鈴木則孝氏に聞く、角野隼斗/かてぃんとの出会い 自身のキャリア、ジャンルを超えて広がるピアノシーンの今も

角野隼斗/かてぃん マネージャーに聞く、ピアノシーンの今

ピアノを軸に据えたさまざまな企画

ーーその他、エピック時代には多くのピアノが軸となる企画を実現されていますね。ピアニストの松下奈緒さんも担当されていました。

鈴木:松下奈緒さんはYouTuberピアニストの話をする上でも欠かせない存在。彼女は『ゲゲゲの女房』(NHK連続テレビ小説/2010年)の主演でありながらピアニスト。主題歌の「ありがとう」(いきものがかり)をシンプルなピアノバージョンで届けたことはインパクトを与えました。今でこそJ-POPのヒット曲をピアノでカバーするスタイルは当たり前のようになりましたが、先駆けのような出来事だと思います。

[「ありがとう」ピアノバージョン]

ーー『のだめ』のジャズ版のようなアプローチで『アニメ「坂道のアポロン」オリジナル・サウンドトラック』を手がけていますね。

鈴木:『のだめ』でクラシックをナチュラルに届けられた手応えをジャズでもやりたかったんです。劇中音楽は菅野よう子さんがプロデュース。ピアノが松永貴志さん、ドラムは石若駿さんに直接アプローチし起用したりと、プレイヤーの面でも意欲的な作品でした。石若さんは、来年公開のアニメ映画『BLUE GIANT』にも参加されるようですよね。ピアノとドラムの掛け合い、特にアニメの演奏シーンのクオリティは物凄かった。今でも胸が痛むぐらい共感できるシーンとシンクロするジャズは本物にこだわりきっています。

[アニメ「坂道のアポロン」オリジナル・サウンドトラック]

 ピアノという点では映画『HACHI 約束の犬』(2009年)で、ポーランドの現代作曲家 ヤン・A・P・カチュマレクが手掛ける劇中音楽のサントラを担当しました。彼の音楽はミニマルミュージックとメロディアスの中間をとっていくような美しく素晴らしいピアノ曲です。昨年、『ショパンコンクール』でワルシャワを訪れた際にも思い出しました。

ーーここまでピアノに関わる仕事についてお聞きしていますが、並行してJ-POP作品の担当もされていたとか?

鈴木:はい。今はミュージカル中心に活躍している藤岡正明さんの初期作品(『たとえば、僕が見た空』/2005年)、ソロ活動10周年を迎えた頃のYUKIさんの作品(『POWERS OF TEN』/2012年)など。企画では、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽作品『春子の部屋〜あまちゃん 80's HITS〜ソニーミュージック編』や、『筒美京平 Hitstory Ultimate Collection 1967〜1997 2013Edition』なども担当しました。

ーー2016年、SMEから<ワーナーミュージック>に移籍されてからのキャリアについてもピアノを軸に聞かせてください。

鈴木:<ワーナークラシックス>の部長を務めました。ジャン・ロンドーやアレクサンドル・タローといった最高のフランス系鍵盤奏者が在籍していましたが、市況の厳しさもあり苦戦する中で、新しい取り組みとして小林愛実さんとの契約をスタートしました。昨年は、彼女の『ショパンコンクール』での活躍にも影ながら拍手を送っていました。

ーー企画作品については?

鈴木:アニメ『クラシカロイド』(NHK Eテレ/2016年~2018年)で仕掛けたことは印象深いです。劇中ではポップスアレンジされて登場する原曲の音楽集を企画し、『“ClassicaLoid” presents ORIGINAL CLASSICAL MUSIC No.2-アニメ『クラシカロイド』で“ムジーク”となった『クラシック音楽』を原曲で聴いてみる 第二集-』(2017年)では愛実さんにバダジェフスカ「乙女の祈り」で参加してもらったり、角野さんにも2019年のコンサートに「ClassicaLoid ~クラシカロイドのテーマ~(作曲:布袋寅泰、スティーヴ・リプソン)」のピアノ編曲で参加してもらいました。企画に参加してもらうことで、作品は価値が上がり、演奏家は入口を広げることになる良いアプローチだと思っています。

ClassicaLoid presents ORIGINAL CLASSICAL MUSIC
“ClassicaLoid ~クラシカロイドのテーマ~”をピアノ編曲して弾いてみた!!

ーー双方にとってメリットのある取り組みになる、と。

鈴木:はい。一方で、映画『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)などで知られる高木正勝さんの『Marginalia』という作品のシリーズ2までを担当し、そこで感じた人と自然や音楽とのつながりを表現する世界観は、企画頼みになりそうな自分への戒めにもなった気がしていて特別です。

[Marginalia]

ーーアニメや映画、美術展などクラシックを絡めた企画盤、コンピレーションが多くあり、クラシックに対するアプローチもさまざまですね。

鈴木:新たなリスナーと結びつく意義は常に感じていました。ピアノ以外でも『ミュシャ展』とスメタナ「わが祖国」や『クリムト展』と「第九」の企画など、明確なつながりを提示すればアートファンにも受け入れられるという手応えがありました。2018年には放送から50年を迎えた『ウルトラセブン』に合わせて、最終回に使われていたディヌ・リパッティの「シューマン:ピアノ協奏曲」企画盤をリリースしたり。そういえば、SME時代の最後に手がけた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(2014年)のサントラ完全版でも、劇中ラストの曲はピアノコンチェルト彷彿とさせます。クラシックが印象的に使われている映画やアニメ作品は本当に数多く存在しているので。

[機動戦士ガンダム 逆襲のシャア オリジナル・サウンドトラック]

ーークラシックの中に自然にポピュラリティを見出していたわけですね。

鈴木:そういう意味でも、今のピアノブームはクラシックと非クラシックという分け方ではなく、「ピアノ」というジャンルが持ち上がってくれたのだなという印象があります。だからこそここまで大きなムーブメントになったというか。

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