽曲を管理してたんですけど、数年前に全部ふっとんじゃって、完全には把握できなくなってしまったんですよ。納品してからリリースするまでに数年かかった作品とか、発表されなかったものもありますし、ペンネームもいくつか使い分けていたりするので……。
ーーひと月にどのくらい作ってるんですか?
RUCCA:いちばん多かった時は月に20曲とか作ってました。あるプロジェクトの関連楽曲をまるっとやるような仕事だと、もう1日1曲ペース。機械的に量産しているというのは自分でも理解していて、あるディレクターからは「ファクトリー」と呼ばれてました(笑)。ただ、それでも他の人と同じものを作りたくないというのは大前提で、作詞家としてオリジナルでありたいし、常に新しいものを追求するという気持ちは持ってます。
ーー仕事の領域でいいますと、アイドル、アニメ、声優、それにゲーム関連の楽曲が多いですけど、こういったジャンルは発注の時点で決めごとが多そうなイメージがあります。
RUCCA:いろいろなパターンがありますね。ガチガチに決まりごとがあって作るときもあれば、気にせず自由に書いてくださいということもあります。このキーワードをマストで入れてほしい、というのはCM関連とかが多いですかね。
ーー詞から書き始めるものと、曲が先にあって詞をあてていくもの、どのくらいの比率ですか?
RUCCA:曲先が9割ぐらいですね。これは、僕だけでなくいまの業界的に曲先が標準になってます。たまに子供向けの教育番組で流す曲とかは、詞が先でやることがありますけど。
ーー具体的に、どういう工程で作詞していくんですか?
RUCCA:僕はまずメモすることから始めます。アニメだったら、作品の資料を読んだり、アーティストさんへ提供するものだったら、その方がどんな人物で、今までどんな曲を歌ってきたのかというような基本のデータを集めます。それにクライアントからの発注条件ですよね。タイアップとか、このキーワードを入れてほしいとか。ディレクターから、これはラブソングだけど季節感は出さないようにとか、細かくイメージを指示されることもありますね。
ーーSFアニメとかだと、設定資料も膨大になりそうですね。
RUCCA:設定集も分厚いですし、脚本がまとめて24話分送られてきたりするんですよ。それで、締め切りが3日後とか(笑)。それらを咀嚼したうえで、情報を適度に入れたり、時にあえて外したりしながら考えていきます。
ーーメモというのは、そういう要素を書き出していく感じですか?
RUCCA:いや、こうした資料集めはメモ以前の作業ですね。集めたデータに目を通してインプットしたら、いったん全部忘れる。そこから曲を聴きまくって浮かんだ言葉をメモしていくんです。机に向かって考えることもあれば、散歩しながらメモすることもあります。あとは、最近はよく新宿からロマンスカーに乗って、揺られながらずっと曲を聴いて言葉を探して、小田原に着いたらそのままUターンして帰ってきたり……。
ーー“居酒屋ロマンスカー”ですね(笑)。そのメモ書きした言葉を、詞としてまとめていく。
RUCCA:これぐらいあれば、新しいモノが作れるという量になったら、今度はそれを削りながら紡いでいく。ただ、その時にどうしても手癖が出るというか、いままで自分が書いた言葉と被ることがあるんですよ。それはちゃんとアーカイブで調べて、なるべく新しいものに変えます。
ーーそんなに新しい言葉って浮かぶものなんですか?
RUCCA:日本語は、それが可能なんですよね。あと僕は空耳が得意なんですよ。例えば、ある英単語を聞いて、意味はわからないけど、この語感は繋がりそうだなと思って調べてみると、なんとなくその範疇に入る意味だったりする。なので、ふと耳慣れない英語のセンテンスを捉えると、喜んでメモしたりしますね。
ーーアニメ『パリピ孔明』のオープニングに使われた「チキチキバンバン」も、そういう作り方でしたか。
RUCCA:あれはハンガリーでヒットした曲の日本版カバーなのですが、最初から空耳を駆使して、内容はふざけた感じでお願いします、という発注でした。そういうの大得意です、と二つ返事で引き受けたんですけど(笑)、あんなに話題になるとは思わなかったですね。作ってるときは、“空耳作詞家”としての手応えはあったんですよ。ラップの部分とか、僕は天才的だと自画自賛しながら書きましたけど、オープニングテーマとしては、残念ながらそのラップパートは流れていません(笑)。
ーーあの曲は思わず口ずさんでしまう魔力がありますよね。空耳にせよ、言葉選びというのはインパクト重視ですか?
RUCCA:それもいろいろですね。例えばインパクトを重視してサビから作るという作詞家はけっこういるんですけど、僕は頭から順番に考えます。頭サビの曲だったらサビからになりますけど、もう順番にAメローBメロと考えていく。サビをフックにすると、その前後を打算的に書いてしまいそうになるのが嫌なんですよね。単純に最初から順番に書くほうが物語が作りやすいというのもあります。
ーー「これはヒットさせよう!」と考えながら作るものなんですか?
RUCCA:もちろん、売れるように考えて作ってます。ディレクターからも「TikTokでバズるような曲を!」という発注が来ることもありますしね(笑)。でも、ヒットは狙って出るものでもないし、頑張って作っても、売れる・売れないは運ですよ。そこを狙い過ぎて飛び道具みたいな言葉をわざと入れたりしがちなんですけど……難しいですよね。
ーー逆に、売れている曲は気になりますか?
RUCCA:耳に入ってくるものは、ちゃんと聴きます。矛盾してるかもしれないですが、売れるかどうかに理由はないけど、売れているものには理由がある。例えばYOASOBIの「アイドル」は、やっぱり評価される理由があるし、詞も曲も、すごくしっかり作られている。批評家みたいなことはあんまり言えないですけど、『【推しの子】』という作品がまずすごくて、Ayaseさんが原作を読み込んで、そこで生まれたアイデアが散りばめられていて、それがちゃんとリスナーまで届いているという状況が本当に素晴らしいと思います。