初音ミク、キズナアイ、『アイドリッシュセブン』……モーションアクターの仕事とは? 奥山敬人&荒木結花が語り合う

VTuber、アニメ……それぞれの振り付けにおける工夫

――奥山さんは『アイドリッシュセブン』の楽曲の振り付けも行っていますが、その際に特に意識していることはありますか?

奥山:『アイドリッシュセブン』はすごくストーリーに沿った曲が多いんですよ。僕が初めて振り付けを手がけた「RESTART POiNTER」(IDOLiSH7)という曲は、センターの七瀬陸くんが一時離れていたセンターに戻ってきたときのというまさにリスタートの1曲なんです。振り付けにもストーリー性を持たせて作ることを意識しましたね。僕自身も『アイドリッシュセブン』の振り付けをする中でアイドルたち、そして作品と一緒に成長させてもらっています。それは本当にありがたいですね。

――荒木さんは先ほども言っていた通り、キズナアイさんや星街すいせいさんなど、VTuberのライブでの振り付けを手がけることも多いですが、どんなことを意識していますか?

荒木:アーティスト本人がそのライブをどう作りたいかということを一番大事にしています。私は「それを表現するためにはこう動くのが効果的ですよ」という形でサポートしている感じですね。例えば最近だとバーチャルアーティストのライブでもリアル会場のライブ、XRライブ、VRライブとか種類もいろいろあって、それぞれライブとしての見せ方が結構変わってくるんです。そういった知識をアーティストの子たちに伝えて、いいライブをできるように向き合う感じですね。

――発表の場によって表現も変わるんですね。

荒木:全然違いますね。目の前にお客さんがいるのかカメラなのかという違いも大きいですし。あとこれもバーチャルアーティストならではなんですが、歌うために息を吸うとき、生身のアーティストの場合だと表情や空気の動きで息を吸っていると分かるんですけど、バーチャルだと表情のパターンが限られていることもあって、息を吸っても固まっているように見えちゃうことがあるんです。なので息を吸うモーションをも振り付けの中に組み込むこともあります。そういう工夫をして、聞こえてくる声と目の前にいるキャラクターの動き、つまり視覚と聴覚を一致させるようにしてますね。

――バーチャルアーティストならではですね。

荒木:リアルな人間だと汗をかくし、お化粧や髪の毛も崩れたりするけど、バーチャルアーティストはいつも綺麗じゃないですか。ライブでお客さんと一緒の時間を過ごす時は、後半動きが荒ぶったり疲れて動きが少なくなったり、そういうところも含めて時間を共有している感覚を楽しんでもらえるといいなと思っていますね。もちろん、そのバーチャルアーティストの子が「最後まで元気で可愛く頑張りたい」って言ったら「可愛くしよう!」ってなるし、それぞれの希望に合わせてはいますが。

奥山:ライブならではの工夫もたくさんあるんですね。僕は結構振り付けを考えるのに時間がかかるタイプなんですけど、荒木さんは行き詰まることとかありますか?

荒木:あります! 私もどちらかというと時間がかかるタイプだと思います。あと私はすごく感覚的なタイプなので振り付けを考えるときも座って頭の中で考えるんですけど、いざ体を動かしてみると難しいこともあって。頭で作って動いて、違うなあと思ってまた座って考えて、っていう感じなんですよね。

奥山:そうなんですね。僕は音を流しながら何回も動きをリピートして、行き詰まりながら作ってます。

荒木:苦しいですよね! 分かります(笑)。

――振り付けの考え方も全然違うんですね。ではお2人の中で、特に印象的だった振り付けやモーションアクターのお仕事は?

奥山:今発売している『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のモーションをやらせていただいたのは感動しましたね。『ポケットモンスター』シリーズは僕が小さいときから好きだった作品なので、まさかこの仕事ができるとはという驚きがありました。こういう形で携わることができて幸せでした。

荒木:私はやっぱりキズナアイちゃんの1stライブ(『Kizuna AI 1st Live “hello, world”』)ですね。私にとっても今のバーチャル系のお仕事に繋がるきっかけになるライブでしたし、VTuberとしても世界初のワンマンライブと言われていたので、みんなで試行錯誤しながら作り上げたすごく印象に残っているライブです。

――荒木さんはダンサーとして、奥山さんは声優としてモーションアクター以外の分野でも活躍されていますが、それぞれの仕事の面白さや影響を受け合ってる部分はどんなところですか?

奥山:影響は大きいですね。モーションアクターをしているとき、自分でガイドとして喋った後に声優さんにキャラクターの声を入れてもらうこともあるんですけど、そういう場面では声優の経験が活かせています。逆に声優の仕事をするときに「この動きはここに力が入ってるから、声を出すときはお腹にも力が入ってこういう声が出る」という考え方ができるので、相乗効果というか。どちらにも活きていますね。

荒木:声優とモーションアクター、どちらもできるなんて最強ですね! 私の場合、バックダンサーをしているとアーティストさんを近くで見ることができるんです。奥山さんのように声と動きのリンクを考えるというよりは形から入るんですけど、近くで実際の動きを見られるのはモーションアクターに活きている部分だなと思います。「この声のときはどう動いてるんだろう」とか、「どういう風にして歌ってるんだろう」とすごく観察していますね。ダンスなしで歌うだけのモーションアクターの仕事もあるので、歌い方とかもめちゃくちゃ見て、「声を伸ばしてるときはこういう動きをするな」とか、細かく確認できるいい機会になっていると思います。

――お2人がダンスに出会った当初は3次元のアイドルやアーティストが踊ることが主流だったと思いますが、最近はアニメキャラやバーチャルアーティストが踊ることも増えています。そういった変化をどう捉えていますか?

奥山:本当にいい時代だなと思います。やっぱりできることの幅が広がるじゃないですか。例えば人が消えることはできないですけど、2次元であればキャラが消える演出とかもできますし、3次元と2次元のコラボとかもやっていますよね。表現の幅がどんどん広がっていてすごくいいなと思います。映像だったらどこにいても見られるし、どこに行っても流せますし。

荒木:いろんな可能性が広がって本当に素晴らしいですよね。なにより自分がすごく好きだと思えるお仕事に出会えたことが嬉しいです。平面のスクリーンでやっていたライブもXRライブとかになって進化していますし、これからも変化していくんだろうなと思いますね。

――最後に、お2人が今後取り組んでいきたいことや目標を教えてください。

奥山:僕は声優の仕事もしているので、自分のキャラクターを自分で動かして自分で声を当てて、ライブをやりたいですね。これからそういう声優さんも出てくると思うのですが、先駆け的な存在になりたいです。この世界を目指す方はぜひ、ソリッド・キューブのオーディションも受けてみてください。

荒木:さっき触れたように、これからもバーチャルライブは進化していくと思うので、その進化に合わせて柔軟に対応できるモーションアクター、振付師になりたいです。あとはダンスでご飯を食べていくってすごく難しいと思うんですけど、今はモーションアクターや振付師というお仕事も増えて、ダンスを使った仕事の幅も広がったのかなと思うんですよ。なのでモーションアクターや振付師になる若い子たちの育成ができればいいなと思います。これからもいろんなキャラクターの子たちや、キャラクターに関わるいろんな方に出会ってお仕事をしていきたいですね。

※1:https://twitter.com/araki__yuka/status/1568563400736927745

■奥山敬人
ソリッド・キューブ所属の振付師、モーションアクター。『アイドリッシュセブン』関連楽曲の振付ダンスサポートや『初音ミク マジカルミライ』『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』などで振付、モーションアクターも担当。スタイルキューブにて声優としても活躍。

ソリッド・キューブ公式サイト
ソリッド・キューブ広報担当Twitter

■荒木結花
初音ミクやキズナアイをはじめとした様々なキャラクターに携わる仕事を中心に活動。2021年4月に会社を設立し、自身による振付・モーションアクト・ディレクションに加え、振付師やアクターのキャスティングも行う。LiSAダンサーや専門学校講師としても活動中。

荒木結花公式サイト

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