日本武道館はアイドルのドラマが生まれる場所に ExWHYZ、クマリデパート、≠MEら脈々と受け継がれる特別な想い

ラッパーのR-指定も歌った日本武道館の感動

 日本武道館は多くの人が知る場所である。しかし単独公演などをおこなう際、BiSなどの例もあるようにそれまでの活動の経歴やスタイルも注視される。ハードルが低いとは決して言えない。実績、実力、人気、そして「日本武道館でライブをするんだ」という想いの地道な積み重ねがないと、そこに立つことはできない。だからこそ「日本武道館アーティスト」という肩書きの価値は高まり、各方面で一目を置かれるきっかけにもなる。

 たとえばラッパーのR-指定は、所属ユニットのCreepy Nutsで〈大きな玉ねぎの下に立ってる 見上げた客席が円になってる 繋がってる 繋がってく 作り話にしちゃ出来すぎてる〉(「土産話」)、同じく所属グループの梅田サイファーで〈井の中から見上げた空 海の広さを知る今でも言える 一つも間違っちゃいなかったぜ たまねぎの下から見上げた円〉(「NO.1 PLAYER」)と、日本武道館の屋根にある玉ねぎ型のオブジェをモチーフにして、そこでライブをすることの道のりや得られた感動を歌った。そのライムは、どのジャンルのアーティストに通じる想いのように感じられた。

 日本武道館公演とは、これからさらに伸びていくアイドルにとっても、区切りを迎えるアイドルにとっても「自分たちがそれまでやってきたことの集大成」をぶつけることができるところなのだ。

AKB48、ももクロは初の日本武道館公演で勢いを証明

 1964年に東京オリンピックの柔道競技場として使用された日本武道館が、アイドルシーンでも特別視されるようになった理由。そのもとをたどると、1966年の出来事を見逃すわけにはいかない。

 筆者を含む海外のロックミュージックが好きな音楽ファンにとって日本武道館は、当時世界トップアーティストだったThe Beatlesが日本公演を開催した「伝説的場所」である。“伝統ある日本武道館をロックコンサートの会場にするなどけしからん”といった保守的な考えがあるなか、The Beatlesの4人はそこで演奏した(ちなみに出演時間はわずかだったが前座をザ・ドリフターズがつとめたことも有名である)。これが日本の音楽シーンに多大な影響を与え、現在の神聖化の要因のひとつになっている。

 1971年にはザ・タイガースが日本人初の単独コンサートとして、また解散コンサートツアーのファイナルとして日本武道館を選んだ。1980年10月には山口百恵が日本武道館での『さよならコンサート』で白いマイクをステージに置いて去っていった。前年には大場久美子が「アイドル初」の日本武道館単独公演を開催し、同時にそこが歌手活動最後の場となった。結果論ではあるが、そういった出来事が「日本武道館=区切りの場所」というイメージ付けになったのではないか。逆に、1975年の西城秀樹、1977年の矢沢永吉、1982年の松田聖子の日本武道館公演などがあったことで、「黄金期を迎えたアーティストは日本武道館で公演をおこなうもの」という印象を持たれるようにもなった。

 こと近年のアイドルシーンにおいても、AKB48が初めて日本武道館に立ったのが2009年。ちょうど『選抜総選挙』が始まる年でもあり、グループとして勢いづいてきたことが明らかだった。ももいろクローバーZは2012年に日本武道館で『ももクロ秋の2大祭り「男祭り2012-Dynamism-」「女祭り2012-Girl’s Imagination-」』を開催。男性限定、女性限定の公演だったが、これもまた当時のももクロが波に乗っていることが分かる実験的かつ挑戦的なものとなった。

 あらゆるキャリアのアイドルにとって最重要場所である、日本武道館。そこに立つまでになにをやるべきなのか。そこに立った後、どんな成長を遂げるのか。アイドルそれぞれの活動に期待したい。

※1 https://www.exwhyz.jp/news/detail/8584

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