BTSやLE SSERAFIMに波及し世界的ブームへ 「Dem Bow」に始まりプエルトリコ、アメリカ本土へと渡った“レゲトン”の歴史

そこに「Despacito」がやって来た

 スペイン語の曲がBillboard Hot 100の首位に上り詰めたのは、1996年のロス・デル・リオ「Macarena」以来だという。長きにわたる英語圏での不遇期を越えて、レゲトンをUSチャートの最前線に復帰させたルイス・フォンシ「Despacito feat. ダディー・ヤンキー」。2017年1月12日リリースの同曲は、それほどにゲームチェンジャーだった。

Luis Fonsi - Despacito ft. Daddy Yankee

 続いて、同年6月30日にはJ. バルヴィン&ウィリー・ウィリアムが「Mi Gente」を大ヒットさせ、Spotifyのグローバルチャートでラテン系アーティストとしては初めて1位を獲得した。さらに、この2017年の『ワイルド・スピード ICE BREAK』サウンドトラック(『The Fate of the Furious:The Album』)はトラップとマンブルラップの祭典のような内容だが、その中にも件のJ. バルヴィンとピットブルがカミラ・カベロをフィーチャーしたレゲトンナンバー「Hey Ma」があって、揺るぎない親レゲトン路線が確認できる作りである。

J Balvin, Willy William - Mi Gente (Official Video)
Pitbull & J Balvin - Hey Ma ft Camila Cabello (Spanish Version | The Fate of the Furious: The Album)

 ラテン移民への圧力を強めるドナルド・トランプ政権の動向とは裏腹に、2017年からレゲトンはアメリカの音楽マーケットに定着し始める。そして、J. バルヴィンや、続くマルーマがコロンビア人であることからもわかるように、もはやレゲトンは「プエルトリコ中心の音楽」と言い切れず、スペイン語圏アメリカ全体の現象となった。ナティ・ナターシャはドミニカ人、Gente de Zonaはキューバ人デュオ。芸歴11年にしてアルバムは2枚しか出していないがシングル/MVは毎月のようにリリースしているベッキー・G(メキシコ系アメリカ人)も、近年の曲はかなりの確率でレゲトンだ。

 このレゲトンブームは映像の世界にも波及している。2018年、ニッキー・ジャムはNetflixの自伝的シリーズ『ニッキー・ジャム:エル・ガナドール』で主演。2021年にはJ. バルヴィンの1週間を追ったドキュメンタリー作品『J. バルヴィン〜メデジンから来た男〜』がAmazon Prime Videoで配信された。バッド・バニーがブラッド・ピット主演の映画『ブレット・トレイン』に登場したことも記憶に新しい。このバッド・バニーは、若いレゲトン勢(オルタナィブレゲトン)の中でも特に現行のUSヒップホップに近い感性を持った“ラテン・トラップ”系アーティストでもあり、レゲトンにとって何度目かのブームの立役者と言える存在だ。

Bad Bunny - Tití Me Preguntó (Video Oficial) | Un Verano Sin Ti

そして世界への波及

 ラティーノ勢以外でレゲトンへの取り組みが早かったのは、やはりBTSだ。彼らの美麗レゲトン曲、「血、汗、涙」こと「Blood Sweat & Tears」がリリースされたのは2016年10月。なんと「Despacito」より前なのである!

 ソングライティングの中心となったSUGAは、曲ができ上がった当初、「今度の曲は売れないと思う」(※1)とメンバーに伝えたとも聞くが……いやいや、何をおっしゃいます。ものすごい先見の明、さすがSUGAなのだ! 同曲をレゲトンよりもムーンバートンに分類する向きも多いが、「Blood Sweat & Tears」が湛える哀感はあまりに凄まじく、ムーンバートンと呼ぶには過剰に耽美。ラテン特有のセンティミエント(スペイン語で“感情”)を最も巧みにアジアナイズした例として記憶しておきたい。

BTS (방탄소년단) '피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)' Official MV

 中華圏では、EXOの中国人メンバーにして「北京語ポップ界のR&B大将」として知られるレイがいる。彼の2020年作『Lit』には、レゲトン曲「Boom」が収録されているのだ。すっきりクリアな声質のレイが「ブンブンブンブンブンブンブン」と唱えるように歌う様はミスマッチのようでいて、実はとても美しい。

 また、スペイン・ハプスブルク帝国に関わる歴史的経緯からラテンカルチャーと(ある種の)親和性があるフィリピンでも盛り上がっているようだが……こちらはさらなる研究を待ちたい。

 ここ日本では、川口レイジによる2019年の楽曲「Like I do」があり、川口は別曲で例の「Despacito」のソングライターの一人であるマーティ・ジェイムスとコラボレーションまで果たしている。

川口レイジ 『Like I do』

 さらに、同じく2019年にアルバム『KYO』中の非レゲトン曲「HUMAN LOST」でJ. バルヴィンを迎えていたのがm-flo。彼らは、先ごろ何故か来日していたMalumaとも接触があったようだ(※2)。こちらも注目しておかねば。

 <HYBE>のドンである“hitman” bangから、ホンジュラスのレゲトンシンガーであるIsabella Lovestory(つまり本場の人)までがソングライティングに参加したレゲトンナンバーで、BTSにも通じるオーバースペックなベースラインとパーカッションの絡みが素敵な1曲「ANTIFRAGILE」で話題を集めたLE SSERAFIMも、年末に『第73回NHK紅白歌合戦』出場が決定した今、さらなる熱意をもってワールドワイドなレゲトン旋風を見守っていきたい。

LE SSERAFIM (르세라핌) 'ANTIFRAGILE' OFFICIAL M/V

※1:https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2056276
※2:https://www.instagram.com/p/CkOIvw0uAf1/

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