くじらが初の自身歌唱アルバムで向き合った“生活”や“生きること” 楽曲提供とフィーチャリングの違いも明かす
曲にとって一番いい状態を目指すのがフィーチャリング
ーーさて、そうやって制作されたアルバム『生活を愛せるようになるまで』ですが、色んなタイプの楽曲が収録されてます。まずは「水星」について教えてください。
くじら:その場から離れたいけど離れる決断ができずにいる人に対して、後押しできるような曲をずっと作りたいと思ってて。自分の居場所でも仕事でも、自分がいなかったらこの場所に迷惑が掛かってしまうと悩んでる人に向けて、まずその悩んでること自体が正しいし、もし行きたい場所があるんだったら行っちゃおうよと。曲調はアッパーチューンでありつつも、平歌の部分では言いたいことをたくさん詰め込んだ曲になってます。
ーーピアノロック調の「エンドロール」も歌詞が強いですよね。
くじら:「エンドロール」は自分の中では特殊な作品で、怒りを怒りのままに書いた曲ですね。“あなたの怒りは正しいよ”と一緒になって怒ってあげられる曲になってます。テンポは速いけどロック過ぎず、綺麗だけど疾走感がありつつ暗めの曲っていうのは意識しました。言葉選びも特殊で、普段はしないようなことをしたなと思います。たとえば〈ぐちゃぐちゃ、どろどろ〉とか、サビまではずっとうなだれて歩いてるような雰囲気を出しつつ、サビで一気に視界が広がるような歌詞やメロの構成にしたり。
ーーその一方で「四月になること」はピアノだけの曲に仕上がってます。
くじら:ピアノ一本、ボーカル一本で歌える曲を作りたいと思っていたのと、アルバム全体を通して一つこういう曲を入れたいと思ってたんです。歌詞やメロは先にできてたんですけど、どういうアレンジにするかを考えた時に、歌詞もメロも強いからこれはピアノ一本で行こうと決まりました。それでコーラスを水槽に頼んだら「デュエットみたいな感じにしていいの?」って聞かれたので、それで行こうと。
ーーそして「抱きしめたいほど美しい日々に」は“THEくじらサウンド”というべき作品ですよね。
くじら:ありがとうございます。元々この曲がアルバムタイトルになる予定だったので、それくらい気合いが入ってる曲です。それまでくじらっぽくない曲のリリースが続いていて、それは「こういう方向もやっていきたいんだ」という意思表示だったんですけど、そろそろ“くじらっぽさ”をふんだんに詰め込んだ曲を出そうと思ったのがこれで。
ーー途中で登場するラップパートはくじらさんの新しい一面だと思いました。
くじら:実はラップのつもりで書いたわけではなかったんですけど、後から聴いたら完全にラップですよね。自分としては特に手法を変えたわけではなく、なるべく聴いてて耳が気持ちいい音の流れでボソボソと歌ったらこうなりました。
ーー歌詞はどんなことを表現してるんですか?
くじら:友達と遊んで楽しかった日とか、良い曲が完成したとか、コラボが上手くいったりだとか、そういう言葉や表情だけでは表現できないくらいの深い喜びが、内から溢れ出る瞬間がたまにあるんですけど、そんな日々に焦点を当ててみてもいいんじゃないかと思って。そういう瞬間って誰しもが生まれてから一度は経験してるんじゃないかと思うんです。そういう瞬間を一つに束ねて作品にして、いつでも引っ張り出せるようなものにしたら、すごく勇気づけられるんじゃないかなって。
ーーそのテーマは表題曲「生活を愛せるようになるまで」にも共通してますよね。
くじら:そうですね。「生活を愛せるようになるまで」は、こういう感覚が自分の中から湧いてきて、これは発見だ、何か形にしないといけないと思ってできた曲で。音楽活動を始めたての頃はアルバイトで稼いだお金をすべて制作費に注ぎ込んで、「ご飯はどうしよう?」みたいな生活をしていたので、今まで生活のことを好きだと思えたことがなくて。自分の生活や自分自身のこと、自分のやってきたことを肯定できた瞬間がなかったんです。でも最近はそういうのもなくなってきて「今日の自分、ちゃんと生活してる!」と嬉しくなったことがあって。こういう瞬間が自分にも来たんだと。その時、次のアルバムはこれだとはっきり思ったんですよね。
ーー今現在、生活のことは愛せてますか?
くじら:一瞬そこにタッチしたんですけど、また逆戻りというか、どうしようってなってます。ただ、こういう感覚があることを知れたのはすごく大きいこと。これからどれだけ落ち込んだとしても、このアルバムは自分を救ってくれるんだろうなと思ってます。
ーー改めて、今作は全曲ご自分での歌唱でしたが、くじらさんはご自身のボーカルをどう評価してますか?
くじら:うーん……なかなか客観視するのは難しくて、いまだによく分かってないっていうのが正直なところです。今は自分の声を使って表現する時の武器を探してる段階ですね。そういうものをこのアルバムを通して探していく旅でもあったのかなと。自分ではこういう曲調は難しいと思ってたけどちゃんと歌えたとか、パワー系のボーカルも意外と行けるんだとか、色々と模索しながら歌ってました。それこそyamaさんに曲を作る時だったら、yamaさんの「歌ってみた」を聴き込んでから作品を提出していたので、たぶんこれからこのアルバムを聴き返したりライブをしていくなかで、自分に合ったものが少しずつ固まっていくんじゃないかと思います。
ーーくじらさんと言えば「ボカロP feat. 歌い手」という形を一般化させた方だと思いますが、いわゆる楽曲提供との違いは何でしょうか?
くじら:個人的には全然違うものだと思っていて。誰かに書くっていうのは、その人の声が一番活きるようなオーダーメイドの曲を作ること。自分は引っ込んでていいから「あなたの素晴らしいボーカル力をとにかく世に広めたいんです」という気持ちで書いてます。フィーチャリングで歌い手さんを迎える時は、曲を書きながらこの作品にはこの歌い手さんが合うんだろうなという、その曲にとってベストの「歌ってみた」っていう感じで。曲にとって一番いい状態を目指すのがフィーチャリングです。
ーーボーカル主体か、曲主体か、みたいなことでしょうか?
くじら:たとえば「ねむるまち」や「金木犀」だったら、yamaさんやAdoちゃんに「歌ってみた」を歌ってほしくて、この曲には2人の声が絶対合うからやってほしいという気持ちで作りました。そういう違いはあるかもしれないです。
ーー今までの活動を見てきて、個人的にくじらさんは2020年代を象徴するクリエイターなのかなと感じています。そういった意識はありますか?
くじら:まったくないですね。たとえばYOASOBIやAdoちゃん、yamaさん、和ぬかさんやVaundyさんとか、そういう方たちが時代のアイコンなんだろうなと思っていて。自分はそこに噛めている意識はないですね。そこに行きたいなとは思いつつ、でも全然まだで。今は色んなことをフットワーク軽く取り組んでいるところです。
ーーライブをする予定はあるんですか?
くじら:はい、年内にはします。元々バンドを組んでいたので、ライブハウスを回った経験もありますが、とはいえ2〜3年振りなので当日は緊張してるかと思います。でも楽しみですね。
ーーそのための準備はもう始めてますか?
くじら:ボーカルトレーニングはずっとやってます。あとは体力をつけなきゃですね。
ーー今後、アーティスト活動と作家活動はどのくらいのバランスで進めていく予定ですか?
くじら:もちろん求めていただけたら常に書きたいという気持ちはあります。自分も歌いながら同時にアーティストさんに歌っていただくっていう形もできるなと思ってますし。新しい形を模索しつつ、求められ次第で色んなことにチャレンジできればと思います。
ーー10年後、20年後のビジョンはありますか?
くじら:何も想像できていないですね。逆に今から10年前の自分を考えると、こんなことになるなんてまったく思ってなかったので。逆にこれから10年先、自分が何をしてるかすごく楽しみです。何か楽しいことをやっててくれたらいいなと思ってます。あんまり自分が嫌だと思うような大人にはなってなければいいかなと。好きなことを好きな人を集めてやりながら、それが新しい形として世に広まったり、自分の“楽しい”が、他の人の“楽しい”に繋がっていればいいなと思います。
■リリース情報
くじら 初の歌唱アルバム『生活を愛せるようになるまで』
2022年8月17日(水)発売
数量限定完全生産限定盤:CD+オリジナルグッズ、特殊パッケージ仕様 / \8,000+税 / SRCL-12191~2
予約はコチラ⇒ https://smr.lnk.to/wdsseikatsuCDnWN
通常盤:CDのみ / \3,300+税 / SRCL-12193
予約はコチラ⇒ https://smr.lnk.to/wdsseikatsuCDlWN
・くじら「生活を愛せるようになるまで」店舗別特典
※各特典は、数量限定・予約者優先先着順となります。
・TOWER RECORDS全店(オンライン含む/一部店舗除く):オリジナルステッカー(TOWER RECORDS ver.)
・Amazon.co.jp(ECサイト):メガジャケ
・楽天ブックス(ECサイト):オリジナル丸型缶バッジ
・応援店特典:オリジナルステッカー(応援店 ver)※対象店舗は後日発表
・セブンネットショッピング:ミニスマホスタンドキーホルダー
・TSUTAYAオンライン早期予約特典:オリジナルスクエア缶バッジ(2022年7月4日(月)17:00~7月24日(日)23:59までの期間中に、TSUTAYAオンラインショッピングにてご予約いただいた方に、早期予約特典をプレゼント。)
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