Red Hot Chili Peppersが辿り着いた開放的なバンドマジック ジョン・フルシアンテ復帰作『Unlimited Love』徹底解説
ジョシュ・クリングホッファーとの歩みの中で手に入れた新たな表現力
一方で、このような変化はもちろん、ジョンに限った話ではない。ジョンの脱退後、新たなギタリストとしてジョシュ・クリングホッファーを迎えたRed Hot Chili Peppersは、2011年の『I'm with You』と2016年の『The Getaway』という2つの作品を完成させ、3度ものワールドツアーを行うなど、勢いを落とすことなく精力的に活動を続けてきた。ジョシュはジョンのように激しいプレイで主張するタイプではなく、むしろ他のメンバーのプレイや、楽曲の持つメロディの魅力を最大限に引き上げるようなプレイヤーであり、だからこそこの時期の作品では(特に『The Getaway』において)これまでのシグネイチャーサウンドに縛られないアレンジの楽曲が目立っていた。バンドにとって実験の時期でもあったというわけだ。本作でも、どこか捻れたサーフロック調の「White Braids & Pillow Chair」や、ホーンの音色が楽曲の軽快なムードをさらに盛り上げサイケデリックな色を添える「Aquatic Mouth Dance」「Let 'Em Cry」などで、その影響を感じ取ることができる。
その中でも筆者個人として特に印象的だったのは、アンソニーのボーカリストとしての成長である。「Californication」など美しいメロディに重きを置いた名曲は以前から存在するが、やはり彼が本領を発揮するのは「Give It Away」などの勢いで攻め込むタイプの楽曲である、という印象が2000年代までは(特にライブパフォーマンスにおいて)強かった。だが、バンド内のバランスが変わったことも相まってか、ジョシュ時代には彼のボーカリストとしての表現力の進化を感じられるようになり、それは2011年の『SUMMER SONIC』での来日公演の時点でも明確に分かるほどだった。
今回のアルバムに収録されている楽曲の方向性は、実験的だった前作よりも、『Stadium Arcadium』に近いと言えるだろう。だが、様々なカタルシスを生み出すバンドマジックの中で響くアンソニーの歌声とメロディは、当時よりも遥かにエモーショナルであり、演奏が爆発する瞬間においても美しく、そして伸びやかに空間全体へと響き渡る。その魅力はやはり「Not the One」や「Tangelo」のようなスウィートなバラードにおいて存分に発揮されるが、「These Are the Ways」のようにバンド全体が疾走するような楽曲や、「She's a Lover」といった軽快なファンクポップであっても、放たれる単語の一つひとつがただの音ではなく、強い意味を持って聴き手へと迫ってくるのだ。
バンドの一員として(あくまでジョン基準で)素直なロックサウンドを鳴らすようになったジョン・フルシアンテの存在と、新たな表現力を手に入れたバンドによって生み出された『Unlimited Love』。これまでのRed Hot Chili Peppersが持っていた、他のバンドでは決して味わうことのできない独特かつ圧倒的なカタルシスだけではなく、これまでにはなかった開放的で、自由なムードを感じることができる作品だ。流しているだけでも純粋に気持ちが良いし、グッと耳を傾けてみればそれぞれのプレイヤーが持つ異次元のスキルと、それらがぶつかり合うことで生まれるバンドマジックに圧倒される。
筆者にとって、1991年の『Blood Sugar Sex Magik』はリアルタイムの作品ではなく、あくまで「過去の名盤」という認識だったが、今では2006年の『Stadium Arcadium』が同じくらいの年月を経た作品となっている。当時のファンと筆者にとっての「レッチリ」像が異なるように、本作で初めて彼らの音楽に触れるリスナーにとっても、その印象はきっと異なることだろう。だが、少なくともこんな音を鳴らせるバンドは間違いなく他には存在しないし、本作を通してその魅力を十分に感じられるはずだ。そんなファンを横目に、バンド自身も変化しながら、新たな魅力を手に入れ続けているのである。その事実に圧倒されながら、改めてRed Hot Chili Peppersというバンドの巨大さを思い知るのだ。
■リリース情報
Red Hot Chili Peppers『Unlimited Love / アンリミテッド・ラヴ』
2022年4月1日(金)リリース
1. Black Summer / ブラック・サマー
2. Here Ever After / ヒア・エヴァー・アフター
3. Aquatic Mouth Dance / アクアティック・マウス・ダンス
4. Not The One / ノット・ジ・ワン
5. Poster Child / ポスター・チャイルド
6. The Great Apes / ザ・グレイト・エイプス
7. It’s Only Natural / イッツ・オンリー・ナチュラル
8. She’s A Lover / シーズ・ア・ラヴァー
9. These Are The Ways / ジーズ・アー・ザ・ウェイズ
10. Whatchu Thinkin’ / ワッチュ・シンキング
11. Bastards of Light / バスタード・オブ・ライト
12. White Braids & Pillow Chair / ホワイト・ブレイズ・アンド・ピロー・チェアー
13. One Way Traffic / ワン・ウェイ・トラフィック
14. Veronica / ヴェロニカ
15. Let ‘Em Cry / レット・エム・クライ
16. The Heavy Wing / ザ・ヘヴィ・ウィング
17. Tangelo / タンジェロ
18. Nerve Flip / ナーヴ・フリップ(日本盤ボーナストラック)
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