10-FEET TAKUMA、映画『THE FIRST SLAM DUNK』楽曲制作から得た“自由なモード” 音楽だから表現できた願いも明かす

 10-FEETはいつだって、人が全身全霊で前に進む歓喜の瞬間と、どうしようもなく悔しくて悲しくて眠れない夜を、どちらもそっと鼓舞するように歌い上げてきたバンドである。しかも、ぐちゃぐちゃな感情をそのまま吐き出せば吐き出すほどピュアな音楽になるというミクスチャーロックの真骨頂をこの上なく象徴するバンドであり、結成25周年に生まれた9枚目のアルバム『コリンズ』(12月14日発売)は、そんな10-FEETのミクスチャー性を強烈に刻み込んだアルバムだ。

 10-FEETがエンディング主題歌を、TAKUMAが武部聡志とともに劇伴を担当し、現在大ヒット中の映画『THE FIRST SLAM DUNK』から大いに感化されたアルバムという意味で、『コリンズ』は彼らのディスコグラフィの中でも少し特殊な立ち位置の作品かもしれない。しかし、ミクスチャーの振れ幅を過去最高に楽しめる1枚であるとともに、喜びも、悔し涙も、愛おしさも、無力さも、思い出も、丸ごとドーンと鳴らしてみせたという意味では何よりも10-FEETらしいアルバムに仕上がっているし、それは『SLAM DUNK』と10-FEETが根底で共振し合うものだったことの証だとも言えるだろう。そんな『THE FIRST SLAM DUNK』からインスパイアされた楽曲たち、そして10-FEETがロックを通して表現する願いについて、TAKUMAにじっくり語ってもらった。(編集部)

10-FEET – 9thアルバム「コリンズ」Disc1全曲トレーラー

『SLAM DUNK』と向き合ったストーリーが凝縮された1枚に

ーー『THE FIRST SLAM DUNK』の劇伴も含めて、めちゃくちゃかっこいいアルバムでした!

TAKUMA:ありがとう。

ーー前作『Fin』と同様、5年ぶりのアルバムですけど、『Fin』を5年ぶりに聴いたときの印象とはガラッと違う作品になっていて。TAKUMAさんの手応えはいかがでしょうか。

TAKUMA:そうやね。『Fin』がパワーと重さやとしたら、『コリンズ』は切れ味みたいな感じかな。

ーーまさに切れ味抜群だと思います。「SLAM」「第ゼロ感」をはじめ、同期音やメタル、ラウドロック的な要素を前面に出した曲も多いですが、やはり劇伴制作の影響が出ているのではないでしょうか?

TAKUMA:まず劇伴は、10-FEETの曲作りよりも果てしなく自由度が高かったんですけど、その中でも“アグレッシブ”とか“緊張感がある”とか、ちゃんとテーマやイメージに合うものを作っていかなければならないのが、難しくもあり、やりがいを感じていた部分で。そこで得たものはアルバムにもいい形で生きてると思います。10-FEETでは普段やらへんようなことも、今回はやってみたら面白いかもなと思って取り入れていて。同期の表現や、メタル、ラウドというものが遊び心や変化球じゃなくて、あくまで10-FEETのスタンダードになっていくような感覚があったので、スリーコードを弾いて歌うのと同じように、自然にそういう音が出てきたなと思いますね。

ーーきっと「ハローフィクサー」「aRIVAL」などを先立ってリリースできていたことも大きかったですよね。

TAKUMA:そうですね。ライブで同期をガンガンに流しても10-FEETの曲としてやれるんやってことを最初に感じたのが「ハローフィクサー」やったので、その気づきは「第ゼロ感」とかを作る上でもデカかったと思います。「aRIVAL」の方は、コロナ禍で10-FEETとかソロとか、自分がやる/やらないとか関係なしに、ただ自由にガーッと作曲してみようと思って作った曲で、まさかこれが(『THE MATCH 2022』の)テーマソングになるとはっていう感じでしたけど(笑)。デモの段階からデスボイスっぽい歌い方をしていて、「その部分さえ変えたら採用してもらえるんじゃない?」ってメンバーとも話していたんですけど、(『THE MATCH 2022』の)スタッフさんが「むしろ、そこがいいんですよ!」って面白がってくれて。じゃあそのままで行こうかってことになったんですけど、自分だけで作ったら「これはトゥーマッチやろ」と思う表現も、先方のイメージと合致することで、バンドにとってスタンダードな作品になることがあるんやなって思えたきっかけでした。最終的には、サビで10-FEETっぽい抜けのいいメロディがあれば何でもオッケーなんやなと思えて、自然にいろいろ試せるモードになっていたのかもしれないです。

10-FEET - ハローフィクサー

ーーでは、『THE FIRST SLAM DUNK』に向けた曲たちはどのように制作されたんでしょうか。

TAKUMA:順番としては、主題歌候補を作って、その後から劇伴にちょっとずつ着手していく流れやったんですけど、そもそも今回収録されている「SLAM」「第ゼロ感」「ブラインドマン」「深海魚」はすべて『THE FIRST SLAM DUNK』主題歌のつもりで制作していたもので。他も含めると、全部で7~8曲くらいは主題歌候補を作っていたんです。大半は2年前に映画の話が決まってから作った曲で、それ以外は「aRIVAL」みたいにもともと自由に作っていたものを発展させた感じでした。

 「SLAM」はドラムンベースやジャングルビートみたいな音に、メタルとパンクを混ぜたようなミクスチャー、「ブラインドマン」は「アオ」直系のギターロック、「深海魚」は壮大なバラード、「第ゼロ感」はテクノとまでは行かないけど、四つ打ちでEDMっぽい要素の入った曲になっていて。どれがシングル曲になってもいいくらいの熱量で作ってたので、それだけかっこいい曲になっていると思いますし、そのおかげで他のアルバム曲はいろいろ実験できた部分もあったのかなと。主題歌を作り始めた頃は映画がまだ完成していなくて、本編の静止画を見ただけやとどういう曲調が合うかわからなかったので、途中で「やっぱりこっちにしよう」という選択ができるように、なるべくいろんな種類の曲を作っておきたいなということも意識しましたね。作るだけ作って、映画に採用されなくても自分たちの音源にすればいいし、歌を抜いて劇伴で使ってもいいしな、と思って。

ーーなるほど。劇伴の「Double crutch ZERO」は「第ゼロ感」と地続きな曲になっていますが、まずは「第ゼロ感」が先に作られていたんですね。

TAKUMA:そうそう。

10-FEET – 第ゼロ感(映画『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌)

ーー『SLAM DUNK』という1つの題材からそれだけ多くの曲が浮かんできたのは、TAKUMAさんにとって『SLAM DUNK』がどういう作品だったからなんでしょうか。

TAKUMA:熱く闘う男たちのかっこよさと、そこで生じる葛藤を描いている作品やなって思います。コミカルで面白いシーンとか、ちょっとした恋愛シーン、あとはチーム内の人間関係も濃密に描かれていますけど、そういうさまざまなシーンを含めて、“熱く闘っている漫画”だという印象が強かったので、とにかくそれらに合う音楽を作りたいなって。

ーー今話してもらったことは、10-FEETの音楽にもそのまま当てはまりますよね。コートで熱く試合をしているときも、負けて涙を流しているときも、両方が『SLAM DUNK』なわけですけど、10-FEETは25年間、人生のそういう両面を支えてきたバンドであって。バンドの真骨頂を感じさせるミクスチャーソングが、そのまま『THE FIRST SLAM DUNK』を彩る音楽になったというのは、10-FEETと『SLAM DUNK』の精神性が根底で合致しているからなんじゃないかと思いました。

TAKUMA:うん、きっとその通りやと思います。だからこそ7~8曲もできたんじゃないかな。自分たちの音をありのまま鳴らせば『SLAM DUNK』に合うんじゃないかと思いながらやれたので、本当にバンドをやってきてよかったし、楽しかったですね。主題歌と劇伴作りがひと段落してからアルバム制作に向かったんですけど、実質この2年間の9割以上を主題歌と劇伴に費やしたような感覚なので、『THE FIRST SLAM DUNK』に向けて作っていたものがそのまま10-FEETのアルバムに入るというのは、僕らの時間とストーリーを宿すという意味では自然やなと思っていて。今、形にすべきアルバムになったんじゃないかなと思います。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』予告【2022.12.3 公開】

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