「この作品を最後にしてもいい」Mardelasが乗り越えた葛藤 4年ぶりアルバム『Mardelas Ⅳ』コロナ禍での制作の裏側

Mardelas、コロナ禍での制作の裏側

このアルバムでもう終わりでもいいと思ってた

――樹京さんが作曲のみならず、作詞もしている1曲目の「Burn Out!」にも共通する背景が感じられるんですが、この曲はどんな思いから生まれたんですか?

及川:最終的に1曲目になりましたけど、曲的にはMardelasの一つの柱、8ビートのキャッチーな曲……今回の僕なりの100点と言えるような、そういう曲になっていて。作曲については今までもすごく思い入れがありましたけど、作詞という面でも、言いたいことを世に言っていきたい気持ちが、ここ数年すごく強くなってきてて。曲としても大切なものだし、ここは僕が歌詞を書きたいとマリナに伝えて書いたんですが、ほとんど僕の心の中みたいな内容になってるんですね。アーティストって、表面上はすごく強く見せているし、それが仕事だとはもちろん思ってるんです。元気を与える側じゃなきゃいけないですし。ただ、僕にも人間らしい部分はある。歌詞でそういう部分を見せることで、逆に元気を与えたいって思ったんです。サビの〈ここで終われるなら それもいいね〉というのは本心というか、このアルバムでもう終わりでもいいと本当に思ってたんですよ。マリナにもそう言って。「辞め時かな」みたいな。そういう苦悩も詰めた感じですね。

――“これで終わり”というのは、どういう意味なんですか? 「もうやりきった」なのか、「もうこれ以上できない」という諦観なのか。

及川:さっきも言ったように、コロナ禍は1年で終わると思って走り続けてたんですよ。配信も頑張って、YouTubeも始めて。でも、まだ終わりそうもない。制作意欲はもちろんあったんですけど、これでも世に受け入れられなかったら、この作品を最後にしてもいい。それぐらいのつもりで作ってるから、別にこれで終わりでもいいって。ただ、そうは言ったけど、日々、気持ちって変わるじゃないですか。サビの最後の〈まだ終われない〉っていうワードは、ちょっとポジティブに聞こえますよね。だから、弱音を吐くけど、結局終われないっていう、運命みたいなのも音楽には感じていて。それを歌詞にして表現しました。

――自分を奮い立たせるような意味合いもある?

及川:そうですね。でも、やっぱり弱気のほうが強かったかもしれないですね。辞められない運命だからやるしかないかなって感情のほうが強いです。ただ、こういった生々しさみたいなものがあったほうが、人の心には刺さると思うし、着飾った自分を好きでいられるよりは、自然体の自分で評価されたい。20代のときとは全然考え方が違っていて、等身大の自分で生きていく自信とかを身につけてきたのかな。だからこそ、こういう歌詞を書いて、世に出しても恥ずかしくないと思えるようになったのかなとは思いますね。

蛇石マリナ
蛇石マリナ

――マリナさんはこの歌詞をどう捉えたんですか?

蛇石:葛藤してるんですけど、結局、終わらないでしょっていう感じでしたかね。Aメロと、Bメロとかでは、すごく苦しそうな内面が伝わるんですけど、サビでは、そんな自分で終わりたくないみたいなポジティブな意志を感じましたね。だから、それを歌でも表現したかったし、サビに関しては、キラッとした感じで、人の耳にしっかり届くような明るさを持った声で歌いたいなって。

――確かにサビでガラッと空気感が変わりますもんね。

蛇石:そうですね。それは樹京からのオーダーもあったし、自分もそういう解釈をしてたので。

歌詞はキャッチーじゃなきゃいけない

――樹京さんはどうやって作詞の技法を身につけていったんですか?

及川:僕は本作から作詞をやらせていただいてるので、まだ手探りではあるんですけど。作曲するとき、最終的にはメロディを鍵盤で打ち込むんですけど、適当な歌詞を頭に思い浮かべながら口ずさんで進めていくことが多いんですね。その意味では、言葉のハマり方などについては、作曲しているからこそのものもありますし。ちょっと言葉的に拙い感じもあるとは思うんですけど、それもまた自分らしくて良いかなと思ってます。

――拙いというよりも、書き慣れている感じがしたんですよ。作詞と作文とは違うじゃないですか。だからこそ、作詞のルーツがどこにあるのかなと思ったんです。

及川:あぁ。僕はもともと論文とかを書いてたので(笑)、文章は書けるんですよね。

――でも、論文とは反対に位置するような書き方ですよ。

及川:ははは(笑)。マリナにいつも口うるさく言ってるのは、歌詞はキャッチーじゃなきゃいけないってことなんですよ。そのこだわりは自分で書くからこそ、すごく意識してます。言いたいことがあったとしても、大切なワードが飛んでこないと、良い曲とは思われないんですよ。この「Burn Out!」を自分で書きたいと思ったのは、サビが超強烈にキャッチーで、だからこそはめたいワードのイメージがもともとあったからなんですね。そこに自分の主張を結びつけていって。だから、何かしらテクニック的な書き方もあるのかもしれないです。

――ある種の経験則なんですね。いずれにしても、アルバムのオープニングを飾るに相応しい曲ですよね。

蛇石:コンセプト作品として3rdアルバムの後に作った『Ground ZERO』は歌詞の内容的にもすごく葛藤した作品だったんで、この曲がオープニングになったことで、前作との繋がりもすごくしっくりきたなって。『Ground ZERO』には、原点回帰が根本にテーマとしてあったんですけど、今回のアルバムに関しては、その後の作品としてどう位置づけていくかというイメージがあったんですね。時代設定も現代から近未来みたいな。モダンなアプローチをしたい考えもあったので、ファンタジーではなく、よりリアリティのあるイメージの楽曲をメインに揃えたいと思っていたんですよ。その意味では、わりと当初に思っていた通りの作品になったと思います。

――「Force & Justice」も『Infinite Trinity』に収録されていた曲ですが、これは樹京さんが作詞・作曲を担当していますよね。

及川:EPに入れた経緯としては、2人(蛇石と本石)が書いたものがパンチのある曲だったんで、そこにアルバムのリードトラックになるような曲を並べると、お腹いっぱいすぎないかなということで、ちょっと遊び心を入れた曲を選んだんです。作曲に関しては、僕はロボットアニメが好きなんですよ。アニメ自体はリアルタイムじゃないですけど、『スーパーロボット大戦』シリーズとかのゲームをすごくやってたんですね。歌詞も含めて、その一面を落とし込んでみようかなと思って書いた曲です。Aメロ、Bメロのコード進行が『マジンガーZ』(Zのテーマ)とまったく一緒で、実はそのまま歌えるっていう隠れた遊び心もあったりするんですよ(笑)。

――そうだったんですね!?

及川:そう(笑)。そこに僕らしいメロを乗せて、現代風にアレンジして。サビとかはすごく刺さる感じの歌詞にして、疾走感を加えて。

――作詞のクレジットには樹京さんとマリナさんの名前が並んでいます。

及川:サビの英語の部分は空白にしておいて、ここに何か良い感じのキャッチーな英語を入れてくださいとマリナに書いてもらったんですよ。

蛇石:単純に英語の部分だけですね。あとは〈ワールドシェイキング〉と入れたのも私。

――なぜ〈ワールドシェイキング〉と?

蛇石:『(美少女戦士)セーラームーン』が好きで(笑)。本当は“バーニングマンダラー”にしたかったんですけど(笑)、はまりが悪かったんですよ。ただ、私はキャラ的にセーラーマーキュリーじゃないなとか、そんな中で語感的にも合ってるのはセーラーウラヌスの必殺技〈ワールドシェイキング〉かなと。

――よく『セーラームーン』が思い浮かびましたね。この曲は、EPの3曲の中よりも、アルバムの中で聴くほうが引き立っている気がしますね。

及川:あぁ、本当ですか。

蛇石:でも、そうかもしれないですね。

及川:曲順的には6曲目の「Raccoon Party」と7曲目「Force & Justice」で、シリアスな場面をパッと切り替えてるんですね。でも、歌メロとかは、リードトラックになってもおかしくないぐらいの気持ちでは書いているので、遊び心を入れたとはいえ、すごく王道で自分らしい曲かなとは感じてますね。

本石:デモの段階では歌詞が入ってなかったから、僕は普通にメロだけを聴いて、王道の曲だなと思ってたんですよ。そしたら掛け声とかが入ってくるし、変えてきたなと(笑)。新機軸というか。でも、サビがキャッチーであれば何とでもなるというか……それは暴論ですけど(笑)、こういう遊び心もアルバムにあったらいいですよね。

及川:ギターソロの前の音は、レーザーガンのサーキットを手に入れて、ギターに組み込んで出してるんですよ。90年代に流行りましたよね、GLAYのHISASHIさんとかがライブでやってて。好きだった90年代ヴィジュアル系の伝統じゃないですけど、そういう爪痕もちょっと入れようと思ったんですよね。ロボットアニメが元になった曲だし、ここは光線銃の音をレコーディングしようみたいな。ライブでも光線銃を使おうかなと目論んでて。2022年にやってる人は多分いないと思いますけど。

――完全再現ですね。でも、新鮮に映るかもしれませんね。

及川:そうですよね。多分、知らない人が多いと思うから、逆に新しいと思われることもあるのかもしれない。

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