新たな音楽文化が生まれる可能性も 作詞家 zoppが音楽監修、メタバース×首里城復興プロジェクト「DIJI SHURI XR」の狙い
音楽ライブやゲームなどのエンターテインメントで活用の進むメタバース。バーチャル空間ならではの演出や没入感は、リアルにはない新たな体験価値を生み出すこともあり、近年ではさまざまな企業がメタバースを取り入れ始めている。
そんななか、観光復興や地域創生の文脈で地方自治体がメタバースに取り組む事例も目立っている。バーチャルとリアルを融合させるXR技術を用いた「DIJI SHURI XR(デージ・シュリ・エックスアール)」は、2019年の火災焼失から復興を目指す沖縄の首里城をメタバース空間で再現した仮想未来都市だ。
このプロジェクトには、地域復興をテクノロジーの力で支援する合同会社オトナリ COOの山元ほるん氏と、スマートフォン向けメタバース「REALITY」を運営するREALITY株式会社 XR cloud事業部 部長の春山一也氏、そして音楽監修には「青春アミーゴ」や「抱いてセニョリータ」などを手がけた作詞家/音楽プロデューサーのzopp氏が関わっている。
メタバースを用いた首里城復興プロジェクトの狙いや今後の展望について、三人にたっぷりと語ってもらった。(古田島大介)
地元の高校生が主体となって立ち上げた「DIJI SHURI XR」
──まずは三人の自己紹介と、それぞれの関係性について教えてください。
山元ほるん(以下、山元):私は音大を卒業後にイタリアへ留学し、イタリア国立音楽院に通いながら指揮者と作曲家として活動していました。2019年6月に卒業し、7月に日本へ帰国後はIT系の企業へ入社し、マーケティングコンサルの仕事に携わっています。
パラレルワーカーとして、会社を設立し音楽のイベントプランニングやブランディング、コンサートの企画・制作を手がけたりするなど、“何でも屋さん”として活動をしていて、その流れからzoppさんと関わる機会があって。また、グリーに別のお仕事で営業の提案に行った際に春山さんと出会い、そこからのご縁でメタバースを用いた首里城復興プロジェクトのお話をさせていただいた経緯があります。
zopp:私は作詞家として修二と彰「青春アミーゴ」や山下智久「抱いてセニョリータ」などさまざまな楽曲の作詞を手がけてきました。最近の活動としては韓国のボーイズグループ・TOMORROW X TOGETHERの日本語訳詞を担当するほか、小説を書いたりラジオ番組のDJをやったりとマルチな活動を行っています。
ほるんさんとは、リアルサウンドのインタビュー(※1)でクリエイターのPayaoさんと対談した際にお会いしました。そのときに地方創生のプロジェクトをやっている、と聞いていて、「何か楽しそうなら関わりたいです」と伝えていたんですが、そこから割とすぐにDIJI SHURI XRの音楽監修の話をいただいて。メタバースやXR技術を使った地域復興は面白い試みだなと思い、プロジェクトへの参加を決めたんです。
春山一也(以下、春山):私は元々ものづくりが好きでゲーム会社へ入りました。グリーには10年ほど勤めていて、メタバース事業を行うグリー子会社のREALITYには今年の1月から関わっています。
メタバースはどこか1社が牽引していくというよりも、親和性のあるクリエイターや事業者とともにビジネスを一緒に作り上げ、いろんなコラボを生み出していきたい。そんな思いを持っていまして、ほるんさんと出会ったときに沖縄の首里城復興の話を聞きました。自分にとって沖縄は特別な場所だと思っていて、「REALITYで何か力になれないか」と考えるようになったんです。そこから、具体的に沖縄の首里城をメタバースの世界で実現するためにプロジェクトを立ち上げ、今に至っています。
──DIJI SHURIプロジェクト立ち上げの経緯や狙いはどのようなものでしょうか?
山元:もとを辿ると、東京工業大学 特任准教授の川上 玲さんが、首里城を訪れた世界中の方から思い出の写真や動画、メッセージなどを収集し、デジタルで首里城を復元させる「OUR Shurijo」という取り組みを行っていて、オトナリの共同代表である松山幸世がその取り組みに感銘を受けたのがきっかけになっています。
そこから「SUPPORTShurijo」という団体を松山が立ち上げた形になっていったわけですが、他方で私の場合は首里城の再建に向けたチャリティーコンサートを行い、音楽の観点から首里城復興に取り組んでいたんです。
私と松山は同じ会社の所属にも関わらず、違うベクトルで首里城復興のサポートをしていて、せっかくやるなら一緒にやろうと。そこから「SUPPORTShurijo」に私も加わり、行動を共にするようになったんですね。首里城復興に際し、まずは現地で情報収集やプロジェクトに共感してくれる協力先を探しました。そうするなかで、沖縄の那覇市にある、高校野球で有名な興南学園の学生たちと出会ったんです。
この高校には「興南アクト部」という修学旅行生向けに首里城ガイドを行っている部活がありまして、なんと野球部の部員並みに多いんですよ(笑)。それだけ、首里城への思いが強い人が集まっている部活なわけです。
首里城が焼けてしまったことで、観光客が従前の10分の1になり、さらにはコロナ禍という未曾有の有事も起きた。このような大変な状況を何とか打破し、再び首里城を中心とする首里地域の活気を戻したいという思いから、まずオトナリと興南アクト部が協力するようになったんです。
──そういった経緯があったんですね。具体的にはどのような取り組みを通じてDIJI SHURIのプロジェクトを推進してきたんですか?
山元:2021年11月に未来の首里を考えるデジタルワークショップを開催しました。高校生が集まってスペキュラティブ・デザイン、SDGs、XR技術を生かして首里観光を考えるワークショップや企画会議など、さまざまなコンテンツを実施したんですが、最後のプレゼンタイムで高校生から「首里城復興にXRやメタバースを活用したい」という意見が挙がったんです。
こうして生まれたのが「DIJI SHURI XR」というプロジェクトです。沖縄の方言であるデージ(とても、ものすごいの意)を取り入れたネーミングも全部高校生の発案で、非常に熱量のあるプロジェクトでした。
また、東京大学が主催するコンテスト「チャレンジ!!オープンガバナンス(COG)」のファイナリストにも選出されるなど、対外的にも注目を集めるプロジェクトになったこともあり、REALITYの春山さんと何かご一緒できないかと相談を持ちかけたんですよ。
春山:弊社の提供するスマートフォン向けメタバースの事例としては、日本テレビグループのClaN Entertainmentが制作する音楽ライブ『VTuber Fes. BPM』と、HISのバーチャル支店の2つを、2022年6月にようやく世の中に発表することができました。ただ、さらに事業を成長させていくためには、キーとなる新たな事例も必要だと考えており、そのタイミングでほるんさんにお声がけいただいたのは光栄でした。
我々も地域創生の文脈で何かできないかと思っていたこともあり、沖縄の首里城復興はまさにぴったりなご相談だったんです。REALITYは2018年にリリースし、まもなく累計1000万ダウンロードに達するなど、多くのユーザーに愛されるサービスとして成長してきました。ユーザーの中には1日10時間くらい会話している方もおり、バーチャル空間に首里城のような大きなコンテンツを置けば、間違いなくユーザーも楽しめると思っています。
バーチャルならではの没入感や臨場感は、現地に行きたいと感じてもらいやすく、ユーザーエンゲージメントも高い。幸いにも、川上准教授の手がけた首里城の3Dモデルが、メタバースを構築する際にも大きく役立っており、完成度の高いメタバース空間の実現に向けて、粛々と取り組んでいるような状況です。