グソクムズが教えてくれた日常と地続きにある音楽の豊かさ 『陽気な休日』携えた渋谷WWWワンマン
1曲始まるごとに空気と景色が変わり、1曲終わるごとに「全部いい曲じゃないか」という確信を強めてくれる。メンバー全員作詞作曲ができるというだけでなく、全員が演奏で“歌っている”のも強みなのだろう。自ずと笑顔になってライブハウスを後にする、そんなライブをグソクムズは自身最大のキャパシティとなる2月4日渋谷WWWワンマン公演で見せてくれたのだ。
この日は昨年12月にリリースしたニューアルバム『陽気な休日』のリリース記念ライブでもあり、1曲目はアルバム同様「風を待って」。たなかえいぞを(Gt/Vo)のバリトンボイスが〈Baby〉という歌い出しの難しいワードを遠くに放つように伸びることにまず鳥肌が立つ。淡々としているのに深く浸透する声だ。さらに加藤祐樹(Gt)のリバーブの効いたフレーズが空気を突き通して響く。彼のジョニー・サンダースやおとぎ話の牛尾健太にも似た、ロックンロール・ギタリスト然とした佇まいが意外性があって凝視してしまう。ギブソンのレスポールJr.を弾いているせいもあるかもしれない。WWWの階段状の作りのおかげでメンバー全員がどんなプレイをしているかつぶさに見えることも、よく練られたアンサンブルを耳と目で確かめられて幸運だ。堀部祐介(Ba)が次の「バスが揺れて」にフレーズを繋いでいく。曲の多彩さは早くも3曲目の「笑い声の方へ」で訪れた。中島雄士(Dr)のスローなキック&スネアはヒップホップテイストだが、ギターが入るとダブのムードを纏い、サビでメジャーに転調し、しかもフォークロック風になる。とても意外性があるのだが自然だ。一転、8ビートで堀部のシンプルなルート弾きと上空を駆けるようなギターの対比がライブでさらに可視化された「冷たい惑星」へ。この曲はなんと言っても二段階で上昇してくサビのメロディとサビ中での転調。長いメロディだからこそ物語と情景の両方が込められるというアイデアなのかなと思いながら、気持ちが持っていかれる。「笑い声の方へ」も「冷たい惑星」も加藤が手がけた曲だが、この幅とアイデアがアイデア倒れにならないのはたなかの自然な発声があってこそだ。ライブでも明確に歌詞が聴こえる。
MCでは一転、部室のような素の会話が交わされるのも、個人的には信頼度が増す要素だ。大体、たなかの発言を中島が「すべってる」と指摘するかスルーするかのどちらかだったが。
リフですでに名曲感が漂う「冬のささやき」は海外ならWilco、日本だとスピッツのようなメロディとアンサンブルの美しさ。音源よりAOR色を強く感じた「夢にならないように」は堀部、中島のコーラスワークも冴える。大人のセンシュアルな表現とコード感は中島が手がける曲の特徴のようだ。かと思えば、ネオアコっぽいコード感やサウンドを持つ「けやき通り」、セカンドライン調のリフから始まり、たなかのボーカルが入るとグッと70年代シティポップスのニュアンスのメロディが心地よい「もうすぐだなぁ」など、ジャンルの振り幅の広さを改めて実感する。いずれの曲からも先人の素晴らしい音楽の要素がふわっと立ち上がるのだが、それが4人の中で厳しくジャッジされ、消化されているから、演奏される曲ごとに小さく感嘆の声を上げてしまう。演奏に集中すればするほど心地よいせいか、オーディエンスの反応は演奏が終わった際の拍手にとどまり、MCではクスクス笑いが起きる。誰も無理をしていない会場の居心地のよさったらない。
フロアの空気も和やかになったところにモータウンソウル調の「夏が薫る」、近い温度感の「肩透かし」と1stアルバムからのナンバーが続き、Aメロの後ろノリのビートにクエストラブっぽさを感じてニヤニヤしてしまった中島作曲による「シェリー」と続く。ベースの聴かせどころもあり、曲中にいきなりたなかが「あ、この人、ベースの堀部です」と告げ、そのままメンバー紹介へと突入(別にソロ回しがあるわけではない)。そして格別にメロウな風が吹くような「獏に願いを」へ。〈足りない夜身悶えて〉というエモーションを〈貘に願いを〉というユーモアへ接続するたなかのワードセンスが独特なのに腑に落ちるのは、彼のまっすぐに歌ってもまろやかな声のせいだろう。どんなテーマや単語を歌ってもバンドのものになるのは彼の声に拠るところが大きい。