マハラージャン、全曲披露した初の野音ライブ アーティストとしての強みを見せた記念すべき公演に
もう一つのハイライトはアコースティック編成。観客を座らせて、おもむろに「気持ちいい天気ですね……皆さんは別れた恋人の歯ブラシで便器を磨いたことはありますか? その曲を歴史ある野音で歌ったことはありますか?」と、馴染みの曲振りもこの日ならではのバージョンに。スパニッシュなストロークに強めのボーカルで届けた「君の歯ブラシ」は途中でアコギの三弦が切れるハプニングも。“便器”というワードに野音の神様が怒ったのでは? と怯えつつ、厄を全て持って行ってくれたと前向きの解釈していた。さらにコーラス隊との沁みる「比べてもしょうがない」、小川のアコギと皆川のピアノを加えた「空ノムコウ」ではちょうど太陽が落ち、西の空がオレンジに染まるという絶妙なタイミング。マハラージャンの達者な口笛も夕焼け空に映える。どうしても音楽をやりたい、その気持ちに正直になった記念すべきこの曲から、音楽を作り続ける人生を旅になぞらえた「遠回り」へ。“大宴会”の中にもシンガーソングライターとしての所信表明をするターンを配置した意味は全曲披露の根拠たり得たと思う。というのも、ここからのバンドセットにエンジンがかかったからだ。
ホーンが華々しい活躍を見せる「正気じゃいられない」で着火し、続く「鼻の奥に米がいる状態」もホーンリフを主体に厚いグルーヴで押していく。「エルトン万次郎」のスペーシーなファンクもガッチリ、グルーヴが醸成されたリッチな音像だ。メドレー以降、アレンジの必然性を伴い、曲順のハマりが気持ちいい。そこに切ないギターのイントロが流れ、溢れる歓声からスタートした人気曲「eden」。歌メロの良さが、夜明けの街、青春時代に自分一人の心に誓った何かがマハラージャンからオーディエンスに、もっといえば東京の空に交信して行くようなロマン。小川のギターリフの音色の良さも相まって、感情が決壊する感覚に襲われる。アッパーなノリから一気に温かい感情が野音に広がった瞬間だ。
雛壇も空きが目立ち始め(というか4人しか残っていない)、もう次がどの曲か当てに行ける終盤。1年以上前から抽選が始まり、幸運にも枠を確保できても公演にOKが出なければ実現しない野音へのなかなか険しいプロセス。しかも今年は梅雨が早めに訪れそうな中、晴天の気持ちいい日を迎えられた自分もファンも「持ってる!」と、喜びを共有。“ジェ!”の発声に沸き、“ジェ!”のコールアンドレスポンスでさらに沸いた「持たざる者」の爆発力は“精霊たち”が立ち上がり、キレッキレのダンスをすることでさらに強度を増し、「その気にさせないで」のポップスの求心力、アニメ主題歌として書き下ろした「くらえ!テレパシー」の速いBPMが、ライブ終盤の賑々しさにハマる。どこを見渡しても思い思いに踊るオーディエンスと30曲オンステージしてきたとは思えないマハラージャンのスタミナが拮抗する。ラストはマハラージャンのこれまで共有されてきたストーリーの中でも最大公約数であろう「セーラ☆ムン太郎」を全てのメンバーの紹介とソロを盛り込む王道の展開でたっぷり見せ、聴かせ、フィニッシュした。
アンコールではビルボードツアー『ゴールデンタイム』、そして冬のツアー『奇跡』、この日配信リリースしたばかりの「蝉ダンスフロア」を表題とするEPを7月14日にリリースすることもアナウンス。アナログシンセをフィーチャーした新たなアンセムになりそうな同曲の初披露で、“ミンミンミン”のシンガロングが起こったのも本編の凄まじさを映している。一見ナンセンスで実は親しみやすいというマハラージャンの強みが、2023年後半、どんな新曲に着地を見せるのか。彼にしかできない新たなエンターテインメントに期待したい。
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