Phoenix、最新アルバム『Alpha Zulu』美術館での制作に引き出された感情と創造性 ゴダールやYMOからの影響も語る
パリ近郊のヴェルサイユで育った4人で結成されたロックバンド、Phoenix。2000年にデビューアルバム『United』を発表、ギターロック、エレクトロ、ソウルなどを融合させたサウンドで注目を集め、AIRやDaft Punkとともに2000年代のフランス音楽シーンを代表するバンドとして支持を得た。さらに4thアルバム『Wolfgang Amadeus Phoenix』が第52回グラミー賞で「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」を受賞し、世界的な人気を獲得するに至った。
昨年の11月には、最新アルバム『Alpha Zulu』をリリース。Vampire Weekendのエズラ・クーニグが参加したリードトラック「Tonight (feat. Ezra Koenig)」を含む本作は、ルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館で制作された。彼らのルーツである80‘sのエレクトロポップに回帰しつつ、パンデミックのなかで得た感情も反映され、豊かで深淵なポップアルバムとなっている。
リアルサウンドでは、メンバーのトーマス・マーズ(Vo)、ローラン・ブランコウィッツ(Gt/Key)にインタビュー。『Alpha Zulu』の制作をフックにしながら、ジャン=リュック・ゴダール、Yellow Magic Orchestra(以下、YMO)など、彼らがインスパイアされてきたアーティストについても語ってもらった。(森朋之)
「Alpha Zulu」は、混沌とした様子が現れている
ーー最新アルバム『Alpha Zulu』を携えたツアーの調子はどうですか?
トーマス・マーズ(以下、トーマス):すごくいいよ。やっぱり新譜の曲を演奏するときが一番ハッピーなので。
ーー『Alpha Zulu』はルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館でレコーディングされたそうですね。
トーマス:フランスは文化があらゆるところで密接につながっていて。自分たちがアルバムのレコーディングの場所を探していたときに、美術館のほうでもレジデンシー(アーティストインレジデンス/ある場所に一定期間滞在し、常時とは異なる環境で作品を制作すること)を探していたという偶然があったんだよ。画家や作家などを探していたとは思うんだけど、僕たちはどんな場所でもスタジオにできるという特技があるので(笑)、申請してみたら受理されたんだ。
ーー普段の制作環境とはかなり違っていたと思いますが、レコーディングはどうでしたか?
トーマス:もちろん環境は違うんだけど、僕らはヴェルサイユで育っているし、実家でレコーディングしていた時期もあるので、(美術館と)似たような雰囲気だったりするんだよね。なのでミュージアムでレコーディングすることも特に違和感はなかったかな。それよりも世界中がパンデミックに陥ったことが大きかった。ルーヴル美術館自体もクローズしていたし、その空間のなかには自分たちしかいなくて。とても奇妙な状況だったんだけど、クリエイティブは研ぎ澄まされていたんだよね。エンハウス(拡張、性能向上)された状態というか、みんなの感情も創造性も爆発的で、ものすごいスピードで作詞・作曲、レコーディングが進んでいったんだ。
ローラン・ブランコウィッツ(以下、ブランコ):そうだね。セルジュ・ゲンズブールが「ただの青空を撮影してもつまらないが、そのなかにある雲にフォーカスすると、美しい写真が撮れる」という言葉を残していて。レコーディングの時期を振り返ると、自分もまさにそういう状況にいたなと思いますね。恐ろしい状況ではあるんだけど、ある部分に焦点を当てたり、客観的に物事を捉えることで、とても美しいものを見つけられるというか。
ーーなるほど。タイトルトラックの「Alpha Zulu」は、まさにそういう状況を表した楽曲ですね。
トーマス:うん、まさに美術館のなかにいた自分たちの感情がそのまま出た曲だと思う。「Alpha Zulu」は、いろいろと曲を作っていくなかで、「この曲は絶対にアルバムに入る」と確信した1曲でもあって。ホワイトボードに曲目を書いていたんだけど、「Alpha Zulu」はずっと真ん中にあったし、アルバムのタイトルになったのも必然だったのかなと。自分たち以外、誰もいない美術館の雰囲気ーー真っ暗な部屋に美術品が保管されていて、とても不思議な空間でありながら、同時にとても自由で。ディストピアのような悲しい状況で、大きな困難に見舞われているのに、すごく静かでピースフル。そういう混沌とした様子が現れている曲なんだと思う。
ーー「After Midnight」を先行リリースした際は、「友人たちの集団が美術館を駆け抜け、お構いなしに過去の芸術史に残る宝物を散らかすのを見て、まるでゴダールの映画『はなればなれに』(1964年)のようだと思った」とコメントしていましたね。
トーマス:そう、『はなればなれに』にも誰もいない美術館を走るシーンがあって。自分たちが置かれた状況とつながっていたんだよね。
ーージャン=リュック・ゴダールは昨年9月に逝去。トーマスさん、ブランコさんにとってはどんな映画監督でしたか?
トーマス:もちろん巨匠だし、本当に素晴らしいアーティストだと思う。シネマトグラフィもそうだし、映像の色遣いやコンセプト、言葉選びなどすべてにおいて彼にしかできないユニークな作品ばかりだなと。フランスのアーティストはみんなすごく影響を受けているんじゃないかな。Phoenixのアルバムで『Wolfgang Amadeus Phoenix』という作品があって。このタイトルはモーツァルトからきているんだけど、ゴダールの「フォーエヴァー・モーツァルト」も意識していたんだよね。とにかく彼は何もないところから何かを生み出す天才だった。
ブランコ:タイポグラフィーにもすごく長けている人で、 僕も学生の頃、ものすごく勉強した記憶があって。
ーー日本でもとても人気があり、評価されています。
トーマス:わかる気がする。ゴダールはすごく細かいディテールまで気を配る映画監督だったし、シンプルなところに美学を生むセンスも持っていたから、日本人がアプリシエイト(正しく評価、理解する)する存在だったんじゃないかなと。