OAUの音楽が心に残した温かくて熱い余韻 ツアー『Tradition』を通して伝えた人間の力強さ

OAU『Tradition』ツアーファイナルレポ

 自由の象徴のような光景の下、「Making Time」を終えると、TOSHI-LOWが、ライブ中、子どもたちが通路に出てきて自由に体を動かしていたことに「いいね。なぜなら、(OAUは)あなたたちの未来を本当の意味で歌に乗っけている気がするから」と触れた。本編ラストのMCでTOSHI-LOWが語ったのは、日本人は元々、悲しむべき時にちゃんと涙を流すことで、悲しみを分かち合い、立ち上がる民族だったこと。しかしいつからか、感情を隠すようになったこと。放出されるはずだった感情は、体の中に残ったままになってしまっていること。その上で、どんな時代でも津波や地震、台風、疫病はあるが、一つひとつの命がなくなってしまったことをちゃんと悲しみ、その悲しみを繋げていくことが大事なんじゃないかと、自身の想いを明かしたのだった。

 ブズーキを奏でながらTOSHI-LOWが歌い始めると、鼓動を思わせるリズム、川の流れのように美しい弦楽器の旋律が重なっていく。本編ラストに披露されたのは「This Song -Planxty Irwin-」。アイルランド出身の盲目のハープ奏者、ターロック・オキャロランの楽曲に、TOSHI-LOWが日本語の詞をつけた曲だ。17世紀のアイルランドを生きた音楽家が楽曲に込めた想いを汲み取り、歌い鳴らすこと自体が“伝承”の行為にあたるが、〈繋いだ光が移り始めるよ〉というフレーズをきっかけに光が広がっていく演出もまた、バンドからリスナーへ、そして大人から子どもへと大切なことを語り継ごうとするOAUの活動を象徴するようだ。

 「いろいろリリースツアーをやったけど、こんなに盛り上がったのは初めて。バンド、続く?」(MARTIN)、「え、終わるの!?」(TOSHI-LOW)というやりとりから始まったアンコールでは、“楽器を練習して習得するという原始的な喜びをまた知れた。だからOAUをやっていてよかった。だからバンドをやめることはない”と語りつつ、ツアーファイナルを迎えた今の実感を「ちゃんと伝わる人には伝わってるし、報われている気がします」と言い表した。そして、制作のきっかけとなった東日本大震災の被災地・越喜来を訪れた際のエピソードを改めて語ってからの「懐かしい未来」、“永遠なんてないからこそ、今日(=未来の一歩目)を大事に生きよう”という想いを込めた「帰り道」でライブは終了。OAUの音楽は、温かくて熱い、質量のある余韻を私たちの心に残していった。

■セットリスト
1.Old Road
2.こころの花
3.Family Tree
4.世界は変わる
5.Thank You
6.セラヴィ -c'est la vie-
7.Whispers
8.Blackthorn's Jig
9.月だけが
10.Bamboo leaf boat
11.Change
12.Without You
13.Linden
14.夢の続きを
15.A Better Life
16.Peach Melba
17.Homeward Bound
18.Again
19.Time's a River
20.Making Time
21.This Song -Planxty Irwin-

En1.懐かしい未来
En2.帰り道

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