「この作品を最後にしてもいい」Mardelasが乗り越えた葛藤 4年ぶりアルバム『Mardelas Ⅳ』コロナ禍での制作の裏側

「Last Round Survivor」はロッキーへのラブレターであり、全ての人への応援歌

Mardelas "Last Round Survivor" (Official Music Video) [ENG&JP sub]

――そして、絶対に触れなければいけない映画『ロッキー』をテーマにした「Last Round Survivor」ですよ。とんでもない曲を作りましたよね。

蛇石:愛と執念で書きました。映画『ロッキー』の全シリーズを観ながら、名台詞やカッコいいと思った言葉をすべて書き出して。主題歌などの劇中で使われている曲のタイトルや歌詞からも引用してるんですよね。だから、英詞に関しては、パズルに近い感じで書いたんですけど、とはいえ、ちゃんと意味も通るようにしなきゃいけない。このテーマで書くのであれば、元ネタがアメリカの映画なので、Aメロは英詞じゃなきゃ意味がないと思ってて。だけど、サビはMardelasらしいキャッチーなスタイルだと思ったので、そこは日本語の歌詞にして、爆発力を上げたいなと。これはロッキーの目線じゃないんですよね。ロッキーへの愛を叫んでるんですけど、どっちかというと、エイドリアンとか視聴者、私の目線で書いてて。自分的に好きなのが、2サビからギターソロへの繋ぎなんです。ここはエイドリアンの目線で見ると、ギターソロの部分がロッキー自身を表してるみたいな。1曲目の「Burn Out!」で葛藤している及川さんも私は見ていたので、彼に“Last Round Survivor”になってほしいという気持ちもあったんですね。そういうイメージで繋げたというのは、私の解釈としてはあります。ただ、それはみんなに押しつけたいわけではなくて、そういう見方もできるということですけど。

――あくまでも作り手としての思いですね。

蛇石:そうですね。この曲はロッキーへのラブレターではあるんですけど、彼と同じように、一生懸命、毎日頑張って生きているすべての人に向けて書いた応援歌ですね。これがMV曲になったんですけど、それもこういったメッセージがちゃんとあるからだろうなと思います。

――『ロッキー』をテーマにするアイデアは、曲を書く時点であったんですか?

蛇石:いや、最初はそういうつもりではなくて、樹京にアレンジのオーダーをしてしばらく待ってたんですけど、そのうちにコロナ禍になったんですね。家に籠もる時間が増えた分、アルバム制作に向けたネタ集めじゃないですけど、やれることをやりたいなと、映画を昔よりもたくさん観るようになったんですよ。そこで名作と言われるものをいろいろ観ていたんですが、『ロッキー』シリーズにすごく救われたんです。やっぱりエンタメの力ってすごいなって。そこで自分もそういう存在にならなきゃいけないって強く思ったんですよ。そういった経緯があって、メロディ的にもすごく自信があったので、じゃあ、この曲にそのテーマを当てようと。

――歌詞における徹底したこだわりは、ここでは全部解説しきれないものですし、おそらくオフィシャルサイト等で公開していただけると思うんですが、アルバムを聴いた人は、その解説をぜひ読んでみてほしいですね。『ロッキー』を知る人なら驚愕するはずですから。

蛇石:うん。でも、『ロッキー』を知らない人にも共感してもらえる内容ではあると思うんですね。ボクシングがメタファーになっていることは伝わると思いますし、感じてもらえる部分がある曲だとは思います。ただ、『ロッキー』ファンには激烈に刺さるかなっていう(笑)。

――ええ。この曲を聴いて、『ロッキー』という映画を観てみようかなと考える人もいるでしょうね。

蛇石:そうなってくれたら、それほど嬉しいことはないですね。今後、『ロッキー』の延長上にある『クリード3』が公開されるんですね。これはスピンオフという位置づけの作品ですけど、70年代から続いているシリーズそのものが“Last Round Survivor”ですよね。そういう存在を若い人にも知ってもらいたいなと思います。

――曲名はどのように考えたんですか?

蛇石:ボクシングってことで、「Champion」みたいなのってありがちだと思ったんですけど、みんなが『ロッキー』に心を打たれるのって、勝敗じゃないんですよね。最後までリングに立っていること、立とうとする気持ち、執念みたいなものが人より強いからだと思うんですよ。だから、この曲では「勝て!」とも言ってないですし、もちろん「負けろ!」とも言ってない。最後まで立ち続けることに意味がある。そうなると、「Last Round Survivor」というのが、一番しっくりきますよね。

――『ロッキー』の主題歌を担当しているのもSURVIVORですからね。

蛇石:そう、そこもかけてるんですよ(笑)。「Eye Of The Tiger」ですよね。

――そういう仕掛けも含めて、見事にいろんなものが組み込まれている。歌詞としての機能性にも力が注がれていて、曲そのものもMardelasの魅力を十二分に伝えてきますね。

蛇石:そうですね、隙間いっぱいに詰め込んだので。ちゃんと韻も踏んでるんですよね。

及川:個人的にアレンジでの最高傑作ではありますね。これ以上ないんじゃないかっていう展開で作れましたし、一見、普通のアニソンのように聞こえる感じのアレンジなんですけど、最初に言っていた通り、トラディショナルな部分で言えば「Painkiller」(Judas Priest)のリフっぽい雰囲気を出してみたり、サウンドしかり、そういったアプローチで本物のハードロックバンドであることも示せたかなとは思ってます。それから、ギターソロはすごく考えましたね。テクニカルさとエモーショナルさとキャッチーさのバランス。歌からバトンをもらって、自分がさらにそれを盛り上げて、次のセクションに繋ぐ……常に意識はしてるんですけど、それが究極の形ではまったかなと思ってます。

――印象的にはメロディックなソロパートですよね。

及川:そうですね。尺もそんなに長くないので、そこで何を表現するかみたいなところで、泣きというよりは、流れと抑揚を大事にしました。もちろんめちゃくちゃ難しいんですけど。一瞬、Cメロを彷彿させるフレーズを入れたりするのもエモいなと思って。

蛇石:Mardelasにおけるギターソロって第2の歌だと思ってるんですね。そういうものも示してくれた、私は今回のアルバムの中でこのギターソロが一番好きです。

――サビの英語のコーラスパートにはモダンなセンスが感じられますね。

蛇石:作曲の段階ではそこのガイドは入れてなかったんですけど、お客さんも一緒に歌えるパートみたいなものを何か入れようとは思ってました。Mardelasは男性陣がちゃんとコーラスができるし、ライブでも盛り上がるだろうなってところまで考えてましたね。ただ、〈Eye Of The Tiger〉をどこに入れるかを最初に考えてたんですよ。だから、「コーラスはいらないよ」って言われたら、歌詞をすべて書き直さなきゃいけないから、ちょっとヒヤヒヤしてたんです(笑)。〈Rising Like A Spider〉も「Burning Heart」(SURVIVOR)のサビの一節なんですよね。

――でも、マリナさんも『ロッキー』をリアルタイムで観た世代ではないでしょう?

蛇石:『ロッキー4』のときですら、生まれてないですね。子供の頃にちらっとテレビで観た記憶はあるんですけど、内容は全然覚えてなくて。全部観たのはコロナ禍になってからなんです。『ロッキー・ザ・ファイナル』が一番好きです。あれを観てこの歌詞ができたといっても過言ではないですね。冒頭の〈心の底に秘めた情熱を燃やせ〉も『ザ・ファイナル』から来てて、映画では“The stuff in the basement”という言い方をしてるんですけど、ロッキーとポーリーが話すそのシーンがすごく好きなんですよ。

――映画で言うと、「Expendable」の歌詞に関しては、『ロッキー』と同じくシルベスター・スタローンが主演した『ランボー』に着想を得たそうですね。

蛇石:はい。映画の『エクスペンダブルズ』と見せかけて、実は『ランボー』っていう。最強の戦士なのに、自分のことを使い捨てとか消耗品だと言うシーンに衝撃を受けて。映画の中ではさらっと流れちゃうんですけど、“I am expendable”って言ったときの表情がすごく印象に残っていて。何となくエンタメの世界にも、この考え方は通じるものがある気がするんですね。昔、カッコいいと思ってたバンドが、プライドを捨てたり、魂を売って、消耗品というか量産型というか、流行っている音楽に靡いていくことってあると思うんですよ。でも、Mardelasに当てはめて考えたときに、それは許されないし、自分は絶対にそうなりたくないと思ったんです。タイトルは“消耗品”ですけど、「消耗品じゃねぇよ!」っていうのが、この歌詞の内容ですね。消耗品になるかならないかは、他人が決めることではなくて、自分が自分をどう扱うかで決まると思うんです。だからサビの〈誰のものでもない残響 その続きをさあ 解き放て〉というのは、自分にも重ねていたりしますね。『Ground Zero』を出したときの残響がまだ響いていて、『Mardelas IV』を出して、その残響を響かせ続けていくのかどうかと。

――2回目、3回目のサビの締めにある英語の部分も、自分に言い聞かせている言葉ですよね。

蛇石:そうですね。何のためにこれをやっているのか思い出せ、忘れんなよっていう自戒の念も込めて。最後の台詞も映画からの影響ですね。

――最後に出てくる英語の語りのところですね。

蛇石:そう。イタリアンマフィアみたいな訛りをわざと入れて。そういう工夫もしてますね。逆に「Last Round Survivor」は、とにかくアメリカンイングリッシュに寄せてて。英語のディレクションにも入ってもらったんですけど、もともとの自分のアクセントとしては、どちらかというとブリティッシュみたいなニュアンスがあるみたいなんですね。

――そういった使い分けができるのはすごいですね。

蛇石:そういう耳は良いほうというか、映画もたくさん観ていた時期なので。

本石久幸

――ヘヴィなサウンドも特徴的な曲ですよね。

及川:アレンジの方向性としては、モダンというものを一番採り入れたものかなと思ってて。そもそも7弦ギターを使って、ソリッドな音にしてるんですよね。たとえば、Aメロの裏ではめちゃくちゃヘヴィで切れ味のある音にしていて、最初のAメロが終わった後に入る間奏っぽいセクションでは、楽器でアプローチするのではなく、英語のコーラスを入れようとオーダーしたんです。そういうところが往年のハードロックではないアプローチだと思います。ギターは好きにメロディックに弾かせていただいたり、泣きをふんだんに入れたりはしてますけども、その辺りのバランスですよね。すべてを新しい方に振り切るんじゃなくて、Mardelasがやっているということに意味を持たせないといけない。その混ぜ方は悩んで構築しました。

本石:掛け声コーラスをやっているところの裏もそうなんですけど、この曲はベースを録るのが一番難しかった曲ですね。何度弾いても全然はまらなくて。音的に抜けてこない。特にサビではツーバスを踏みまくっているので、ドラムに負けちゃうんですね。だから、ヘヴィさを取るか、ソリッドさを取るか、かなり悩んで、手持ちのベースを取っ替え引っ替えして、エフェクターもあれこれ替えたり、試行錯誤して。可能なら、各セクションでベースを使い分けたかったぐらいなんですけど、結局、一番使い慣れてるG&Lのベースで弾いて。良いサウンドになったと思います。

――ただ、確かにこのアルバムでは様々なベースが聴けますよね。

及川:今回、僕がベースラインを結構作ったんですよ。それをなぞってもらった曲が多くて。それゆえの印象があるかもしれないですね。

――「String of Life」のベースも印象的です。

及川:あそこも僕がデモで弾いたものをコピーしてもらって。ベーシストにすべて委ねることが良いときもあれば、最近は、アレンジで具体的なイメージがある場合は、ニュアンスまで含めて、そのフレーズまで作曲すべきだと思っていて。それもバンドが良い結果を出すために必要なことかなと思うんですね。

僕たちも“Last Round Survivor”なんだと、お客さんに伝えたい

――ケースバイケースではあると思いますが、どんなプロセスを経るにしても、最終的な目標はより良い曲に仕上げることですもんね。イソップ寓話の『すっぱい葡萄(狐と葡萄)』をテーマにしたという「The Fox and The Grapes」も曲と歌詞が同時に生まれてきたようなものですか?

及川:そうですね。「Burn Out!」に近いかな。作曲にこだわりがすごくあったから、どうしても歌詞も書きたくて。実はマリナから違う仮歌をもらったんですけど、申し訳ないけど、自分でも書かせてもらって。最後は前向きな感じにしましたけど、最近、こういう人が多いよねっていうのをちょっと皮肉で書いてみたんですね。

――自分を正当化するための屁理屈を、あたかも正論であるかのように主張する人は増えた気がしますよね。

及川:たとえば、ネット上のことだけで言っても、今ならSNSですけど、ブログとかも、昔は著名人だけがやる世界だったじゃないですか。それをみんながやるようになって、人間の汚い部分がめちゃくちゃ見えるようになって。そこに対するストレスとかも書いてます。

――すべての人がそういうわけではないんですけどね。

及川:そういう人の声が大きいんでしょうね。悪目立ちしているというか。本当に醜いですよね。こんなことをみんな考えてるのかなって。それもすべて防衛機制なんですよね。自分の虚無感とかをそういうことで消化して、自分が価値がない人間だと思っていることをごまかし続けて生きてる。人を叩くこと、下げることで自分と同列にしたつもりになって虚無感を埋めようとする。いいなと思うものをそう言えない心の惨めさというか。足の引っ張り合いも酷い。現代の闇ですよね。

――人間の愚かさをあぶり出すのが、このネット社会の一つの真理になっている気はします。さて、バリエーション豊かな楽曲が揃いましたが、Mardelasの個性が広範囲に渡って表現されたアルバムになりましたね。それゆえに、これをライブでどう表現していくのかという楽しみも増してきます。

及川:ツアーは9月18日から10月22日まで続きますけど、めちゃくちゃ練習しないとね。毎度のことですけど、難しくなり続けてるので、自分との戦いです。

本石:この2年、配信とかで今まで以上に音にこだわってきたので、それが成果として出せればいいかなと。機材もちょっと変えましたし。あとは今回は僕の地元の福岡公演があるので楽しみです。

及川:コロナというものを乗り越えて……まだ終わってはいないですけど、僕たちも“Last Round Survivor”なんだと、お客さんに伝えたいですね。元気をあげたい。俺たちは死んでないぞと。ライブもアルバムのコンセプト通りの場にしたいですね。

蛇石:一言で言うとしたら、“Mardelas is Back!”ですね(笑)。アルバムもツアーもそうなんですけど、進化して帰ってきたぜと言いたいし、こういうご時世だからこそ、生の音も聴いてもらって、信じていたMardelasは間違いなかったって感じてほしいし、これからファンになってくれるであろう人たちとも、ボロボロになりながらかもしれないですけど、一歩ずつ一緒に進んでいきたいなと思います。

Mardelas『Mardelas Ⅳ』
 

■リリース情報
アルバム『Mardelas Ⅳ』
2022年9月7日(水)発売
定価:3,300円

【収録曲】
01. Burn Out!
02. Expendable
03. Last Round Survivor
04. The Fox and The Grapes
05. G-Metal [album version]
06. Raccoon Party
07. Force & Justice [album version]
08. Spider Thread [album version]
09. String of Life
10 .M.D.M.A

商品情報&特典、インストアイベントや抽選会情報はこちら↓
https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=44674

■関連リンク
OFFICIAL SITE: http://mardelas.com/
OFFICIAL TWITTER: https://twitter.com/Mardelas_info
キングレコード公式アーティストページ:
https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=44674

■ツアー情報
『“Mardelas Ⅳ” Tour 2022』(※全公演入場制限あり)
9月18日(日)神戸 太陽と虎
9月19日(月祝)広島 CAVE-BE
9月23日(金祝)博多 DRUM SON
9月25日(日)大阪 北堀江 club vijon
10月1日(土)名古屋 今池 CLUB 3STAR
10月8日(土)仙台 ROCKATERIA
10月22日(土)東京 池袋 Club Mixa

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