マルシィ、なぜアジア圏で人気に火がついた? 言語の壁を超える巧みなソングライティング&ボーカルの力
吉田右京(Vo&Gt)、shuji(Gt)、フジイタクミ(Ba)によるスリーピースバンド、マルシィが新曲「アリカ」を1月18日にリリースした。日本を中心にアジア圏を巻き込みヒットしている彼らの勢いが、ここでさらに加速しそうだ。
昨年6月に晴れてメジャーデビューを果たしたマルシィは、丁寧に紡がれた日本語詞と、心に響く切ないメロディ、そしてボーカル吉田の美しく繊細な歌声によって人気を集めてきた。とりわけYouTubeでMVの再生数が現在500万回を超える「未来図」は、TikTok内における再生回数が7,000万回を突破。LINE MUSICにおいては2022年のトレンドアワードに選出。さらに台湾をはじめとしたアジア各国でもSpotifyバイラルチャート入りするなど、世界的な広がりを見せている。1stアルバム『Memory』は、毎年全国のCDショップ店員が“本当にお客様にお勧めしたい作品”を選ぶ『第15回CDショップ大賞2023』に入賞。若い世代を中心にTikTokやYouTubeといったデジタル領域でのヒットのみならず、耳の肥えた音楽リスナーにも支持されており、音楽シーン全体で彼らの評価が高まっているのだ。
若者世代の間でバズを起こすラブソングの魅力とは?
そんなマルシィの最大の魅力と言えば、人間の繊細な心の動きを綴ったラブソングである。例えば「未来図」はカップルの歌だが、〈心の奥に潜む怪獣は/僕に任せてよ〉や〈拗ねてるとこさえ愛おしい〉といったフレーズが印象深い。他人と過ごしていれば必ず見えてくる負の部分まで優しく包み込んであげるという、マルシィ特有のリアルな深い愛情表現が綴られている。単なる愛の歌ではなく、相手の存在全体を肯定してあげるような、こうした温かい包容力が聴き手の心をくすぐるのだろう。
一方で今回リリースした「アリカ」は、過去の恋愛から抜け出せない主人公の心の痛みが歌われている。君を失った主人公が探しているのは〈幸せのアリカ〉。心に空いた穴を必死に埋めようと主人公は〈戻らない時計〉に手を伸ばす。終始鳴っている細かなハイハットの刻みは、まるでその時計の秒針を巻き戻してるかのようで切ない。実際にイントロなどでは時計の音が使われており、リスナーに情景を喚起させるマルシィの手腕が見て取れる。全編を通して展開される儚く切ないメロディに、主人公の心の叫びが表れた一曲である。「失恋後に心にぽっかりと穴が空き、それを埋めるために彷徨う」というモチーフ自体は過去のJ-POPでもよく歌われてきた。だが、それをどう表現するかにマルシィの真骨頂が表れていると感じる。
マルシィが歌うのは、恋愛における喜びと悲しみの両方だ。いずれも題材そのものは普遍的でありながらも、表現方法が新鮮なために今の若者やカップル層の心を掴んでいると思われる。つまりは、ラブソングの表現方法をアップデートする存在だと言っても過言ではないだろう。