AK-69、HIPHOPで伝える不屈の精神と日本人の誇り 5度目の武道館で展開したエンターテイメントショー

 とてつもないスケールの演出と、鬼気迫る音楽のパワーに圧倒されっぱなしの120分。AK-69の5度目の武道館公演『START IT AGAIN in BUDOKAN』は、ヒップホップとして、エンターテインメントとして、時代のメッセージとして、最大級のインパクトを放つスペクタクルショー。AK-69のライブヒストリーにおける金字塔として、長く語られるに違いないライブだった。

AK-69

 白い幕に包まれた巨大なセンターステージと、アリーナに配置された贅沢なソファとテーブルを備えたVIP席。前代未聞の光景に驚いているうちに、爆音で流れていたDJ RYOWのプレーがやがて聖歌隊のような厳かなBGMへと変わる。キャンドルを掲げた白装束の一団が花道に登場し、あっと思う間もなく幕が切って落とされ、鮮やかな白いコートをまとってステージ中央に立つAKが目の前に現れた。視覚のトリックと大掛かりなセットによる、これはまさにイリュージョンだ。

 1曲目「Konayuki」から「THE INDEPENDENT KING」「IRON HORSE-No Mark-」「Only God Can Judge Me」へ。“地方馬がダービーを制す”に至る不屈の下剋上スピリットを詰め込んだ、絶対の代表曲を並べて序盤からぶっ飛ばす。床一面に仕込まれたLEDスクリーンが、カラフルな映像やリリックを次々に映し出して度肝を抜く。久々の生ライブに戸惑いがちのオーディエンスを「立て立て!」と煽り、観客は指でAKサインを掲げて応える。そう、声は出せずとも気持ちは通じる。

 最初のMCでは、5回目の武道館に立てたことをスタッフとファンに感謝しながら、17歳の時に買った思い出のペンダントトップを、「こいつをここまで連れて来られるとは思わなかった」と誇らしげに見せつける。世の中の理不尽に中指を立てる「The One Time - Wake Up My Homies -」、LED床に映し出される雨の波紋が息を呑むほど美しい「雨音」、ステージの周りで炎が舞い上がる「THE RED MAGIC」。タイプの違う楽曲を繰り出して飽きさせない、これがAK-69の赤のマジック。

 「あいつが生きてたら、こう言っただろうな――」。故・TOKONA-Xに捧げる感動的な言葉から始まった「ビートモクソモネェカラキキナ」、そして「They Want T-X~Intro~」。早すぎる人生を駆け抜けたかつてのトウカイテイオーから、現代のヤングトウカイテイオーこと¥ellow Bucksを迎え入れての「I’m the shit feat. ¥ellow Bucks」へ、東海ヒップホップのプライドを引き継ぐ流れが素晴らしい。さらに「Ding Ding Dong~心の鐘~」「Bussin’feat. ¥ellow Bucks」と、3曲のコラボを務めた¥ellow Bucksの、スキルフルで切れ味鋭いラップが実に頼もしい。

 お次は東海エリアから京都エリアへ、ANARCHYの登場だ。しかし「Pit Road」1曲のためにANARCHYを呼ぶなんて、ちょっと贅沢すぎやしないか。アンダーグラウンド人生を背負ったオーラ、ブルースを感じさせるエモーショナルなラップの説得力、欲を言えばもっと見たかった。続く「Racin’ feat. ちゃんみな」でコラボした、鮮やかなショッキングピンクのドレスをまとった、ちゃんみなも同じ。ドスの効いたド迫力ラップと、AKとの絡みで見せた優雅なパフォーマンスは、1曲だけじゃもったいない。さらに、ダンサー&シンガーのRIEHATAをフィーチャーした「Thirsty feat. RIEHATA」から、総勢15名ほどのダンサーたちの単独パフォーマンスへ。1曲ごとに豊富なアイデアを詰め込みながら、ライブはそろそろ折り返し地点だ。

 ライブ後半の幕開けは、2022年リリースの最新曲、AK-69名義の「Break through the wall」と、Kalassy Nikoff名義の「Champion」の2曲。「Break through the wall」の突き抜けるハイトーンが強く胸を打つが、この曲はLED床を使った演出が素晴らしすぎた。床に倒れたAKの周りで氷が砕けて落ちてゆく、3Dかと思うほどの大迫力の映像美。対照的に「Champion」は、ポツンと置かれた椅子に座って歌うだけのシンプルな演出が、メロディアスな楽曲の美しさと歌の巧さを引き立たせる。完璧な歌唱と完璧な演出が、目と耳を釘付けにする、とてつもない吸引力。

 「なあ、国のトップの連中よ、おまえにも愛する家族がいるだろう?」――ロシアのウクライナ侵攻という、公の場では口に出しづらい話題に堂々と触れながら、一人の人間の立場で人を思いやる優しさを語る。そして呼び込まれたこの日のシークレットゲスト、AIと共に「NEVER LET ME DOWN feat. AI」を祈りを込めて歌う姿の尊さ。「この歌を世界に届けよう」ーー平和のメッセージをここまでの大スケールで届けられる、こんな日本人ラッパーがAK-69以外にいるだろうか。パワフルで包容力溢れるAIの歌声が、武道館の空気とすべてのオーディエンスの心を震わせる。もう1曲「It’s OK feat. AI」を歌い終えてステージを降りる、AIへの感謝の拍手が鳴りやまない。

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