ももいろクローバーZ 百田夏菜子、15年間背負い続けるアイドルとしての覚悟 俳優業も順風満帆な近年の活動を振り返る
映画『すくってごらん』で見せた物語の把握力
たとえば映画『ブラックパンサー』(2018年)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022年)の日本語吹替版で、王国・ワカンダの王女であるシュリを演じた際、鑑賞中は一瞬たりとも「ももクロの百田夏菜子だ!」と感じることはなかった。ドラマ『ながたんと青と -いちかの料理帖-』(2022年/WOWOW)で見合いを投げ出して別の男性と駆け落ちする桑乃木ふた葉に扮した際は、その身勝手さが実にリアルに映ったほどだ。
特にすばらしかったのが、映画『すくってごらん』(2021年)である。百田は、東京から奈良へ左遷された元エリート銀行員・香芝誠(尾上松也)が一目惚れする相手・生駒吉乃役を務めている。そして、理由があって人前でピアノが弾けない彼女の“外の世界へ出ていけない内面性”を丁寧に体現した。映画の主題となった“金魚すくい”のように、誰にもすくってもらえず水槽の中をさまよう金魚のような“迷い”や“模索”が、そのキャラクターから感じられた。主題と役のあり方がしっかり交わって見えたのは、百田の“物語の把握力”があったからではないか。また誠は、吉乃への憧れが高まり、ある種、神秘な目で彼女を見る。そういった現実離れしたムードも百田は劇中で漂わせていた。すべてにおいて、生駒吉乃として映画の世界の中できっちり生きていた証があった。
2022年には『僕の大好きな妻!』(東海テレビ・フジテレビ系)で連ドラ初主演を担当。発達障害と診断された女性を演じ、夫婦でさまざまな難題を乗り越える姿が印象深かった。同作のように百田は、演じるうえでの深い想像力であったり、リサーチがより求められたりする難役にも次々とチャレンジ。それは映画、ドラマ、舞台などの関係者の信頼が厚いということなのではないか。
ももクロと女優業の両立「ふたつの仕事に挟まれる怖さ」
ただ重要なのは、これだけ女優として評価を獲得していても百田自身、あくまで自分はももクロ=アイドルという前提を崩していないところだ。書籍『ももクロ裏伝説』(2017年/扶桑社)のなかで百田は、『べっぴんさん』のオーディションの際、「途中までは本気で(役を)取りに来てる感じがしなかった」と指摘されたという。百田はそれが自分のダメなところであると前置きしながら、「グループってものを常に考えちゃったりすることもあって、なんか、本気に見えないときがあるみたい」と語っていた。それを課題視していたが、それだけ百田にとってももクロは大きな存在なのだ。
雑誌『OVERTURE』2016年12月号では、『べっぴんさん』の撮影とももクロの活動を両立させるために慌ただしい毎日を送っていたことを振り返り、当時の状況について「気持ちがすごく慌ただしくて。なんていうの、『気持ちの戦争』がハンパない、みたいな」「ふたつの仕事に挟まれる怖さ、みたいなのもあって。それが毎日、続いていくわけじゃないですか? なんかね、なにをやっても終わらないかんじがしちゃって」とかなりギリギリだったそうだ。ただなんと言っても、何度ピンチに陥っても全力のパフォーマンスで乗り越えてきたももクロのメンバーである。そういった経験に後押しされて、活動状況がかなりハードになっても「一流」の姿勢で臨めているのではないだろうか。
百田は近い将来、間違いなく女優としてさらなる評価を獲得することになるだろう。ただいつまでもきっと、作品のクレジットには彼女の名前の後ろに「(ももいろクローバーZ)」とついているはずだ。
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