Karin. 高校生デビューから『純猥談』ブレイクを経て訪れた転換期 他者との繋がりが導くシンガーソングライターとしての新境地

Karin. 20代で見せた成長

 『純猥談』の物語に寄り添う形で生み出された「二人なら」は、必然的に、Karin.が自分以外の他者の人生について書き上げた歌となった。この楽曲を一つの契機として、次第に彼女の創作の方法論に変化が芽生え始めていく。

 例えば『私達の幸せは』収録曲の「星屑ドライブ」は、Karin.が敬愛する小説家の三浦しをんの作品からインスピレーションを受けて制作した楽曲である。また、そうした楽曲制作面における変化はサウンドプロダクションにも影響を与えており、近年はTomoLow、高野勲をはじめとした多様なプロデューサーを迎えて楽曲を制作するケースが増えてきた。

 自分のために曲を作る、という創作の原点は大きくは変わっていないが、様々なアレンジャーを迎え入れることで、自分以外の他者の方向を向いて作る楽曲が少しずつ増えている。「息を止めて」「結露」は、Karin.本人の希望で「星屑ドライブ」で制作を共にした村山☆潤にアレンジしてもらうことを見据えて制作した楽曲だという。村山とのタッグによって生み出された楽曲たちは、結果としてこれまでの曲よりもポップなテイストが強いものになった。

 三浦しをんの対談インタビューでKarin.は、「信じなければ裏切られることはないのだから、私はなにも信じないぞという気持ちでいたんです」と高校時代の自分を振り返っている(※1)。それは「空白の居場所」の冒頭の歌詞と通じるものがあり、彼女にとって何かを信じること、他者と信頼関係を結ぶことはある種の怖さを伴う行為なのではないだろうか。これまでの彼女は“真の意味で他者と分かりあうことはできない”というテーマを抱え続けていたように思うが、〈孤独だってみんな知って/今日だって生きてるんでしょう〉という言葉で締め括る「息を止めて」で“人は孤独”という真理を受け入れながらも、2ndライブツアーのタイトルにもなった「空白の居場所」では出会いによって、自身の存在意義を見出すという彼女の心の動きが伝わってくる。

 このように彼女は、自分自身の孤独と向き合い続けてきた10代を経て、それまで以上に他者との繋がりを積極的に求め、創造性を開花させ続けてきた。もちろん、2度にわたるライブツアーを通してリスナーと直接的なコミュニケーションを重ねていった経験も大きかっただろう。そして、そうした豊かな道のりを歩む中で生まれた楽曲たちを束ねたのが、今回リリースされた新作『私達の幸せは』である。これまでの彼女の楽曲は「私の」という一人称を想起させることが多かったが、今作、および、リード曲には、「私達の」という複数形の主語が冠されている。これは、些細ではあるが決定的な変化の表れである。

 彼女は、1月18日、自身のTwitterで、次のように投稿していた。

「20代初めてのアルバムは、自分の心の内側だけではなく、人の優しさを紡いだ作品を中心に制作しました。」

 本人が意識的なことからも明らかなように、『私達の幸せは』は自らの心の内側から一歩踏み出し、その先に広がる世界と繋がることを目指した初めての作品となった。それはまさにポップミュージックの本質であり、ここから彼女は今まで以上に多くのリスナーとの繋がりを希求しながら、「私達の幸せ」を共に探し続けていくのだろう。

※1 https://realsound.jp/2022/06/post-1047217_3.html

『私達の幸せは』ジャケット

■リリース情報
2023年3月1日(水)発売
Karin.4th Album『私達の幸せは』
価格:3,300円(税込)

【収録曲】
01. 私達の幸せは
02. 二人なら
03. 星屑ドライブ
04. 幸せを願えてたら
05. 息を止めて
06. 貴方に会いたいのに
07. 初恋は
08. 永遠が続くのは
09. 717
10. 会いに来て
11. 空白の居場所
12. 結露

■関連リンク
Karin. Official HP:https://karin-official.com/
Karin. Official Twitter:https://twitter.com/_Karin_official
Karin. Official YouTube:https://www.youtube.com/c/KarinYouTubeChannel
Karin. Official TikTok:https://www.tiktok.com/@_karin_official

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる