和久井沙良、様々な出会いの中で生まれた初のソロアルバム ピアニストの枠にとどまらない多彩なクリエイティビティ

和久井沙良、様々な出会いの中で生まれたソロ作

ermhoiとの共作に込めた祈り

——アルバムにはもう1曲、ermhoiさんが参加した「Can I Just Pray」も収録されています。

和久井:この曲はウクライナとロシアの戦争が始まったときに書きました。あの時は個人的にモヤモヤしてたんです。本当に祈ることしかできないし、いち表現者としてちゃんとメッセージを残せたらいいなっていう思いもあって。それをermhoiさんに伝えたら、私も同じ気持ちだよって言われて。そうして私は祈ることしかできないけどあなたの無事を祈っているという思いを込めた曲が出来上がりました。最初は2人だけの曲の予定だったんですけど、より深みを出したいなと思って、バイオリンとチェロを足して、ふくよかな感じのアレンジになりました。ermhoiさんの透き通る響きのある声が合ってるし、すごく美しくて感動的な曲になったと思います。

——ermhoiさんのルーツであるアイルランドや山梨の深い森や湖が見えるようです。そして、5月にリリースしたのがピアノソロでした。

和久井:レコーディングの合間に、「ちょっと私1人で弾きたいです」って言って、ささっと録ったような曲です。自分が前にSNSに上げた即興演奏があって、その即興のフレーズが個人的に気に入ってて、残しておきたいなって思ったんで、そのフレーズをレコーディングスタジオで弾いて、そのまま音源にしたっていう感じです。なので、「Sketch#1」という曲名になっています。

——9月が英語詞のボーカル曲で、mimikoさんを迎えた「Escape」。

和久井:知り合いに「沙良に紹介したい人がいる」って言われて、連絡先を交換して、mimikoのライブに行ったら、めっちゃ良かったんですよ。こんな歌声の人、私の周りに一人もいなし、なんでこの人のことを今まで知らなかったんだろうっていう衝撃があって。mimikoも私のライブに来てくれてそこから交友が始まって。ご飯に行ったらとても気も合うし。彼女はずっとニューヨークにいて、最近、日本に帰ってきたばかりだったので、まだあまり日本での活動をしてなかったんですよね。だから、「私と一緒に何かやろうよ」って声をかけて、デモを送ったら、私の仮歌を汲み取って返してくれました。それが、今、リリースしてる音源とほぼ変わらないような状態で送られてきたのが衝撃的でした。この人とやるしかないみたいな気持ちにさせてくれた人だなって思います。

——mimikoさんとの曲は歌モノですよね。

和久井:そうですね。割と歌詞もしっかりある曲が作りたくて、自分が好きな曲調に寄せたというか。ちょっと暗さがあって、でも、ちょっと熱もある曲にしたかったんです。

——mimikoさんとももう1曲やっていて、「Maze」ではウーリッツアーを弾いています。

和久井:もともとはギターを入れた曲を作りたくて、ギターが映えることを一番の条件として考えて作った曲ですね。私はロックも聴くし、パワーコードも好きなんで、そういう要素を入れつつ、普通の四拍子だったらどこにでもある曲になっちゃうので、ひとひねりしたいなと考えて作ったんですけど、その結果、8分の15拍子というちょっと1個足りない感じがする曲になりました。でも、それが曲にマッチして。ノろうとすると最初は難しいんですけど、何回も聴くと、馴染んでくる曲になったなって思います。

——そして、10月にはモノンクルの吉田沙良さんをフィーチャーした「tietie」をリリースしました。アルバムのオープニングを飾る曲にもなっています。

和久井:このアルバムを通して考えたときに、スピード感のある曲が「Escape」くらいしかなかったので、もう1曲くらいスピード感がある曲があったらいいなと思って、レコーディングの3日前ぐらいに作って、2時間くらいでできた曲です。リフを組み合わせて作った結果、これも変拍子になっちゃったんですけど、スピード感のある曲になりました。最初はインストで録ってて、演奏もいいし、そのままリリースしてもいいんじゃないかってくらいのクオリティだったんですけど、仕事帰りの新幹線でこの曲を聴いた時に、変なラップみたいなものを自分で勝手に口ずさんでいたんですよね。もしかしたらこの曲、ラップとか、何か言葉や歌詞があった方がより輝けるんじゃないかって思って。納期ギリギリで、吉田沙良さんにお願いすることにしました。

——どうしてラップで吉田沙良さんを起用したのですが?

和久井:誰にしようか、めちゃくちゃ悩んだんです。自分でラップする寸前まで行って、ポンッて吉田沙良さんの声が脳内で再生されて。その時、Yasei CollectiveのCOTTON CLUBの公演で沙良さんとご一緒してて。縁もあったし、歌声も好きだし、いつか一緒にやりたいなって思ってたんで、声をかけるなら今だなと。低い声がすごく印象的だなって思ってたんですよね。曲調のスピード感にも沙良さんの声質が映えるような直感が働いて。入れてもらったらめちゃくちゃ良くて。宅録で納品してくださったんですけど、直しも1個もなく、そのままOK。納品のスピード感もものすごく良くて、ハマりましたね。

——フィーチャリングでもう1曲、「Calming Influence」にODD Foot WorksのPecoriさんが参加されています。

和久井:「Calming Influence」は、自分のオリジナル曲として元々あって、COTTON CLUBでもインストでやってたんですよ。ライブでも盛り上がってた曲なので、音源にしたいなって思ってて。サックスとラップについては音源を作る前から入れたいって思っていました。ODD Foot Worksにめっちゃハマってて、アルバムをものすごく聴いていたので、Pecoriさんに頼んでみたら、快く引き受けてくれて、ラップを入れてもらったっていう感じですね。

ソロプロジェクトは和久井沙良が満足する音楽を作り続ける場

——改めて、ピアニストのリーダーアルバムという枠には収まらないバラエティの豊かさですよね。

和久井:そうですね。自分のやりたいことを全て詰め込んだので、聴きごたえのあるアルバムになってるんじゃないかなって思います。でも、本当に自分のやりたかったことを全てやったなっていう達成感もあるのと同時に、もう次に向けて考え始めてる自分がいて。制作から時間が経つと、「この曲もっとこうできたな」とか、いろんな反省点が出て来るんです。それも、いろんな人と音楽をすることによって自分が成長できている証拠なのかなと思って。だから、次はまた全然違う感じになるのかもしれない。ピアノトリオだけのアルバムになるかもしれないし、未来の自分が全然想像できない。でも、振り返ってみて思うのは、その当時の100%を出したなっていうことに尽きますね。

——本当に“今、この瞬間”を生きている方ですよね。アルバムのタイトルも象徴的ではありますが。

和久井:タイトルは1曲目に入ってるフレーズで〈もう時は止まらないよ〉からの引用です。どんどん止まってくれないから、今を全力で生きるしかないよねっていう思いでつけた名前ですね。あとは語感がいいから。名前をつけるときは適当です(笑)。

——(笑)。1stアルバムのリリースの2日後には、シンガーのキャサリンとのユニット・LioLanの第1弾音源となる配信シングル「anouta」もリリースされます。

和久井:自分のソロプロジェクトは大衆受けを狙ってなくて。ただ、和久井沙良が満足する音楽を作り続ける場としてずっと続けていきたいなと思ってるんですね。LioLanは、自分がポップな音楽が好きなのもあり、キャサリンの歌がとにかくいいので、彼女の歌がより多くの人に聞かれてほしいなっていう願いから始めたプロジェクトです。曲調もポップで、キャッチーなメロディでエレクトロニクスっぽいサウンド感にしてます。トラックメイクも好きなんで、ピアニストとしての和久井沙良というよりは、トラックメイカー、作曲家、アレンジャーとして、このプロジェクトをやっていきたいなって考えています。

——「anouta」はクリスマスソングですよね。

和久井:そうですね。冬の歌なので、クリスマス前に出したいなと思ってて、ギリギリの12月23日にリリースすることになりました。この曲は自分1人で作ったわけじゃなくて、私より3つか4つくらい年下の友達で、音楽プロデューサー/トラックメイカーの市川豪人くんに手伝ってもらって、エゲツないトラックに仕上げてもらいました。サウンド感がかなり豪華になってるので、そこも楽しんで聴いてもらえたら嬉しいなと思います。

——ソロの集大成のようなアルバムと新しいプロジェクトの新曲リリースを経て、2023年はどんな1年にしたいですか。

和久井:来年はLioLanと私のソロプロジェクトがちょっと軌道に乗って乗ったらいいなって思いつつ、ライブ活動もたくさんしていきたいと思いますね。2022年は何人やったんだろう? っていうくらい、サポート業がとにかく忙しくて。その合間にアルバムを作ったり、LioLanの制作をやったりしてたので、来年は自分の音楽と向き合う時間を作ったり、ソロでパフォーマンスをできるようになりたいなと思います。例えばトラックを作って、そのトラックに乗せて、自分でピアノを演奏したりとか。新しい動きもできたらいいなって思うし、実験の1年にしたいなと考えてます。

——最後に将来的に目指す音楽家像を教えてください。

和久井:どの国に行っても、やべえ! ってなる音楽家になりたいですね。今は日本で活動してるけど、いろんな国で演奏したいし、自分の作品を聴いてもらいたいなって思ってます。あと、今は比率的に言うとピアニストとしての活動が一番多いんですけど、それだけではなくて、作曲家やアレンジャーとしての自分の一面がもう少し出てくれるといいなと思います。

■リリース情報
和久井沙良『Time Won’t Stop』
価格:2,500円(税抜)

LioLan『anouta』
https://ultravybe.lnk.to/anouta

■ライブ情報
和久井沙良1stアルバムリリース記念ライブ”Time Won’t Stop”
公演日時:2023年2月19日(日)
場所:渋谷WWW
出演:和久井沙良 他
前売り:4,000円(税込/ドリンク代別) 当日:4,500円(税込/ドリンク代別) 
前売り U-20:2,500円(税込/ドリンク代別)
一般発売:【e+】2022/12/21(水) 19:00 【ぴあ・ローチケ】12/28(水)10:00
e+:https://eplus.jp/sarawakui0219/
ぴあ:P:233-726
ローチケ:L:75191

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