yama、デビュー時から変化したライブへの向き合い方 自らの手で掴み取った人前で歌う意義

yama、変化したライブへの向き合い方

 2020年4月にリリースされた初のオリジナル曲「春を告げる」で一気にブレイクを果たしたyama。その後も「麻痺」(作詞・作曲/TOOBOE)、「世界は美しいはずなんだ」(作詞・作曲/大木伸夫)などの話題曲を次々と発表する一方、2021年からはライブ活動を精力的に行ってきた。デビュー前はまったくライブの経験がなく、「ライブの意味がよくわかっていませんでした」というyamaは、葛藤や不安を抱えながらも、オーディエンスと正面から向き合い、人前で歌うことの意義を自らの手で掴み取ってきたのだ。

 今回のインタビューでは“yamaにとってのライブとは?”にフォーカス。ライブに対する意識の変化をyama自身が赤裸々に綴る貴重な内容になったと思う。さらに表題曲がTVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2オープニングテーマに起用されたニューシングル『slash』についても語ってもらった。(森朋之)

ACIDMANのステージを観たことをきっかけにライブに向き合えるようになった

yama

――yamaさんは2018年に活動をスタート。当初はライブを行うことをまったく想定していなかったそうですね。

yama:はい。そもそも人前に立つことへの恐怖があったのと、一発勝負の歌に対する自信がなかったんです。宅録は何回でもやり直しできるし、納得いく楽曲を聴いてもらえるじゃないですか。ライブは作品として残るわけではないし、その場にいる人しか聴けないものにどんな意味があるんだろう? と。ライブに行ったこともなかったし、楽しみ方もまったくわかってなくて。家で録音したものを発信できればそれでいいと、その時点では思っていました。

――2020年4月にリリースした初のオリジナル曲「春を告げる」がヒット。大きな注目を集めるなか、10月に初めての配信ライブ『Versus the night』を行いました。コロナ禍でほとんどライブが行われていなかった時期ですね。

yama:そうなんですよ。スタッフの方から「今はお客さんが入れられないし、配信ライブをやってみませんか?」と提案いただいて。その話を聞いたときも、「自分には無理です」って言ってたんですよ。ライブ当日もすごく緊張していて。「生歌を聴いた瞬間にガッカリされるんじゃないか?」という不安もありました。自分の歌を審査されているような感覚があったというか……。今振り返ってみると、そんなネガティブな気持ちで見ている人は少なかったと思うんですけど、当時はとにかく怖かったですね。

――そして2020年12月にはYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で「春を告げる」を披露。

yama:やっぱり緊張感がありましたね。映像ではたぶんわからないと思うんですけど、ずっと膝がガクガクしていたし、身体が震えたんですよ。あのとき初めて仮面をつけて歌ったんですが、それも不安で。その頃、顔出ししないで「THE FIRST TAKE」に出ている方はいらっしゃらなかったし、「顔を見せろよ」って言われるんじゃないかと思っていたので。ただ、見てくれた方々はそこまで気にしていなかったというか、コメントも歌に関することが多かったのはよかったですね。

yama - 春を告げる / THE FIRST TAKE

――なるほど。2021年の秋には1stアルバム『the meaning of life』を携えた全国ツアーを開催。初の有観客ライブの手ごたえはどうでした?

yama:最初はやっぱり不安でしたね。お客さんを見られなくて、ずっと下を向いて歌っていたし、前を向いているときも目をつぶっていたり。全部で12公演だったんですけど、「今日はダメだった」「今日は上手くいったんじゃないかな」を繰り返してました。ちょっとずつ慣れていって、ライブ自体のクオリティが上がっている感覚もあったんですけど、最後のZepp Divercity (TOKYO)が全然上手くいかなくて。

――上手くいかなかったのはコンディションの問題ですか?

yama:コンディションが何を指すのかにもよりますけど、そのときはフィジカル的にも精神的にもよくなかったです。なんとか成立させたかったし、ちゃんとツアーを走り切りたいという気持ちでガムシャラにやったんですけど、上手くいかなくて。「ここまで少しずつ積み重ねてきたのに、最後のライブで自分は何も残せなかった」と思って……。もちろんお客さんはそんなことは思ってないでしょうし、楽しんでくれたと思うんですけど、自分としては「もっとやれたはずだ」という気持ちだけでした。そこで心がポッキリ折れて、挫折しそうになってしまって。「自分は人前で歌うことに向いてないんだな」ってずっと悩んでましたね。

――挫折を経験しながらも、ライブを継続できたのはどうしてですか?

yama:周りの方の力が大きいですね。スタッフの鼓舞だったり、ファンのみなさんの応援の言葉を受け取ることで、「やっぱり続けよう」と思えたので。最初が配信ライブだったのも、結果的には良かったのかもしれないですね。いきなり有観客で、しかも声出しOKだったとしたら、こんなに続けられなかったかもしれない。配信ライブ、声出しなしで拍手だけのライブという感じで、段階を踏みながら慣れていけたので。あと、他のアーティストの方のライブを観るようになったのも大きいです。客席にいると、お客さんの心が動いているのがわかってきて。ライブの時間は短いですけど、その一瞬がすごく濃いし、ずっと脳裏に焼きつく。だからこそ「またライブに行きたい」って思うんだなって、だんだん気づいてきたんです。去年の5月にACIDMANと東名阪で対バンツアーをやらせてもらったんですけど、1日目のライブは自分としてはあまり上手くいかなくて。2日目はACIDMANのライブをちゃんと観ようと思って、客席にいたんですよ。そのライブが本当に素晴らしくて、涙が止まらなくなってしまって。楽曲はもちろん、大木(伸夫)さんが紡ぐ言葉や歌っている瞬間、空間全体を含めて、めちゃくちゃ感動したんです。そこから自分のなかで何かが動き出して、しっかりライブに向き合えるようになった気がしますね。

yama

――フェスやイベントでも、他のアーティストのライブを観ているんですか?

yama:なるべく観るようにしています。それぞれライブのやり方が違うし、みなさん、ご自分のスタイルがあるんですよね。それを真似してもしょうがないし、自分のやり方を見つけないといけないなと。自分は仮面を被っていることもあって、近寄りがたいというか、クールなイメージもあると思うんですよ。でも実際は弱い部分もあるし、不安や怖さを抱えながら、もっと成長していきたいと思っていて。そういう部分も伝えていけたらいいなと思ってます。言葉も大事にしたいんですよね。「メディアで言わないことも、ライブではしっかり伝える」みたいなギャップがあってもいいのかなと。

――昨年の全国ツアー『“the meaning of life” TOUR 2022』のファイナルも、前年と同じくZepp Diver City(TOKYO)。yamaさんにとってはリベンジの意味合いもあったと思いますが、振り返ってみるとどんなライブでしたか?

yama:完璧にできたというわけではないですが、伝えたいことは伝えられたなって。歌が上手いとか下手とかは関係なく、お客さんと自分がつながっている瞬間が絶対にあったと思っていて。大事なのはそこなんですよね、やっぱり。ずっとピッチやリズムに固執していたし、ちょっと外れるだけで「何やってんだ」って気になってしまって。でも、自分の失敗を気にしているうちはいいライブなんてできないんですよ。いちばん大切なのはどれだけ心で歌えるか。ただただ懸命に、音楽と言葉を伝えることなんだなって。そこに気づけたのはよかったですね。あと、ライブを一緒に作り上げる、一緒に楽しむという感覚もありました。1年目はみなさんが見守ってくださっているような雰囲気だったし、自分もちょっと構えていて。ステージとフロアの間にアクリル板があるような感じで(笑)。去年はそういう壁がなくなって、みなさんと一緒に盛り上がったので、ぜんぜん違いましたね。

――MCで「いただいた愛を返さないと」と発言する場面もありました。

yama:いつも思うんですけど、ライブってすごくエネルギーをもらえるんですよ。みんなの意識が入り込んでくるというか、自分のことを応援してくれていること、音楽を聴いて感動してくれていることも伝わってきて。そのことで自分自身も救われるし、「音楽をやっていてよかった」と思える瞬間なんです。去年のツアーでも「自分は愛をもらってばかりじゃないか」と思ったし、それが「返さないと」という言葉になったんだと思いますね。

――今年の春もフェスやイベントなどに数多く出演。ライブに対するモチベーション、かなり上がっているのでは?

yama:そうですね。今やライブが生きがいというか、「音楽をやってるな」と実感できる瞬間なので。もっと良いライブにしたいという気持ちも強くなってるし、何より楽しいんですよ。もちろん課題はいっぱいあるし、スタッフの方から「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」と意見をいただくこともたくさんあって。自分も常に「こうしたらもっと良くなるかな」と考えているし、1本1本、ちょっとずつ階段を上がっている感じです。ライブを始めてからまだ2年くらいなので、まだまだ未成熟なんですよ。でも、がむしゃらに歌っている姿を見てもらうことで、何かを感じてもらえたらなと……。あと、先輩方に対バンやイベントに誘ってもらえるのも本当にうれしくて。もしかしたら「こいつ、頑張ってるな」とか「ライブにちゃんと向き合ってるな」って思ってもらえたのかもなって。

――当然ですけど、「この人と一緒にやりたい」と思わないと呼ばないでしょうし。

yama:むちゃくちゃ嬉しいですね。Def Techさんのツアーにも呼んでいただいたんですけど、それはフェスでご一緒したことがきっかけで。そのときにMicroさんにご挨拶して、温かい言葉をかけてもらったんです。だからこそ、対バンツアーに誘ってもらえたことがありがたかったし、頑張ってきてよかったなって。「ちゃんとしたライブをやらないと、次はないだろうな」というプレッシャーもあるんですけど、自分ができるのは懸命に歌うことだけなので。

――5月には初のアコースティックツアー『夜と閃き』を開催。まさに生の歌声を伝えるツアーになりそうですね。

yama:そうですね。『Versus the night』という配信ライブシリーズを続けてきたんですが、次の章、新しい章に進みたいと思って。「夜と対峙する」という感覚はずっとあるし、孤独みたいなものも解消されていないんだけど、「暗闇のなかで見えた一瞬の光を表現してみたいです」と伝えたら、スタッフさんが「アコースティックツアーはどうかな?」と提案してくれたんです。なのでタイトルが『夜と閃き』なんですよ。暗いところを歩き続けるなかで、一瞬、パッと光る瞬間がある。「トンネルの先に光が見える」まではいってないし、希望を見つけたとも言えないんだけど、一瞬の光を記憶に刻みながら歩いていきたい、と。自分にとっては、ライブがまさにそうなんですけどね。

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