梅田サイファー、『RAPNAVIO』に感じる風通しの良さ ラップスキルはそのままに“油っぽさ”を削いだメジャーデビュー作

梅田サイファー最新作の風通しの良さ

 3月29日、アルバム『RAPNAVIO』でついにメジャーデビューを果たした梅田サイファー……というか、未だに梅田サイファーがインディーだったことに驚かされる。たしかに、20年前ならいざしらず、現在においてはメジャー/インディーに境目はほとんどなく、インディーであってもYouTubeやSNSでのバイラルヒットを通して、スターダムに躍り出ることも珍しくない。しかし梅田サイファーに目を移せば、「Creepy NutsのR-指定」という押しも押されもせぬ現在の音楽シーンを代表するラッパーを擁し、梅田サイファーとして参加したTHE FIRST TAKE「梅田ナイトフィーバー’19 ,トラボルタカスタム ft. 鋼田テフロン / TFT FES vol.3 supported by Xperia & 1000X Series」は3000万回再生に迫る勢い(2023年3月27日現在)、昨年は『キングオブコント2022』(TBS系)のオープニング曲「KING」を書き下ろすなど、梅田サイファーの活動性と遠心力は、インディーズという範疇では収まりきれないほどの強さを持っていた。故に、まだ立場としてはインディーであったことには驚かされるし、今回はその「強さ」がメジャーに認められたということになるだろう。

梅田サイファー - 梅田ナイトフィーバー’19 ,トラボルタカスタム ft. 鋼田テフロン / TFT FES vol.3 supported by Xperia & 1000X Series

 その強さとはなにか。やはり「ラップスキルの高さとバラエティの豊かさ」だろう。R-指定、ILL SWAG GAGA、KZ、KennyDoes、KOPERU、KBD a.k.a 古武道、コーラ、テークエム、teppei、pekoという10人のMC、そしてラップでも参加するトラックメイカー/エンジニアのCosaqu、DJのSPI-K、デザイナーのHATCHというコングロマリットとして構成される梅田サイファー。そもそもがソロMCが集まって結成されたという流れや、参加するメンバーは固定ではなく楽曲によって異なるという作品構成、そして外部プロデューサーの起用に加えてユニットの中にも複数名トラックメイカーが存在するという手の広さといった様々な要因によって、梅田サイファーの楽曲群は同じグループ/ユニットの楽曲とは思えないほどのバラエティを持っている。そして、それらが組み合った時に起きる融合や摩擦から発生する彼ら独特の「スリル」が大きな魅力であるだろうし、それが彼らに注目が集まる理由とも言えるだろう。

 ユニットとしての最初期作の『See Ya At The Footbridge』(2013年)、そして「マジでハイ」が収録された『Never Get Old』(2019年)や、前述の「トラボルタカスタム」が収録された『トラボルタカスタム』(2019年)、梅田サイファーの総力戦といった風情の作品となった『ビッグジャンボジェット』(2021年)などの作品リリースを重ねてきた梅田サイファー。またその間には多くのメンバーがソロやユニット作をリリースし、気を吐いてきたことを知るリスナーも多いことだろう。

 そしてメンバーの再構成を含めた新体制として、またメジャー進出作となった新作『RAPNAVIO』についてまず感じるのは、その風通しの良さだ。もちろん、これまでの梅田サイファーの作品も、リスナーの理解を拒むような過度に自己撞着的だったわけではない。しかし、これまでの梅田サイファーのインタビューや、R-指定の著書『2022年日本語ラップの旅-Rの異常な愛情 vol.2-』(白夜書房刊)での「梅田サイファー」の項目でも話される通り、「楽曲を通して、梅田サイファーのメンバーに対してカマしたい」ということが、彼らの制作の一つのモチベーションとして、そしてアイデンティティとして存在していたという。奇しくも「輪になる」という意味を持つ「サイファー」という言葉が表す通り、自ずとそのラップの向かう先は輪の内側へと、そして仲間内へと向いていたということだろう。

 梅田サイファーは、同郷(大阪/関西という広い枠組みでは同郷であるかもしれないが、ミニマムな「地元文化」を共有するわけではない)といった「共通認識」を持つわけでも、幼なじみといった「共有意識」を持つわけでもない。「サイファー」という文化の中で交差したメンバーにとって、「共通言語」は「ラップ」「ヒップホップ」に収斂されていく。そして、ちょうど子供の語彙力が増えるように、そして語彙力が上がることで表現力が広がるように、「共通言語としてのラップ」がビルドアップされることで、梅田サイファーとそのメンバーは進化を果たしてきた。そしてそのビルドアップには、これも言語と同じように「コミュニケーション」、梅田においては「サイファー」という行為が欠かせなかったであろうことは想像できる。畢竟、制作でもその構成力とスキルを高めるために、サイファー的な、「メンバーにカマす」という、内向きのコミュニケーションは必要だったのかもしれない。また、ラップにおいて、いわゆる「属人的な物語」よりも、ラップならではのライミングや、リリックの構成力という「ベーシックなスキル」が、梅田サイファー作品においては重視されるので(各メンバーのソロ作ではその限りではない)、より「スキルを磨く」という方向に重心が置かれていた。

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