adieu=上白石萌歌、1年ぶりツアーで果たしたファンとの再会 様々な思いを音楽で伝える一夜に

adieu=上白石萌歌、ファンとの再会の夜

 「adieu」の名でアーティスト活動を行う上白石萌歌が、およそ1年ぶりとなるツアー『adieu Tour 2022 -coucou-』を開催。東京・大阪公演ともにチケットは完売で、9月24日に東京・LINE CUBE SHIBUYAにて初日公演を迎えた。前回ツアーには、フランス語で「またね」を意味する“a plus”を掲げたadieu。今回のタイトル“coucou”は、同じくフランス語で「やぁ!」とカジュアルな挨拶を表すのだという。「また会えて嬉しい」「尊く思っている」ーー素直な言葉を尽くして、きれいな歌を通して、何度もファンに愛を伝えたライブ。そんな、素敵な再会の夜をレポートしたい。

 ライブ当日は土砂降りの雨。にも関わらず会場を埋め尽くしたファンを、adieuはオープニングから帰り際まで気遣った。客席には、老若男女問わず、幅広い年齢層のファンが。ときに身体を揺らし、ときにクラップし、ときには頷きながら聴き入る。確立された「adieu」という世界観に引き寄せられるような、ときには迷い込むような、強い求心力を持つライブだった。最初のMCで「たくさん歌を歌います!」と宣言した通り、アンコールとMCでのサプライズを含め、計20曲を休みなく歌い抜いたadieu。「いろんな感情を、皆さんと一緒に、歌のなかで旅できたら」と、思いは音楽に込めた。

 暗転。緊張をほぐすように軽く身体を動かしたadieuが、青のライトに照らされて姿を見せた。スタンドマイクを握り、音楽に身を委ねながら、「穴空きの空」を力強く歌いあげる。一転、会場が夕暮れ色に染まった。まっすぐ前を見据えながら「灯台より」をしっとりと。「旅立ち」では、「皆さんこんばんは。adieuです!」と飛び跳ねる。会場から手拍子が沸き起こる。歌いながら、手の動きひとつひとつや視線でストーリーを語るさまは、さすが俳優。〈いい加減 旅するのやめて 大人になれたらいいのにね〉という言葉は、大人のようであり、少女のようでもあるadieuという存在が歌うからこその説得力があった。

 「花は揺れる」「強がり」と、いずれも重厚感のあるサウンド。adieuは心地よさそうに音に乗り、美しい高音を響かせる。そのシルエットのなんと格好いいことか。「天気」「天使」「景色 / 欄干」と続いた3曲。まるで異なる曲調にも関わらず、まさしく「adieuらしさ」が詰まっていた。耳に馴染む、不思議なサウンドとボーカル。ときに目を閉じて、その歌声に浸りたくなる。

 キャンドル風のライトに照らされ、アコースティックコーナーへ。美しいスキャットから始まる「ダリア」、〈今日は永遠って言葉 なんか信じられる日だね〉と歌う「愛って」。いずれも恋心を歌っているのに、まるっきり声が違う。選曲、演出、表現、どれをとっても、本ライブの見どころの一つであった。そこから、軽やかなカウントののちアップテンポな「蒼」へと展開。続くロックバラード「春の羅針」ではまた、ガラリと空気を変えた。サビでの音の広がりに、胸がドクンと高鳴る。

 MCでadieuは、5年前、16歳の頃のことを振り返った。「まさか自分がもう一つの顔を持つなんて」「歌を歌っていいものか」、そうした不思議な気持ちを、つい最近まで抱えていたという。「歌を届けているんだ」という実感を少しずつ得て、今は「とてもとても音楽が楽しい」「音楽が救い」だとも語った。「これからもadieuとして歌い続けたい」。そうして、adieuの始まりの曲、制服でレコーディングをしたという「ナラタージュ」を届けた。

 思えばこの曲からすでに、世界観は確立されていたように思う。祈り、清さ、優しさ、愛やゆるし、強さと、共存する儚さ――adieuという歌手であり、adieuという場所。人々が持ち寄ったさまざまな感情が、歌に重なる。そしてadieuが歌に乗せる。ひととき心を裸にできる場所が、adieuでありadieuのライブなのではないかと、続く「よるのあと」を聴きながら考えていた。

 艶のある大人びた声で歌う「ワイン」、甘く清涼な声で実直に届けた松任谷由実のカバー「Hello,my friend」、“ラララ”と無邪気な歌い始めから一転するハードナンバー「シンクロナイズ」では、エッジの利いたバンドサウンドに調和しつつも押し負けない「純」を貫いた。

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