オサレカンパニー 茅野しのぶに聞く、アイドル衣装の役割 着用者に寄り添った制作の舞台裏も明かす

ファンの想像の一歩先の衣装

――AKB48の衣装を初期から手がけていらっしゃる茅野さんですが、メジャーデビュー曲「会いたかった」から最新シングル曲「元カレです」までで求められる衣装の変化を感じることはありますか?

茅野:あります。AKB48のデビューが16年前なので、携帯電話ひとつみても全然違うんですよね。当時は制服の衣装で踊るっていうのは新しかったと思うんですが、彼女たちが黄金期のときに定番化してしまったので、今それをやっても全然新しくない。なので今は逆に制服の衣装を作るのは難しいと思っています。

【MV full】元カレです / AKB48 59th Single【公式】

 「元カレです」は黒い衣装で、MVでは白い衣装も着ているんですけど、どちらも世の中に溢れているじゃないですか。なのでその中でも今のアイドルの衣装にないものとして考えていかないといけないと思いますし。最近またルーズソックスが流行っているのでセンターの本田仁美ちゃんに黒のルーズソックスを履いてもらったりしました。ひーちゃん(本田)はIZ*ONEで活動していたのですが、私はアイドル人生って全て繋がっているものだと思っているので、IZ*ONEはIZ*ONE、AKB48はAKB48っていうわけにはいかないと思っていて。どの時代のひーちゃんも好きになって応援してほしい。今回はセンターがひーちゃんということもあって、ちょっと韓国っぽさのあるミニマムなスタイルをイメージして作りました。時代の流れに合わせて衣装は変わらなければならないし、世間も変わってきていると思います。

――ファンから求められる衣装の雰囲気もあると思うんですが、ファンの求めるものとそのとき作りたいもののバランスについてはどう考えていますか?

茅野:やっぱりファンの気持ちは大事にしたいですね。推しがいがあるとか、推していてよかったとか、こういう瞬間に立ち合えてよかったっていう気持ちを味わってほしいなと思うので。でも新曲に関しては、ファンの求めるものの一歩先を進んでいた方がいいなと。ファンが求めるものを出していくのも必要だと思いますが、それはライブ衣装などで作っていきたいとも思っていて。一方で新曲は新しい魅力がちょっとでもでるような形で、いい意味での裏切り方をしていきたいなと思っています。

――宮脇咲良さんのHKT48卒業コンサートはそれこそIZ*ONEの影響もあり、海外からの視聴も多かったと思います。反応はいかがでしたか?

茅野:海外のファンの方からは「咲良美しい、ありがとう」といったコメントをいただきました。咲良にどうして卒コンをやりたいのかと聞いたんですけど、「私がIZ*ONEで名前を新しく知ってもらったように、私が卒コンをやることによってHKTの子たちも注目を浴びたらいいなっていう気持ちもあるし、ファンやお世話になった人、メンバーにありがとうを伝えたい」と言っていて。だからこそHKT48のメンバーに衣装を作ってあげてほしいと言われたので作ったんです。あとは咲良をHKTのときから応援していたファンも、IZ*ONEで好きになったファンも、みんなが楽しめるコンサートにしたいと思ったんですよ。なので変にジャパニーズアイドル感を出しても今の咲良には似合わないし、かといってバリバリの韓国系ではHKT48からのファンは置いてきぼりになってしまう。バランスをとった、誰が見ても喜ぶ衣装というのを歌う楽曲に対して考えていきました。

 卒業ドレスは、私が咲良に作りたかったようなものを作りました。咲良は本当に、“優しい人は強く、強く優しい人は美しい”というイメージなんですよ。それが映える衣装で、かつ咲良だから桜色がいいなと。咲良はHKT48時代もAKB48時代もいろんなことを我慢して常に上を目指して頑張っているタイプだったので、卒業ドレスくらいは自分の悔いが残らないように次のステージに行けるためのピリオドが打てるものにしてほしいなと思って。

 すごく素敵で、美しく儚く優しい愛に溢れた卒業公演だったと思います。

卒業ドレスで大切なことは本人がピリオドを打てるかどうか

――これまで作った中で、特に思い出に残っている衣装はありますか?

 

茅野:峯岸みなみの卒業ドレスですね。みいちゃん(峯岸みなみ)ってすごくサービス精神旺盛だし、誰に対しても優しいし、腰が低いし皆みいちゃんと仕事をするとみんな好きになってしまうし本当周りの期待に応える人。その一方でそのサービス精神が災いして(笑)週刊誌にお世話になったりもしたり。そういうのを全てひっくるめて、みいちゃんもアイドル人生はドラマチックでカオスだったと思うんです。

 卒業ドレスを考えるときにはその人のことを考えるんですけど、みいちゃんのドラマチックでカオスな感じってAKB48そのものだなって思って。

 本人は卒業ドレスは「AKB48といえばチェックだし、チェックの衣装が好きだったからそれがいいかな」みたいな感じだったので、一番AKB48っぽい赤チェックのドレスはどうですか? と言ったら、めっそうもないって(笑)。

 みいちゃんの家で打ち合わせしたときに小嶋(陽菜)さんが来てくれて、生地を実際に見て小嶋さんとこれがいいんじゃないと話しながら決めたんです。みいちゃんも「陽菜どう思う??」って聞いていてお姉さんに頼る妹感満載で可愛くて……みいちゃんのドレスなのに周りが決めていくみたいな、それもみいちゃんらしいなと思って。後輩にも同期にもすごく愛されたメンバーなので、みんなが「ドレス可愛いね」と言っている中ですごくハッピーに卒業していく状況も含めて、特に思い出に残っていますね。

――卒業コンサートのドレスについて、どういった思いを持っていますか?

茅野:ドレスを作っていく中で一番大事にしたいのは、本人がピリオドを打てるかどうかっていうところで。私はアイドルでよかった、もう悔いはないと思って卒業してほしいし、それはファンに対しても思っています。なので、ファンの人が見ても泣ける、本人が着ても、もう思い残すことはない、本当に今までありがとうっていう気持ちになれるドレスにしたいんです。そのためにはその人のアイドル人生を映したようなドレスにしたいですね。だからその人をすごく理解していないと作れないし、理解が深いほど良いドレスに繋がると思います。例えばさしこちゃんは今でこそ名プロデューサーであり超一流芸能人ですけど、最初はヘタレキャラから始まって。でも彼女はファンをずっと大事にしていたし、徹底して王道アイドルに憧れていたので、最後は白が良いかなって言ったんですよ。白なんだけど、総選挙(AKB48選抜総選挙)で3連覇していることもあってきらきら感満載の白にしようと思って。渡辺麻友ちゃんだったら、同じ白でも繊細なレースに羽のスカートみたいな感じにして。卒業セレモニーの仕方、どういう風に最後花道を歩いていくのかも考えて、本人たちの美しさをさらに増すようなドレスを作ろうと心がけています。

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