連載「lit!」第24回:Arctic Monkeys、テイラー・スウィフト……海外ポップミュージックの濃密なサウンドやストーリーを分析

Phoenix「Tonight (feat. Ezra Koenig)」

Phoenix - Tonight featuring Ezra Koenig (Official Video)

 次に紹介するのは、フランス・ヴェルサイユ出身のバンドによる2017年『Ti Amo』以来5年ぶりとなるアルバム『Alpha Zulu』からのシングル曲「Tonight (feat. Ezra Koenig)」である。『FUJI ROCK FESTIVAL '22』でヘッドライナーを務めたVampire Weekendのフロントマン、エズラ・クーニグを客演に迎えており、MVの撮影は今年の8月にパリと東京で行われた。東京の映像はエズラのフジロックでの来日時に撮影したものだろう。

 小気味良いギターリフのフレーズと、同じ単語を繰り返したり、言葉を切ったり引き伸ばしたりするボーカルが楽曲の軽快なリズム感を生んでいる。そして深くリバーブのかけられたドラムがサウンドに密な強靭さを与えているのだ。

 2000年のデビューアルバム『United』におけるロックやソウルをエレクトロニクスと融合したような音楽性で一躍世界的な存在となったPhoenixであるが、なめらかな浮遊感を持ったサウンドも、人々を躍らせるような情熱的なサウンドも健在である。

girlpuppy「Revenant」

Revenant

 アメリカはアトランタを拠点に活動する22歳のシンガーソングライター、ベッカ・ハーヴェイのプロジェクトgirlpuppyによるデビューアルバム『When I’m Alone』の8曲目。

 21歳だったベッカ・ハーヴェイはパン屋で働いていたが、コロナウイルスの影響で職を失った。それをきっかけに当時のボーイフレンドと制作した「For You」がプレイリスト経由で広まり、インディーファンを唸らせる夢幻のギターサウンドと幽玄な声は徐々に評判を得ていった。2021年のEP『Swan』ではNPR等の音楽メディアからも注目を集め、期待の新星としてたちまち頭角を現し、10月末に本作で待望のアルバムデビューを飾った。

 これまでの作品に携わったプロデューサー達はフィービー・ブリジャーズやマギー・ロジャースを担当したこともある面々である。彼女も近い将来、先達らに比肩しそうな勢いはすでに備えている。

 今回アルバムからピックアップした「Revenant」は、元恋人に対する苦い感情を歌っている。冒頭のヴァースは艶やかなアコースティックギターのみの伴奏で歌い切ってしまう。直後にドラムが鳴り始める瞬間の意表を突かれる感じや、いつの間にかストリングスやピアノのフレーズが加わったり引かれたりする疎密と緩急のコントロールにセンスが煌めいている。この1曲だけでも聴きどころ満載で、期待以上のデビュー作と言えるのではないだろうか。

Joji「YUKON (INTERLUDE)」

Joji - YUKON (INTERLUDE) [Official Video]

 アメリカを拠点にアジアのカルチャーを発信するメディアプラットフォーム「88rising」所属のR&Bシンガー、Jojiによる2年ぶりの3rdアルバム『SMITHEREENS』収録のシングル曲。本作は全体で25分にも満たない。

 今年6月にリリースされた「Glimpse of Us」が各国のチャートで1位を獲得し、『Billboard Hot 100』では自身初となるトップ10入りを果たした。オーストラリアでは坂本九「上を向いて歩こう」以来59年ぶりに日本人アーティストがシングルチャート1位を獲得したというニュースまであるほどだ(※3)。こうしたピアノバラードが現代においてこれほどまでのヒットを記録するのは異例と言えるが、美しくストレートなメロディに極めてシンプルな単語ながらも複雑な心情を綴った切実な歌詞には確かな魅力がある。

Joji - Glimpse of Us (Official Video)

 その魅力は今回ピックアップした「YUKON (INTERLUDE)」でも同様である。本楽曲における主人公は何となく自暴自棄になりながら当てもなく車を飛ばしている。性急なビートが焦燥感を煽る。「永遠に若くはいられない(〈I can't be forever young〉)」という歌詞は、ひとつ前の曲「BLAHBLAHBLAH DEMO」での「永遠に若いままでいたい(〈I wanna be forever young〉)」に対応しているのだろう。次曲「1AM FREESTYLE」はアルバムの最終曲で、「独りになりたくない(〈I don't wanna be alone〉)」というラインで全体が締めくくられる。これが本作全体に通底する感情であるならば、直前の「間奏曲」と冠された「YUKON (INTERLUDE)」は、想いを寄せる人がいるにもかかわらず時間ばかりが過ぎ、若さが失われることに焦りを感じながら何もできずに自棄になっている、そんな心情の表現だと言えるだろう。明るい未来を切り開くには、自暴自棄よりも速く走るしかないのだ。

※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/117282/2
※2:https://www.rollingstone.com/music/music-features/alvvays-blue-rev-1369303/
※3:https://themusic.com.au/news/aria-singles-chart-june-27/Ye15dXR3dnk/27-06-22

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