Ryohu、2ndアルバムは個性的なゲスト迎えた“サーカス”ショー 始まりから終わりまでカラフルに描く見事な物語性

Ryohu、アルバム『Circus』の見事な物語性

 終わりよければすべてよし。そんなことわざがあるが、始まりも大事だ。

 何かというと、アルバムの始まり方の話。神秘的なシンセ音からじんわりフェードイン。いきなり耳をつんざく轟音ギター。タタン! と打ち鳴らされる乾いたパーカッション。街の喧騒。波の音。小鳥のさえずり。人の話し声。音の明暗・高低も含めて、始まり方のパターンは無限にある。

 一秒にも満たない始まりの一瞬で、作品を聴く姿勢や感情は左右される。緊張感のある音に「ムム!」と身構える場合もあれば、ごく自然にするりと聴き始めている場合もある。予想を超える始まりにわくわくを隠せない場合だってある。Ryohuのニューアルバム『Circus』の幕開けは、「アルバムの始まり選手権【ポジティブ部門】」があったら間違いなく優勝。それくらいわくわくと期待が膨らむオープニングだ。

 プレイボタンを押すと流れ出すゴキゲンなロボ声。Ykiki Beatのポップアンセム「Forever」のサビメロをサンプリング加工したそのロボ声に太いキックが重なり、コズミックなシンセ音がキラキラと輝き出す。やがて歌声はオートチューンに変わり、サウンドの彩度は上昇。少年時代に胸を躍らせた近未来ロボット博物館を思わせるサウンドスケープが目の前に広がる。するとリズムはトロピカルな表情に変わり、今度は拡声器ボイスのようなエッジを効かせた声でラップがスタート。〈この life 止めないよう〉〈これは生きる戦い〉〈幸せに金は必要ない〉〈オレの周りは価値ある奴ばっかり〉と力強い言葉が続いたのちに、ビートを一瞬抜いたところで〈もう要らないカビ生えた教科書〉と、声を複数かぶせてパンチラインを吐く。

 ここまでで約1分。でも、たった1分で耳の中にはきらめきが充満し、鼓動は高鳴り、生きる力が沸いてくる。万華鏡のようにカラフルで、めくるめくような楽しい音世界にぐいぐい引き込まれていく。その曲「Money Money feat. Jeter」に迎えたJeterは、独創的なトラックを生み出している気鋭のラッパー兼プロデューサー。彼以外にも今回のアルバムには個性的なゲストが多数参加している。

Ryohu - Money Money feat. Jeter (Official Visualizer)

 Suchmos「GIRL feat. Ryohu」以来、5年ぶりの共演となるYONCE。自身が所属するヒップホップクルー、KANDYTOWNの盟友であるIO。伝説のバンド、ズットズレテルズのメンバーとして共に活動したOKAMOTO’Sのオカモトショウ。前作アルバム『DEBUT』にコーラスやプロデュースで参加していたAAAMYYYとTENDRE。『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)にも多く出演している佐藤千亜妃は、これまで交流はなかったものの歌声に惹かれてオファーしたという。

 サウンド面では、ポップマエストロの異名を持つ冨田ラボが前作に続き参加。SIRUPや向井太一などへの楽曲提供で知られるプロデューサーのShin Sakiura、今年3月にDaokoとのコラボEPを発表した新進トラックメイカーのYohji Igarashiも名を連ねている。

 今回のアルバムには全9曲を収録。そのうちフィーチャリングゲストを迎えた楽曲は6曲。プロデューサーやミュージシャンも含めると総勢14組の面々が顔を揃えている。ジャンルレスで多種多様なメンツを集められたのは、Ryohuのアーティストとしての求心力と旺盛な探究心、何より持ち前のポップセンスが為せる業だろう。

 振り返れば、彼はKANDYTOWNの一員としてメジャーデビューする前に、Base Ball Bearやペトロールズに客演。2018年にはあいみょんの「愛を伝えたいだとか」のRemixバージョンでもラップを披露していた。さらに前作アルバムの初回限定盤に同梱されていたEP『Collage』(のちに配信リリース)では、J-POPの名曲を鮮やかにサンプリング。「Flower」(くるり「ばらの花」)、「Thread」(LOVE PSYCHEDELICO「LADY MADONNA 〜憂鬱なるスパイダー〜」)、「Cloud」(FLYING KIDS「幸せであるように」)と、ヒップホップだけではない音楽的ルーツを垣間見せながら、それらを現代の音に蘇らせる抜群のクリエイターセンスも発揮していた。こうした動きの積み重ねが、今回、結実したと言えるだろう。

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