MANNISH BOYS、この2人ならではの豊潤な音楽性と表現力 高揚感に包まれたデビュー10周年ツアー最終公演
MANNISH BOYSのデビュー10周年を記念して全国6都市で開催された『MANNISH BOYS Anniversary LIVE TOUR 2022 〜GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ〜』。その最終公演が、6月16日にKT Zepp Yokohamaで行われた。ステージに立っているのは、斉藤和義と中村達也の2人のみ。お互いの音をぶつけ合い、共鳴しながら繰り広げられるサウンドはきわめてシンプルでありながら、驚くほどに多彩で、どこまでも自由。身体が震えるような爆音と、心の奥底にまで届く叙情性を行き来する表現を含めて、このユニットの本質を体感できるステージだった。
2011年に結成されたロックンロールユニット、MANNISH BOYS。これまでに3作のフルアルバム(『Ma! Ma! Ma! MANNISH BOYS!!!』『Mu? Mu? Mu? MANNISH BOYS!!!』『麗しのフラスカ』)とEP『Naked』をリリースし、そのたびにツアーを開催。フェスやイベントでも存在感を発揮し続けてきた。ライブのスタイルは時期によって変化しており、斉藤、中村を両軸にしながら、堀江博久(Ba/Key)を加えたトリオ編成、さらにアルバム『麗しのフラスカ』を携えたツアーではサックス奏者の青木ケイタが参加、EP『Naked』を携えたツアーではキーボードに堀江博久、ベースにウエノコウジを迎えるなど、ツアーごとに形を決めずに音楽を奏でてきた。今回のツアーは前述した通り、斉藤と中村の2人編成。もっともベーシックなスタイルである“斉藤×中村”のステージが実現したことで、スリリングで解放的なパフォーマンスを体感できた。
俳優 竹中直人による前説(伝説のギャグ“笑いながら怒る人”を生披露!)に続き、斉藤、中村が登場。「MANNISH BOYSのテーマ」でライブがスタートした。パンキッシュな音像とともに〈オレはうんこメーカー〉〈こんな世の中 早送り〉とシャウトする「うんこメーカー」(なんという題名だ……)、ポップなメロディが気持ちよく広がった「レモン」、オルタナ的なコードの響きとノスタルジックなメロディが響き合う「天使とサボテン」、ロカビリーの色合いが濃い「グッグッギャラッグッグ」とロックンロールの歴史を行き来するような楽曲が次々と放たれる。冒頭から飛ばし過ぎたせいか、「最終日ってことで、勢い余ってですねえ。休憩しませんか」(中村)とゆったりトークする姿もチャーミングだ(竹中直人が山田孝之・齊藤工と共同監督を務めた映画『ゾッキ』に中村が出演したこと、“スカパラのメンバーで結婚するなら〇〇さん”といった話を展開)。
その後も、シンプルかつキャッチーなリフを起点にした「ボンクラゲ」、サーフロック的な疾走感をたたえた「Sweet Hitch Hike」、スカのビートを取り入れながら〈戦争なんてなぜするの? 人殺しは罪なハズよ〉という歌詞が現実と重なった「曲がれない」などを演奏し、オーディエンスの体を揺らしまくる。どの曲にもジャムセッションの要素が取り入れられ、その瞬間にしか生まれない2人のフレーズが絡み合うことで、既存の楽曲に鮮烈な息吹が吹き込まれる。斉藤は青いボディのギブソン・レスポール(エレキギターはこれ1本のみ)、中村のドラムセットはハイハット、スネア、バスドラムの3点とタム、フロアタム、ライドシンバルと超シンプル。しかしながら、とにかく2人とも引き出しが多く、ロックンロール、ハードロック、ロカビリー、オルタナなど幅広い要素を自然に織り交ぜたフレーズを繰り出す。打ち込みや同期の類もまったく使わず、その場で鳴っている音はギター、ドラム、声だけなのだが、そのなかには豊潤な音楽性とプレイが含まれていて、飽きることが一切ない。最初は「2人だけでこんなにいろんなことができるのか」と驚きながら見ていたが、ライブが進むにつれて、「いや、この2人だからこそ、ここまでの広がりが生まれるのだ」ということに気付かされた。
自由なセッションを活かした演奏がメインだったが、「レモネード」では精緻でシャープなアンサンブルを聴かせ、「本を捨てるなら雨降りの日に」では斉藤がアコースティックギターを弾き、中村がポエトリーリーディングを披露するなど、楽曲ごとにまったく違った世界観を表現。特に印象に残ったのは「Only You」。〈Only You/探していたよ〉〈Only You そばにいてくれ〉というピュアな感情が真っ直ぐに伝わってくる演奏には、(どこまでも奔放な2人の存在感とのギャップを含めて)強く心を揺さぶられた。エモーショナルなギターソロ、歌心に溢れた中村のドラムも素晴らしい。