オサレカンパニー 茅野しのぶに聞く、アイドル衣装の役割 着用者に寄り添った制作の舞台裏も明かす
オサレカンパニーはAKB48の衣装を担当していた茅野しのぶが立ち上げた衣装制作会社である。いまではAKB48の衣装制作のみならず多くのアイドル衣装や舞台衣装の制作に携わっており、そのクオリティはファンの折り紙付きだ。
今回はデザイナーであり会社の代表をつとめる茅野に衣装制作を始めた当初の話、衣装制作という視点からアイドルカルチャーの移り変わりやアイドル一人ひとりに合った衣装を作るポイントについて話を聞いた。(編集部)
AKB48結成のニュースを聞いて自ら売り込みに行った
――まずは衣装制作の道に歩んだきっかけを教えてください。
茅野しのぶ(以下、茅野):元々は衣装というよりファッションが好きで、高校生の時は服のためにバイトしていたり、色々なブランドのサンプルセールに行ってみたり、ラフォーレ(原宿)の朝7時からのセールに始発で行って並んだりとかしていたんです。服飾専門学校生当時、ヘアメイクの専門学校の学生と一緒にヘアショーとファッションショーを企画したのですが、その時に一夜のためだけに作る衣装に魅力を感じたんですよ。
それが衣装の道を志したきっかけです。すぐに働いてみたかったので在学中から色々探してたまたま自分の作品や履歴書を見てくれるって言ってくださった、アイドルの衣装を多く手がける方のアシスタントを学業と両立しながらさせてもらっていました。
生意気な私にすごく色々なことを教えていただいたのですが、一方で師匠のホームの中でやっていても一生師匠は超えられないなと思い、大成するには一人でやっていかなければならないと思ったものの、その頃はスタイリストと言えばファッション誌やアーティスト・俳優さんやCMや映画の方が多い時代で、アイドルのアシスタント上がりの名も知れていない奴に、今はインスタ等あるとは思うのですが当時は他の場所から声がかかるはずもなく、チャンスの場もなかったんですね。
そんな時に、秋元康さんが秋葉原でアイドルを作ると知り合いから聞いて。1期生募集のポスターを見たのと同じタイミングで、私はメンバーとしてではなく、その事務所に「衣装はいますか?」って売り込みに行ったんです。そのときはまだ22歳くらいだったので若いし無鉄砲で何でもやれる年齢だなとも思ったし、マネージャー業務もしますよ! と売り込みにいき、そうしたら運が良く採用していただいて、AKB48の衣装を担当し始めました。
――学生時代に好きだったアイドルや衣装はありましたか?
茅野:私、実は全然アイドルを知らなくて。私の時代ってジャニーズを必ず通っている人が多い世代なんですけど、私は一回も通っていないんです。本当何してたんだろう……と今思い返しても分からないのですが(笑)。でも、一番最初に好きになった芸能人はプリンセス プリンセスで、そのあとはJUDY AND MARYでした。YUKIちゃんは一生大好きです!
衣装の影響は、最初は中学時代でSPEEDの振り付けを真似したり、その延長ですごく流行ったのがSPEEDのメンバーが「my graduation」の衣装として着ていたワンボタンのパンツスーツ。本当に流行ってみんな着てましたね。
高校時代はayuですね。浜崎あゆみさんの衣装が可愛くてライブで友達と大騒ぎしていたし、白のチューリップハットを被って、ROXYのリュックにハイビスカスのレイを付けていたり、新曲の度にayuのファッションにすごく影響されていましたね。
「根も葉もRumor」は今のメンバーに似合う制服スタイル
――衣装を作るとき、こういう衣装にしたいというのはプロデューサーや依頼者から言われることが多いですか? それとも曲を聴いて茅野さんがアイデアを出すんでしょうか。
茅野:ケースバイケースで、AKB48に関して言えば、秋元さんから指示される場合もあるし、初めましての楽曲を会議で聴いて、早押しクイズみたいに「衣装どう思う?」と聞かれることもあります(笑)。近々の曲で言うと、「根も葉もRumor」は格好いいAKB48を見せた方がいいのかなと思って、結構ハイファッションな感じのデザイン画を出したんです。
そうしたら「泥臭くて一生懸命みんなで挑戦していくのがAKB48だ。今回は学校のダンスの先生が振り付けしてくれているからもっとリアリティがある感じの制服がいい」と言われて、なるほどなと思いました。ただ、今の時代の今のメンバーに似合う制服スタイルを提案させていただきました。その中で一人ずつキャラクターにあったアイテムを足して欲しいという要望もあり18人分提案したのですが、その中で大西桃香ちゃんはマスクとなり。それは私の中になかったアイデアだったのですが、それで「黒マスクの子は誰?」と話題になり本人もファンが増えて……すごいなと思いました。
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=LOVEとかさしこちゃん(指原莉乃)の場合も何かしらワードをくれるんですよ。今回の=LOVEの新曲「あの子コンプレックス」で言えば、ピンクとグレーのはっきりしない色がいい、と。たしかに、歌詞を見ていると〈特別じゃないならそんな顔見せないでよ〉というところは女心の繊細さを一文で表現しているなと思ったので、イコラブらしい可愛さと繊細さのある、壊れそうな儚い衣装にしようと思って作りましたね。なのでコンセプトがある場合もあるし、「こういうことをしたいんですよね、どう思いますか」と聞かれて客観的に見た印象を話したり提案したりする場合もあります。
――衣装のインスピレーションはどこから湧くことが多いですか?
茅野:普段から想像力を豊かにしようと思っていて、移動するときとかは「目の前に座っている人でMVを一本撮るとしたら、どういうテーマや衣装でどういう展開にしたら面白いかな」と考えたりしています。あとは泊まっているホテルの壁が可愛かったら、その柄を撮っておいて「いつかこういう柄みたいな衣装を作るときまでしまっておこう」と。記憶の箪笥、引き出しを作るようにしていますね。それをプロデューサーや依頼されるアーティストさんに「今度こういうことやりたいんだよね」と言われたときに「こういうのはどうですか?」と提案したりするので、私は薬剤師さんと似ている部分があると思います。
例えば、「格好いい系がいいです」とか「可愛い系がいいです」と漠然と言われることも多々あるのですが、先人達が素晴らしいものをたくさん生み出しているから、可愛い系・格好いい系って世の中に溢れているじゃないですか。
だからこそ「可愛い系×なにか」が大事だと思っていて。例えば「格好いい系×カエル」だとしたら、カエルの質感を表現するとしても緑じゃなくて黒のぬめっとした素材を使って作ろうとすると、全く新しい“格好いい”ができると思うんです。
なので、掛け合わせるネタは常に無意識のうちに探していますね。時事的なニュースとかも気になるし、大河ドラマを見ていて、歴史が気になったらどんどん調べていったりもします。そうすると歌詞で表現されているときに自分なりに解釈ができるようになるんです。
秋元さんだったら私がまだ生まれていない時代のことも書いたりする時もあるし、でも実際にその時代を生きていないからなかなか温度感が分からなかったり、ファッションも分からない。その温度感を知るためには歴史を知らなきゃいけないと思うんです。ファッションってそういう時代背景や思想から始まっていたりするので、探究心を持ち続けるように常にアンテナを張っていますね。