BTS、1億回再生超えMVが多数ある理由 ポップさ、感情への寄り添い方、語りがい……3つの視点から解説
BTSが5月5日、公式SNSを通じて6月10日にリリースされる最新アルバム『Proof』の詳細を告知した。2013年6月にデビューしたBTS。今年デビュー9周年、そして10年目に突入する彼らにとって『Proof』は「BTSの歴史を含蓄したアンソロジーアルバム」になるという。
CD3枚組で構成されたトラックは、BTSの過去、現在、そして未来に対するメンバー7人の想いが込められており、そのうち3曲の新曲も収録される予定。リリースに先駆けて、公式YouTubeチャンネル『BANGTANTV』にて動画「‘Proof’ Logo Trailer」を公開。およそ18時間で500万回再生を突破するなど注目を集めている。
Trailerの内容は、BTSがこれまで発表してきた作品のタイトルとサウンドが日付と共に次々と流れるもの。各作品を象徴するロゴや印象的なフレーズに触れるたびに、思い出の光景が走馬灯のように蘇る人も多いのではないだろうか。
そのくらいBTSの作品は音楽的な魅力に加えて、視覚的にも強く惹かれるものがある。7人が織りなすハイレベルなダンスはもちろんのこと、楽曲ごとに変化してきた彼らのファッション、そして各作品のコンセプトを反映させたMVたち。
4月24日には「Butter (Hotter Remix)」のMVがYouTubeで1億回再生を突破したというニュースが飛び込んできた。これでBTSの億単位MV数は37作品となったというから驚きだ。なぜこれほどまでにBTSのMVは多くの人を魅了してきたのか。その理由を大きく3つの視点から紐解きたい。
“らしさ“を印象づけ、体験を共にするポップなMVたち
まず着目したいのは、BTSのMVの中でも再生回数14〜15億回突破と、特に人気の高い「Boy With Luv (feat. Halsey)」「Dynamite」「DNA」の3作品だ。アメリカの人気シンガー・ホールジーが参加した「Boy With Luv (feat. Halsey)」や、初の全英語詞曲に挑戦した「Dynamite」が言語の壁を超えて視聴されたのは納得のいくところだが、並んで「DNA」が支持されているのが興味深い。
「DNA」は2017年にBTSが韓国グループとして初めて招待された、『アメリカン・ミュージック・アワード(AMA)』でもパフォーマンスを披露。米国進出のきっかけとなったとも言われる曲でもある。「DNA」のMVを見返してみると明るくポップなセットデザインが目を引く。また、メンバーの衣装も髪色も実にカラフルで、全体的に彩度が高い。その鮮やかでインパクトのある世界観に「K-POP的クリエイティブ」を感じた人も多かっただろう。
JUNG KOOKの口笛から始まり、少年っぽい出で立ちの7人が軽やかに踊り始めたと思いきやVのバリトンボイスがズシリと響く。そんなギャップもまたBTSならではの魅力だと言わんばかりに見せつけてくれる。さらに7人で繰り広げる複雑なフォーメーションダンスは、可愛らしさと激しさが交互に組み込まれ、表現力の幅広さを感じずにはいられない。より広い世界に羽ばたくBTSの“らしさ”を、改めて紹介していくMVに仕上がっていた。
また、その“らしさ”は、同時に“BTSの楽曲を聴くとポジティブになる“という体験もセットに印象づけたように感じる。そして、“観て楽しい”MVから“一緒に踊って楽しむ”MVへと、新たな体験を提供した「Permission to Dance」の流れを創り出すことができたのも、BTSがMVで築いてきた歴史の賜物といえそうだ。
ダークな感情にも寄り添う“自分を愛する“ためのMV
とはいえ、“ポジティブになる”というのは、ネガティブに目を伏せることではない。BTSの作品では葛藤や苦悩、生きづらさについて言及し、そんな自分をも愛することを伝えるMVも発表してきた。鬱屈とした気持ちを爆発させたかのように綴られた「MIC Drop (Steve Aoki Remix)」は、J-HOPE、SUGA、RMと続くラップにのせてヒップホップのダンスが小気味良く、ラストに勝利をアピールするマイクを落とすパフォーマンスで締めくくる展開も非常にクールだ。
また、〈You can’t stop me lovin’ myself〉と力強く歌う「IDOL」もまた人気の高いMVのひとつ。「MIC Drop」に対して画面も明るくサイケデリックな背景も相まって、一見すると楽しげな雰囲気が漂うが、歌われる内容は周囲からの声と闘い続ける姿が垣間見える。そして自分を偽ることで本当の自分を見失いかねない危うさを表現した「FAKE LOVE」も、「MIC Drop」IDOL」と並んで11億回再生を突破している不動の名作。情緒的なダンス、JIMIN、JINの透明感のある歌声で悲哀を表現してきた。
人はまっすぐに前だけを向く生き物ではない。むしろ、そうではないときにこそ音楽が求められるものだ。成功の保証などない小さな事務所から、厳しい練習漬けの日々を経てきたBTSのメンバーもまた音楽に救われた経験者であること。心が折れそうになりながらも、小さな希望を一つひとつ拾い集め、グローバルグループへと歩み進めてきたという実績が、作品の説得力を増す。そんな大きな成功を収めてもなお今も様々な声に心を痛めたり、奮起したりと、人間味あふれる姿を見せてくれている。
思い切りファイティングポーズを取って立ち向かう日もあれば、周囲の声を軽やかに受け流そうとする日もあれば、思い切り悲しむ日もある……そのどんな日にも寄り添ってくれるMVがある。ダークな気分なときにも観ては励まされ、一緒に生きていこうと思わせてもらえるのも、BTS作品の大きな特徴ではないだろうか。