BiSHはライブに生き、ライブに散った 結成から東京ドーム解散公演まで貫かれたパンクな生き様

 「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーにならうなら、BiSHは最高のライブバンドだった。ライブに生き、ライブに散ったのだ。数多くのメディア露出をしてきたBiSHだが、活動の中心は「清掃員」と呼ばれるファンとの交歓であり、それを貫き通して解散したのだ。そんな余韻を与えてくれたのが、2023年6月29日に東京ドームで開催された解散ライブ『Bye-Bye Show for Never』だった。

BiSH

 5万人で埋まった東京ドームには、ほぼ定刻にピンクの着ぐるみのウサギが登場し、ファンを煽りだした。大歓声が響き、ペンライトが揺れる。そして、オープニング映像が流れると、生バンドを従えたBiSHが登場した。

 1曲目は、グループ名を冠した幕開けの一曲「BiSH-星が瞬く夜に-」。激しいコールは、ここがライブハウスなのではないかと錯覚させるほどだった。この楽曲の最後を飾るのは、巨大なシンガロング。長かったコロナ禍を抜け出して、東京ドームに清掃員の声が響いた。

 セントチヒロ・チッチが「清掃員、準備できてるかー!」と叫んでから「ZENSHiN ZENREi」へ。アイナ・ジ・エンドも「東京ドーム盛り上がっていこうぜ!」と煽り、「SMACK baby SMACK」へと続いた。

 そして、解散ライブだというのに、この日も「はじめまして、私たちBiSHです」とメンバーの自己紹介が始まった。あまりにもいつも通りなのだ。「HiDE the BLUE」から「FOR HiM」へと続き、「FOR HiM」では激しいMIXが東京ドームに響いた。この楽曲では、美しいメロディをつなぐ個々のボーカルが、8年間活動してきたBiSHの成長を物語る。

 「JAM」「デパーチャーズ」と続いた後、モモコグミカンパニーが「東京ドームのみなさん、楽しんでますかー!?」と呼びかけ、メンバーそれぞれの東京ドームの思い出を語りだした。やはり解散ライブという雰囲気がなく、いつも通りのBiSHなのだ。ただ会場が東京ドームであるだけだ、と言うかのように。

 「遂に死」に続いた「stereo future」では、BiSHが花道を走ってセンターステージに立った。「My Landscape」では、ストリングの音色をバックにして、メンバーの歌の個性が如実に出ていた。一般的にはアイナ・ジ・エンドの歌が注目されがちだが、巧拙に関係なく、私はこの6人の歌が好きだったのだ、と改めて感じた。「My Landscape」は、歌声とともに終盤に強烈なカタルシスをもたらした。

 「サヨナラサラバ」に続く「NON TiE-UP」は、ゲリラリリースされた当時はBiSHにとっての変化球であったはずだ。それがライブ中盤に据えられるようになったことに、「NON TiE-UP」の衝撃をも飲みこむようになったBiSHのたくましい姿を改めて感じた。その「NON TiE-UP」では炎も噴き上がり、こころなしか体感温度が上がった気がした。

 映像を挟んで、BiSHにとっての初音源(しかし初出時はマネージャーの渡辺淳之介がボーカル)の「スパーク」へ。〈痛みを痛みでこらえよう〉という歌詞は、BiSHにとっても清掃員にとっても支えになってきた一節なのではないだろうか。サビでのセントチヒロ・チッチのボーカルは、とても魅惑的だったことも付け加えたい。「Life is beautiful」に続く「FREEZE DRY THE PASTS」では、BiSHの激しいシャウトが東京ドームに響いた。

 さて、セットリストを見て、二度見してしまったのは「コントパート」の存在だ。ハシヤスメ・アツコがウサギの着ぐるみを「あれ、素人の動きだよね」とけなすと、ステージ上のスクリーンに、楽屋で着ぐるみを着たままくつろぐ渡辺淳之介の姿が映しだされ、ハシヤスメ・アツコが「おまえか!」と叫ぶ一幕も。こんな調子で、東京ドームであっても、解散ライブであっても、BiSHはいつものようにBiSHだったのだ。

 「ぴょ」では、メンバーが二手にわかれて、2台のトロッコに乗った。トロッコには多くの提灯が吊るされ、一番上にはサボテンが。その姿はまるで櫓のようで、「美醜繚乱」「新生糞偶像」「清掃員」などと書かれた2台のトロッコがアリーナを移動していった。初期のキラーチューンである「ぴらぴろ」では、トロッコからスモークも噴射。同じく初期曲の「DA DANCE!!」では、BiSHのスケールが様変わりしたことを東京ドームで改めて感じた。

 映像を挟んでから、2021年の『第72回NHK紅白歌合戦』でも歌唱された「プロミスザスター」へ。猥雑なBiSHが、シリアスさや焦燥感に満ちた「プロミスザスター」で大きなポピュラリティーを獲得したことは、当時意外な展開だったことも思いだす。言い換えると、BiSHは変化を恐れなかったのだ。続く「LETTERS」は、コロナ禍に直面した2020年に発表された楽曲。〈今もあなたの無事を祈る〉という一節に、BiSHの最後の3年間はコロナ禍であったことに思いを馳せずにいられなかった。

 ハシヤスメ・アツコが「アリーナ! スタンド! 東京ドーム!」と煽ってから、「GiANT KiLLERS」へ。リンリンがさらに煽り、火が噴き、レーザーが飛び交う。なにより「GiANT KiLLERS」は、巨大なシンガロングが起きる楽曲だ。「MONSTERS」では、火薬が爆発し、清掃員の大合唱とMIXが響いた。「サラバかな」でも、清掃員の激しいコールやシンガロングが起きていた。 

 そして、本編ラストの楽曲は「ALL YOU NEED IS LOVE」。ミディアムにしてナイーブな前半から、後半で一気にバンク化する楽曲だ。激しいサウンドに乗せて、内面の葛藤を描くBiSHのスタイルを決定づけた一曲でもあり、本編ラストにふさわしい楽曲だった。

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