マルチクリエイター idom、最新曲「帰り路」にバイラルヒットの兆し リアルな言葉が呼ぶリスナーの共感

idom「帰り路」バイラルヒットの兆し

 idomの最新楽曲「帰り路」が、YouTubeやTikTokを通じてじわじわと注目を集め、3月29日現在のSpotifyバイラルチャートトップ50にランクインしている。

 idomは、24歳のマルチクリエイター。大学時代にデザインを専攻し、イタリアのデザイナー事務所に就職予定だったというが、新型コロナウイルスの影響で断念。それを機に楽曲制作を始めると、トラックメイクからボーカルまで幅広い能力を開花させた。2月25日に発売した1st EP『i’s』に収録されている「Awake」「Moment」はそれぞれ2021年のソニーXperiaのCM曲に抜擢され、「Freedom」はTikTok CMタイアップソングとなっているなど、洗練された楽曲に加え、映像監督やイラスト制作も手がける多彩なクリエイティブセンスが話題になっている。

 そんなidomによる「帰り路」は、前述のEP『i’s』に収録。シンプルかつ温かみのあるトラック、伸びやかな歌声、洗練されたMVなど、どれも魅力的だが、中でも一番人々の心に染みわたっているのはその歌詞だろう。

 〈受け流す世の罵声 孤独なこの街で 壊れた心抱いて歩いてく〉と優しいニュアンスで始まると、続いて〈嘘ばかりの社会 嘘ばかりの世界で息する感覚が鈍る〉と低い声で韻を踏みながらリリックが紡がれる。どこか俯くような序盤に対し、幾らか明るく歌われるのは〈死ぬくらいなら 全部捨てておいでよ〉〈開き直る馬鹿でも まあ良いかな〉と諦めを伴いつつも前向きな言葉。ラップとメロディアスな歌を行き来しながら、冒頭と同じ詞のサビに至るまでやるせなさを受け入れ、開き直る過程を細やかな感情の変化とともに描いている。

 曲は〈受け流せ世の罵声 君と居たあの場所へ帰ろう 現在を棄てて 待ってる〉というリリックで締めくくられる。何度か登場する印象的な〈受け流す世の罵声孤独なこの街で 壊れた心抱いて歩いてく〉というフレーズによって孤独感が強調される楽曲だが、最後の一節は孤独を乗り越えた先の帰る場所や人を想起させる。一貫してシンプルなビートが、メロディラインやリリックのニュアンスの変化をより鮮やかなものにしており、希望的な後味を色濃く残している。また、同フレーズは、登場する度に諦観と希望のバランスが変化し、響きを変えながら様々な感情が混ざり合う様子を描写。前後に繋がるリリックや聴き手の思いによって、ときに諦めに寄り添い、ときに希望を持ちかけているようだ。

 巧みな筆致で描かれる、落ち込んでいるときにも前向きに歩き出すときにも共鳴するような歌詞。ラップと歌で描写される複雑な感情の動きが、毎日を生き抜く人々の心にじんわりと染みわたることだろう。

 実際、MVについたコメントを見てみると、「仕事帰りや学校帰りに聴いている」、「寝る前に1日を振り返りながら聴いている」など、それぞれの帰り道や1日の終わりに、その日の出来事と向き合いながら耳を傾けるという声も多い。温かいidomの声色と、それによって紡がれる詞が人々の心に寄り添う楽曲として、安らぎを与えているのが支持を得ている背景だろう。

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