スロータイも評価するアンダーグラウンドヒップホップの新鋭 Jeshiが歌う、イギリス労働者階級をめぐる貧困や社会問題
最新作『Universal Credit』でも彼の“ブルース”を聴くことができる。Jeshiは2020年にリリースしたEP『Bad Taste』がメディアなどから評価されたが、自分の経済的な状況は変わらなかったと語っている。アルバムのタイトルにもなった、イギリスにおける低所得層向けの給付制度を統合する生活保護制度「ユニバーサル・クレジット」を受給しながら、彼は今作を作ったようだ。彼はアルバム『Universal Credit』について、「お金がない状態でこのアルバムを作っていた。この世の中は競争が激しいし、全てのものが高価になっている。そして多くを持っていない労働者階級の人たちはさらに冷遇され、人間らしい扱いをされなくなってくる。そんな社会から人間らしい扱いを受けていない人たちに、人間性を与えることができるような作品を作りたかった」(※2)と語っており、現在の日本でも彼のリリックに共感する人は多いだろう。
2曲目「Sick」では、〈深夜労働をすることに疲れた/寝ようとしてブラインドを閉めることに疲れた/目を閉じたときに同じ色が見えることに疲れた〉〈タクシー運転手から小言を言われるのに疲れた/ただ運転してくれ〉と、自身が倉庫で働いていたときの経験をラップしている。また、8曲目の「Generation」では、〈この世代は愛されていない/この世代は自分の存在が充分じゃないと感じるまで携帯を眺める〉と、社会から冷遇され、SNSで他人と比べることによってさらに自尊心が下がっていく若い世代を代弁している。また、2度目の出演となった「A Colors Show」では、〈お金はないが宝くじを毎週買ってしまう〉と歌う「National Lottery」を披露している。
Jeshiは自身の作品について、「普通の人の毎日の生活を表現したい。遊びに出かけて、二日酔いになって、バスに乗れなくて、お金がなくてストレスを感じて、また週末に遊びに出かけて、友達に怒ったりして。大げさにドラマチックにしないと人々は気にしないと思われているけど、普通の日常を表現した内容でも人々は共感するということを示したいんだ」(※2)と語っており、そのような内容が多くの共感を呼び、根強いファンベースをイギリスで獲得している。Jeshiの作品は映像も印象的であり、『Universal Credit』収録曲がライブアレンジされている「BAD DAY AT THE OFFICE (live film)」では彼の「日常のブルース」を表現するスキルを見ることができるだろう。
そのほか『Universal Credit (Deluxe)』には「BAD DAY AT THE OFFICE (live film)」で披露した4曲、MVも公開されている「This Thing Of Ours」、そしてウェストサイド・ブギーとナイジェリア出身の注目アーティスト、オボンジェイヤーが参加した「Protein v2」を収録。リリックでブルースを語り、多くの若者から支持されるJeshiへの注目度はここ数年でうなぎのぼりとなっており、彼のリリックがイギリスだけではなく、世界的に共感される日もそう遠くないだろう。
※1:https://www.theguardian.com/music/2022/may/20/jeshi-uk-rapper-universal-credit-interview
※2:https://colorsxstudios.com/shows/jeshi-interview
■リリース
『Universal Credit (Deluxe)』
配信:https://virginmusic.lnk.to/UC_Deluxe