時代の変化の中で『紅白』らしさを保てるか ウタの初出場が映し出す番組の課題と方向性

 11月16日、今年の大みそかに放送される『第73回NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』と表記)の出場歌手が発表された。現在のところ全部で43組の出場が決定。初出場は、紅組5組、白組5組の計10組となっている。

 今年の『紅白』はどうなるのか? を考えるうえで、個人的に最も興味深い出場歌手はウタである。ウタの出場には、近年の『紅白』が向かおうとしている方向性、そのなかでクリアしなければならない課題が集約されているように思えるからだ。

 ウタは、今年大ヒットを記録したアニメ映画『ONE PIECE FILM RED』のヒロイン。劇中に歌姫として登場する。これまでもLiSAなど人気アニメの主題歌を歌う歌手が出場することはあった。だがアニメキャラクターが正式な出場歌手になるのは、番組史上初のケースである。

 『紅白』と言えば、各世代が揃って見る音楽番組というイメージは根強い。ところが、今年の出場歌手の顔ぶれに、「若者世代偏重ではないか」というような声が上がった。SNSでは「#紅白見ない」がトレンド入りしたほどだ。そうした声の念頭にあるのは、たとえば10組の初出場組だろう。そこにもちろんウタも含まれる。確かに、これだけ大挙して新しい世代のアーティストが登場するのは、近年でも珍しい。

 とはいえ、『紅白』がこれまで世代的なバランスを保つことに無頓着だったわけではない。むしろ、かなり腐心してきたと言っていい。近年の『紅白』が、昨年の松平健「マツケンサンバⅡ」のように、広い世代に親しまれた歌手や楽曲を特別枠の形で登場させてきたのはそのひとつだ。

 今年の場合、広い世代に認知され、親しまれている歌手の筆頭は、やはり特別枠で歌う氷川きよしだろう。演歌・歌謡曲から出発し、最近はアニソンの分野でも活躍するなど、『紅白』における世代間のバランスの要にいる存在だった。だがすでに発表されているように、今回の氷川は活動休止前の最後のステージになる。そのことも、どこか時代の変わり目を象徴しているようだ。

 言われ続けているように、いまや流行歌の中心がテレビの歌番組だった時代は終わり、ヒット曲の多くがネットやアニメから生まれるようになっている。そこに流行歌における世代間ギャップの根本的理由がある。この傾向が続けば、遅かれ早かれ、ネット中心に活動する歌手が『紅白』の中心になっていくことになるだろう。

 その意味で、ウタの歌唱パートを担当するのがAdoであることは示唆的だ。知られるように、Adoはボカロ曲の歌い手として活動をスタートし、基本的にネットを拠点に活動を続けている。社会現象にもなった「うっせぇわ」を経て、今回『ONE PIECE FILM RED』主題歌「新時代」などの大ヒットによって、次世代を担うシンガーとしての地位を確立したと言っても過言ではないだろう。いわゆる「覆面歌手」として、これまでテレビに姿を見せたことのないAdoの実質的な“初出場”は、目立たないが『紅白』の歴史において大きな意味のあることに違いない。

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