ウォルピスカーター×Neru、“狭く深く”を貫いて掴み取ったリスナーからの支持 歌い手とクリエイターそれぞれのスタンスを語る
2012年に活動を開始し、女性シンガー顔負けのハイトーンボイスで、独自の立ち位置を築いてきた歌い手・ウォルピスカーター。TVアニメ『ニンジャラ』のエンディングテーマへ二度目の起用を果たし、5月24日にデジタルシングル「ラディーチェ」をリリースした。
同曲を手掛けたのは、ボカロPのNeru。「東京テディベア」「ロストワンの号哭」「脱法ロック」など代表曲を多く持つヒットメイカーとして、往年のボカロファンからも信頼を集める。
もともとプライベートでも親交のあった2人がアニメタイアップという機会でタッグを組み、でき上がった一曲。リリースに寄せて、初の対談が実現した。(ヒガキユウカ)
交流のきっかけ、互いへのリスペクト
ーーお二人はもともと一緒に遊んだりされていたんですよね。
ウォルピスカーター:昔、共通の友達と一緒にお祓いに行きましたね。
Neru:あったね、そんなことも。なんかお互い面識はないけど、共通の知り合いが俺らのどちらかとめちゃくちゃ仲いいみたいな関係が何年も続いていて。ようやくここ数年で会って遊ぶようになった感じですね。
ーーお互いにお名前や作品を知ったきっかけは何でしたか?
ウォルピスカーター:僕はもうNeruさんのファンとしてずっと追いかけていました。高校2年生の頃、友達に勧められた「東京テディベア」と「アブストラクト・ナンセンス」を聴いてからなので、2011年の終わり頃だと思いますね。
Neru:いつだったかなあ。やっぱり共通の仲良い友達が多かったし、ウォルピスに楽曲提供してる友達もいたから、いつのまにか何となく知っていた感じですね。それで気づいたら友達になってたから、初めて会ったときも初めての感じがあんまりしなかった(笑)。
ウォルピスカーター:そうなんですよ! お祓いのとき僕めちゃくちゃ緊張してたのに、Neruさんと「ウォルビスくんなんで敬語なの? 俺ら別に初対面じゃないよね」「いや、僕ら今日初っすよ!」って会話をして(笑)。
ーー互いの音楽性や作品作りに対して、リスペクトしているポイントはありますか?
ウォルピスカーター:僕は1人のボーカリストとして、楽曲の中でもメロディが何より大事だと思っているんです。Neruさんのメロディには邦楽の良い部分が芯としてあり続けていて……なんていうか、オタクが好きなメロディをしてると思ってるんですよね。
Neru:オタクに優しいギャルだからね(笑)。
ウォルピスカーター:存在したんだ、オタクに優しいギャル(笑)。Neruさんの楽曲は時代に沿って、構成や使ってる楽器も音源もどんどん新しくアップデートされているんですけど、そういった変化を重ねながらもメロディの良さがずっと変わっていないのが僕はすごいなって尊敬してます。
Neru:ちょっと話がそれちゃうんですけど、僕が一番触れてきた音楽分野がメタルなんです。メタルの一番大事な教訓として、ギターにせよベースにせよ何にしろ、上から下まで隅から隅まで使えっていうのがあって。だから曲を書くとき、ボーカルもいただいた音域の範囲で上から下までしっかり使いたいんですよ。彼のカバーやオリジナル曲では幅広い声色を聴かせてくれるので、メタル好きの僕としてはそこにすごくグッときます。今回、その広い音域を活かしながら曲を書かせていただけたのもすごく楽しかったです。
ーー曲を提供する側としても、ウォルピスカーターさんだと最初から手札がたくさんあるような感覚なんですね。
Neru:そうですね。彼に楽曲提供した作曲家の方ってたくさんいると思うんですけど、彼と制作していて楽しかったと思います。
ウォルピスカーター:僕は「レンジはどうですか?」と聞かれたら「最高音と最低音はこれぐらいです」って返しますけど、基本こちらからキーの指定をすることはなくて。聞いてこなかった作家さんは、時々ものすごいのを書いてきたりしますね(笑)。
Neru:「書いてみたけど、キーが合わなかった」が一番怖いので、そこの心配がいらないのは楽だと思いますね。「美しいメロディが浮かんだけど、この人の音域的に無理だろうな」と諦めることもめちゃくちゃあるんです。そこを余すことなく、思い描いた通りのメロディを採用できるのは、提供を受ける側としては強みだろうなと思います。
ーーまさに理想のボーカリストなんですね。Neruさんはシンガーへの楽曲提供のとき、「普段のボカロ曲制作と違ってここに気を付けている」というポイントはありますか?
Neru:まずシンガーさんへの楽曲提供という面で言えば、本人の声帯からその音が出ている様子が想像できるのかを考えながらメロディラインを書いています。歌詞の言葉選びでも、その人の普段の言葉遣いとかを意識して、「この人はこういうこと言わないだろうな」という取捨選択をする。その範囲の中で、自分の理想との共通項を探すような作業をしています。タイアップ曲の場合も自分が書きたい曲を作るんですけど、それでもやっぱり自分の曲ではないので、トンマナは気をつけてますね。今回も作品の動画などを拝見して、小学生にも親しまれているアニメなのかなと思ったので、子どもが聴いても違和感のない歌詞にしました。誰にでも意味が通じるような等身大の言葉を使って、自分の言いたいことを表現しようと。
ウォルピスカーター:最初に「ラディーチェ」の音源を聴いたとき、「普段のNeruさんのボカロ曲と少し違う」と思ったんですよ。僕に合わせてチューンナップしてくれたんだと伝わってくる楽曲と歌詞だったので、「そういうことだったんだ……!」と話を聞いていて感じました。
ーーウォルピスカーターさんは長年「高音出したい系男子」として活動してきていますが、楽曲を歌う際に意識していることはありますか?
ウォルピスカーター:カバーとオリジナルで、僕の中でかなり意識を変えるようにしています。カバーについては、そもそも正解が存在するんですよ。ボーカロイドでもポップスやアニソンでも、ご本家のシンガーさんがいらっしゃいますから。その正解がある中で、「じゃあそれに対して自分ならどうするか」という、別解を探す作業だと思っています。ある種選択肢が狭まった状態で始まるので、僕はカバーのレコーディングの方がスムーズに進むことが多いです。オリジナルに関しては、とにかくその曲に沿って世界観や雰囲気をどう作っていくのか、声の出し方全体について1から構成していかなければいけない。歌っている時間と同じくらい、考えている時間も長いです。オリジナルは1曲通しての雰囲気が一番大切なので、まずAメロを録ってみて、聴き返して、Bメロの頭を取って、今度はAメロBメロ通しで聴いて、そこからサビに入っていいかどうか考えて……とやっていると、どうしても時間がかかっちゃいますね。