ヰ世界情緒、“神椿市”で示したアーティストとしての深化 バーチャルライブの新フェーズを示唆する『SINKA LIVE』の奥深さ

 2023年6月18日に開催された、『SINKA LIVE SERIES EP.Ⅰヰ世界情緒 2nd ONE-MAN LIVE「Anima Ⅱ -神椿市参番街-」』。本公演はバーチャルダークシンガー・ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)にとって1年半ぶりとなる二度目のワンマンライブであり、同時に今年3月の『花譜 3rd ONE-MAN LIVE「不可解参(想)」』をエピソード0と位置づけた、KAMITSUBAKI STUDIOによるライブシリーズ『SINKA LIVE』の初の公演にも当たる。

 まだまだベールに包まれた謎の多い架空都市・神椿市の内情を想起させる公演タイトルへの大勢の期待を背負いつつ、厳かなオープニングSEの中で登場したヰ世界情緒。仮想空間に響くのびやかなロングトーンで聴衆を一気に引き込み、「そして白に還る」「ディメンション」「暮れなずむ約束」といった力強いナンバーで冒頭から一気にボルテージを上げる。「パンドラコール」で“電脳の魔女”たる一面も垣間見せつつ、黒を基調にした“ネモフィラ”への衣装チェンジを経て、活動初期からの様々な定番曲に加え「ヰ世界の宝石譚」「シリウスの心臓」と繰り広げられる怒涛の代表曲ラッシュ。開演から約40分で、公演は一度大きな山場を迎えることとなる。

 迫力のステージングから一転、あどけなさの覗くMCでは「いつもと違うステージや初めての世界に、ワクワクしながら歌っています」とヰ世界情緒は嬉しそうに語る。しかしその後の「今日のメイン、行っちゃおうかな」という言葉が、名曲を出し尽くしてなお、これ以上の見せ場があることを示唆し、観測者(ファンの総称)は騒然。そんな中、神椿市へと向かうべくゲートを潜るヰ世界情緒。壮大なBGMと共に画面にはタイトルクレジットが掲げられ、ここからがようやく公演本編の幕開けであることが明かされた。

 架空都市へ向かう道中も、なんと今年4月に一夜限りの披露だったはずの“アイドル情緒”が復活。「マボロシのまち」や「ANEMONE」、John(TOOBOE)による星界の楽曲「しあわせ」といった自身の関連曲をDJリミックスした「ISEKAIJOUCHO DISCOTHEQUE」にあわせ、軽やかなステップを踏みつつ観客を楽しませる。

 目的地に到着した後は“ヘリオトロープ”へと衣装チェンジ。重厚なファンタジー調のBGMと共に、ここで神椿市参番街のエリアビューも初解禁された。中世ヨーロッパを彷彿とさせる石畳の小路。周囲一面を色彩豊かな花々に囲まれ、引き続き彼女は「生きていく光は」、ソロバージョンとなる「あわく心模様」を芯のある澄んだ歌声で歌い紡ぐ。

CIEL&ヰ世界情緒

 場所を移した後、観測装置を介して現れたCIEL、春猿火と共にそれぞれ「霞がついてくる」、「生存」を熱唱。スタイルの異なるデュエット曲で、その幅広い表現力を確かに発揮する。その後も共に学園RPG『モナーク/Monark』挿入歌「何億光年の孤独」「この夢に弔いを」を、仮想世界の鮮やかな自然風景を巧みに切り取るカメラワークとあわせて披露した。

春猿火&ヰ世界情緒

 曲のラストをアンニュイな表情で飾り、ここで再び緩やかな語り口のMCへ。先ほど登場したゲスト二人や懐かしい衣装にも言及しつつ、架空都市のさらに奥へとヰ世界情緒は観測者を誘う。ピアノとチェンバロの旋律と共に教会の建物の中へ歩みを進める彼女の姿は、いつしか新衣装“カラーリリィ”へ。「ARCADIA」、そして音楽的同位体・星界と共に「エリカの憂い」「カレンの清掃」を続けざまに歌唱し、瑞々しさと無機質さが美しく絡み合う二重唱を響かせる。その後移動したステージでは新たな衣装についても触れ、自身にとって心地良さとダークな要素を兼ね備えた“白”の花であり、「何度も色を塗り重ねることを肯定していけるように」という願いを、このカラーリリィに託したことを明かした。

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