メジャー1st アルバム『DEBUT』インタビュー
Ryohuが語る、音楽家として目指すジャンルレスな存在 メジャーデビュー作で向き合った“自分自身”を表現するということ
Ryohuが、11月25日にメジャー1st アルバム『DEBUT』をリリースした。Ryohuは、KANDYTOWNだけでなく、ズットズレテルズとしての活動や、Base Ball Bear、ペトロールズといったバンドへの客演歴を持つジャンルレスな活動を行ってきた。そんな彼がメジャーデビュー作に込めた表現は自身のこれまでの歴史をリリックとして表すこと。そして冨田恵一をプロデューサーに迎えた「The Moment」や、TENDREをアレンジャーに迎えた「You」などの共作によって、さらに幅広い新鮮なアプローチに挑戦している。今回のインタビューでは、ヒップホップやラッパーとしてだけではない音楽家としてのこれからの活動のスタンスについても聞いた。(編集部)
自分のことをリリックに表してラップしよう
ーーデビューアルバムの完成、ずっと待っていました。
Ryohu:すみません、遅くなっちゃって。
ーービクターエンタテインメント内のレーベル、<SPEEDSTAR RECORDS>からのメジャーデビューという運びですが、具体的にはいつ頃からメジャーディールの話が?
Ryohu:話自体は前からふわっとあって、メジャーとの契約が決まったのが去年の冬くらいだったんです。それで、11月くらいからアルバム用の曲も作り始めていて。最初に作ったのがリード曲にもなった「The Moment」でした。メジャーと契約して、ルール上、できないこともあるけど、逆にメジャーレーベルだからこそ可能なこともある。あと、関わる人が増えましたね。その分、細かいところまで手が届くようになったので、単純に僕一人だったら出来なかった部分かなと思います。
ーーアルバムを聴いていると、いい意味でこれまでのRyohuのイメージを裏切るというか。中でも冨田恵一さんとの「The Moment」が象徴的で、今までより開けたイメージやよりポジティブな感情を押し出しているなと思って。アルバムの構想やテーマは最初から決まっていた?
Ryohu:今回のアルバムに対しては、漠然と“自分のことをちゃんとリリックに表してラップしよう”というイメージを自分の中で作っていて。過去の自分がダメだったとかそういうことじゃなくて、“過去の自分がいたからこそ今がある”、そして、“未来に向かってポジティブに”と。それが大きいテーマでした。とはいえ、それを今までのやり方で進めちゃうと刺激に欠けるなと思って。冨田さんとは、以前、2018年にリリースした冨田さんのアルバム『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”』で一緒に曲を作った時に、久々に他の人と制作して刺激を受けたなと思っていたので、プロデューサーとしても今回のアルバムとすごく合いそうだなと思ってお願いしたんです。自分がアルバムに取り組むための一曲目として、冨田さんに背中を押してもらいたい、みたいな気持ちもあって。
ーー実際に、冨田さんとはどんなふうに「The Moment」を作っていったのですか?
Ryohu:最初は「前向きな、元気のある曲にしたいです」ってざっくりと伝えて。そのタイミングで、お互いに好きな曲を「こういうの、どう?」って話しているうちに、クワイアっぽい曲がいいよね、ということになって。そこで大まかな方向性は決まりました。クワイアやゴスペルって、繰り返し言葉を歌って気分を上げていくイメージがあって、そこってすごくヒップホップとの共通項だなと思ったんです。もちろん、どちらも同じブラックミュージックではあるんですけど。そこに、日本語が乗ることを意識して作ってもらって。(同じゴスペルを用いた表現方法の)チャンス・ザ・ラッパーとかカニエ ・ウェストとは違って、そこに日本人らしさを出した楽曲にしたかった。
ーーなるほど。個人的には冨田さんは音楽理論を研究し尽くしている超天才……というイメージなのですが、実際に自分のアルバムにおいて一緒に制作してみて、いかがでしたか?
Ryohu:すごいっすよ、やっぱり。冨田さんは音楽的なアプローチの仕方やアレンジとか、僕だったら絶対に思いつかないことをやってくれるし、その辺はすごく信頼しているというか。結果、『DEBUT』においても冨田さんに触ってもらう曲数が増えましたね。
ーー今回、「You」や「Rose Life」といった曲では特定の方、特に自身の家族やパートナーに向けて歌った曲も収録されていますよね。こういうプライベートな部分も曲にして表現する、という点もすごく新鮮でした。
Ryohu:これまで、特定の人に向けるラブソング的な曲はなかったんですけど、結婚したということもあって、“作ろう”と思ってたんです。結構恥ずかしくて、最後の最後まで書けなかったんですけど。でも、ちゃんとやりました。
ーー「You」は、これから生まれてくるお子さんのことを歌った曲ですよね。ラッパーやアーティストの方って、プライベートが謎めいている人も多いじゃないですか。今回、こうした自分の私生活的な部分を出すことに対して、怖さやためらいのようなものはありませんでしたか?
Ryohu:いや、事実をいうことに関しては何一つ問題ないという感じで。むしろ、その方がかっこいいと思うんです。「(家族や子供が)いるよ」っていうだけで、それ以上でもそれ以下でもない。
ーーちなみに、私生活の変化はアーティストとしての生活にも影響を与えましたか?
Ryohu:制作に関しては、子供が生まれる予定日に合わせて、「この日までにはマストで完成させよう」と思ってやっていました。それはプレッシャーというよりも、「よし、やってやるぞ」みたいな感じで。それまでにちゃんとアルバムを仕上げることができたので、アーティストとしてもキリがいいなと思って。あと、結婚もして、一人の自分を改めて見つめ直したり、責任感が増したなとか、そういったものは感じたりしていましたね。そこに、自分としてのアーティスト像を当てはめつつ。
ーープライベートというと、インタールード的に挟まれた「Tatan's Rhapsody」もすごく印象的でした。この朗読は、どういうものだったのでしょうか?
Ryohu:タイトルの“たーたん”って、奥さんのおばあちゃんなんです。以前、『Blur』というEPを出したときに、渋谷でワンマンライブをして、たーたんが観にきてくれたんですよね。たーたんは、アートが好きで、シャンソンやジャズにもすごく造詣が深い方で。その時はまだ結婚してなかったので、孫の彼氏って立場だったんですけど、何をしているのか伝えた時に、たーたんはラッパーのラの字もわからない。でも、「アーティストなのね」ということはわかってくれて、それで、僕のライブをすごく喜んで見てくれたんです。後日、便箋に感想を書いて手紙として送ってくれて。“私のラプソディ・ブルー”ってタイトルもつけてくれていた。「音楽にいいも悪いもない」とか「結局、音楽ってどれも一緒なんだ」ってたーたんの言葉がすごく響いて。まさに、僕の音楽のやり方とすごく一致する内容だったんです。たーたんみたいな高齢の方でも、僕の音楽で気持ちが高揚して楽しんでもらえてるんだって思って。
ーーそんな背景があったんですね。実際のレコーディングはどんな感じだったんですか?
Ryohu:「音読して」、って頼みました。たーたん、そういうの大好きだから喜んでやってくれて。でも、すごく緊張してました。「アルバムに入るよ」って伝えたらすごく喜んでくれて、「早く聴かせて」って言われてますね。
ーー自分自身のことを突き詰めたアルバムという印象を受けると当時に、KANDYTOWNのメンバーが誰も参加していないことに驚きました。
Ryohu:多分、他の人を入れるとその人の意見が入るから、曲の世界観が変わっちゃう。しかも、それを僕がコントロールしちゃったらおかしくなるなと思って。今回は自分のことを表現したかったので、コーラスに近い立ち位置のAAAMYYYを除いて、ゲストMCとしては誰も入れないということは決めていました。
ーーあと、Ryohuさんというと、これまではとにかくクールな詞世界というイメージがあって。今回、自分のことをここまで突き詰めて語るというコンセプトにおいて、リリックが書けなくなったり、行き詰まったりすることはありませんでしたか?
Ryohu:意外と、自分のことを言うのって、一度「恥ずかしくない」って思っちゃうと簡単でした。でも、「The Moment」然り、これまで“一点の曇りもない太陽に向かって詞をかく”ってことをしてこなかったから、実際、「何がいいんだろう?」みたいに自問自答することはありましたね。シティがどう、とか片肘を張って格好つけるんじゃなくて、漠然と“今に生きること”をありのままに書くことが一番いいのかなって。
ーー昨年末から制作を始めて、期間中にはコロナ禍もあったわけですよね。
Ryohu:緊急事態宣言が出たあたりはヤバかったかもしれないですね。もともと、自分のこと、そしてポジティブなことを曲にしたいと思って制作していたので、世の中がその真逆になってしまったというか。SNSを開いても、不安やネガティブなことばかりが目に入ってくる。なので、不安定な雰囲気の中で「何だろう」っていう感情になってしまったことは、結構食らいましたね。でも、それで一曲作ったんです。「No Matter What」って短い曲なんですけど。
ーー短いけど、アルバムにおいてスパイス的な役割を果たす楽曲だなと思いました。
Ryohu:どんな状況下でも、とにかくやんなきゃいけないし、進まなきゃいけないっていう気持ちを歌にして。制作中は、朝10時くらいにスタジオに着いて、夜7時くらいまでずっと籠もって曲を作る、という生活を繰り返してました。今となってはいい時間ですけど、その時は、やっぱり大変でしたね。誰の声も乗ってないビートの上で自分のことを思い返し、詞を書いては「こうじゃない、ああじゃない」って。その時、改めて、アルバムを作るってすごいことだなと思いました。IOとかKEIJUもそうですけど、みんな2枚も3枚もソロアルバムを出してすごいなと思いますね。行き詰まったら、そういう時こそ仲間の曲を聴いてみたり、連絡を取って、ちょっと気持ちをもらいに行ったり。周りのみんなが活動してるのをみているだけで、頑張ろうって気持ちになりました。