『D.LEAGUE』、個性的なプロデューサーが手がけた音楽の魅力 採点に収まりきらないダンスとの豊かなケミストリー
Benefit one MONOLIZ 〜トータルプロデュースで魅せた美〜
Benefit one MONOLIZは、今季シーズン12作品を通し「MONOLIZ ART MUSEUM」というコンセプトを掲げトータルプロデュース。音楽に関しては1年目からタッグを組むプロデューサー・WasViを中心に、美しいサウンドデザインとトゲのある言葉を特徴とする、統一感ある楽曲を生み出してきた。昨シーズン、第一期avex ROYALBRATSも前ディレクター・RIEHATA自身が全曲ボーカルを務めることで楽曲に一貫性を持たせていたが、それとはまた違うベクトルである。
ROUND.3「Stronger」(prod:ivuje)は、主張しつつ儚さも感じさせるボーカルと、そのミックスのバランスが独特な世界観を表現。そして「セイレーン」をイメージしたROUND.11のステージにおける「FOR THE」では、イントロから現代音楽調に響くピアノと逆再生された声や音の粒が、人魚の尾びれで跳ねる水を連想させつつ、それが時空をねじ曲げているかのようだった。
さらにプリミティブなテーマ性のROUND.6「MAYA」(prod:WasVi)と「QUEEN BEE」を掲げたROUND.8「Shake Dat」(prod:XLII)での大門弥生、「ジェンダーレス」を打ち出したROUND.5「Breaking dawn」(prod:Kimito&McD (THE GAME SHOP))におけるSARMの客演起用も注目に値する。歌唱にブラックミュージックやラテンの要素を持つふたりは、チームの音楽的イメージと親和性が非常に高い。
特に大門は、MONOLIZのトレードマークと符号する「ヒールで仁王立ち」という楽曲をもともと歌っており、両者のコラボレーションはもはや必然。昨年度はSPダンサーの起用タイミングが巧みだったMONOLIZだが、今シーズンはそれ以上にシンガーの人選が光った。
彼女たちによる楽曲群の素晴らしさについてはダンサージャッジ・Seishiroが唯一指摘していたが、この取り組みが採点に表れづらいのは残念である。トータルコーディネートを目指す方向性や、他の作品が有機的に結びつき全体として何かを表す、という見せ方は審査員のローテーション方式と相性が悪いともいえるが、いつかそこにフォーカスされる日が来てほしい。
ここまでレギュラーシーズン12戦のそれぞれの印象的な音楽を考察してきた。もちろん、惜しくもプレイリストに入らなかった楽曲も多く存在している。藤田織也やShunské G、aimiをはじめとする魅力的なシンガーが客演として不意に登場するのも注目だし、Matt CabやKzyboostといったプロデューサーにもスポットが当たるべきだ。そして勝手ながらTRACEY(CyberAgent Legit)やHINATA.M(KADOKAWA DREAMS)らをはじめ、Dリーガー自身が歌うことにも積極的になってほしい。踊り手の持つリズム感が日本語の歌唱に新しい感覚をもたらすと信じている。
リーグがより広く認知されて戦いが多様になっていけば、音楽監督を配置するチームも現れるかもしれない。専属のプロデューサーがビートメイカーやミュージシャンを複数人選出してチームを作り、そこに客演シンガーやラッパーを加え、ミックスエンジニアも入れて……考えただけでワクワクしてくる。すでにそうなっている部分もあるかもしれないが、ダンサーにとっての夢の舞台『D.LEAGUE』は音楽家にとってのそれにもなり得るか。
音楽的に見ても『D.LEAGUE』には希望に満ちた未来がある。ここからチャートインしたり、モードを変えたりする楽曲、新たなスターが生まれる可能性は十分に考えられる。どうかクリエイティブな気持ちが絶えずリーグにあふれるように。来季も楽しみだ。