遊助が語る、コロナ禍を経て迎える再出発の時期 アルバム『Are 遊 Ready?』に込めた“今”

遊助、コロナ禍を経て迎える再出発

 3月11日にデビュー13周年を迎え、14年目に突入した遊助が、3月30日、11thアルバム『Are 遊 Ready?』をリリースした。昨年3月にリリースした10thアルバム『For 遊』が、立ち止まってしまった人の心に寄り添う作品であるのに対し、今作は「気持ちだけでも一歩前に進めるような作品になれば」と制作した意欲作。シングル曲「マジ歌」「こむぎ」の他、11曲もの新曲が収録されており、じつにバラエティに富んだ1枚となっている。コロナ禍という荒波の中、crew(ファン)を連れて勇ましく航海を続けている遊助に、今作に込めた想いを聞いた。(斉藤碧)【記事最後にプレゼント情報あり】

気持ちだけでも一歩前に進めるような作品に

――前回アルバム『For 遊』をリリースされたのが昨年3月だったので、ほぼ丸1年ぶりのアルバムリリースとなります。まずは、今作『Are 遊 Ready?』を作り始める際に考えていたことを教えてください。

遊助:今って、世界中がウイルスや戦争に命を脅かされていたり、誰もが「まさか」って思うような時代を迎えているじゃないですか。その中で前回の『For 遊』は、コロナ禍で自分自身を見つめ直している人とか、外に出たくても出られない人に向けて自分の歌が少しでも心の栄養剤になったらいいなと思いながら作ったんです。でも今回は、苦しい状況を受け入れながらも、そろそろ新たな扉を開いてみようかっていうメッセージを伝えたくて。本当に外に出なくてもいいんだけど、気持ちだけでも一歩前に進めるような作品になればいいなと思って作り始めました。

――昨年7月に2年ぶりのライブツアー『遊助 Live Tour 2021「音パレード」』も開催したことも、アルバム制作に良い影響を与えたんでしょうか?

遊助:そうですね。「そういう時代だもんな」って受け入れないといけない制限もありましたけど、久しぶりにファンのみんなに会えた喜びとか、ライブの楽しさを実感したことで、どうなるかわからない未来をただ恐れるんじゃなくて、生きることの楽しさに目を向けたいなと思い始めました。と同時に人生の儚さも伝えていけたらと思って。2曲目の「オセロ」とかはそういう想いから生まれましたね。

――そして、リード曲であり、アルバムの1曲目を飾る「この船のテーマ」は、新たな旅に出ようとする遊助さんの意気込みを表した楽曲。“船”というキーワードからは、遊助さんを船長、ファンのみなさんをcrewと呼び合ってきた“チーム遊助”の絆も感じました。

遊助:“船”というキーワードは20代の頃から大事にしてきた言葉で、歌詞でも人生を船に例えることが多かったんですが、それが今回は今伝えたいことと重なって「この船のテーマ」になりましたね。冒頭でも言ったように、コロナ禍では誰もが一度立ち止まって、自分を見つめ直したと思うんです。でも、立ち止まっている時も自分という船が壮大な海の中に浮いていると思えば、波を感じることもできるし、自分が走り出せば良くも悪くも波が立つ。どんな道を辿っても、地球は丸いから、突き進めばいつかは一周して原点に返ってくる。その持論が、最後の〈このまま この航路 真っすぐ行って一周だろ/地球は丸いんだ〉というフレーズになりました。このフレーズは、自分で歌詞を俯瞰で見た時にすごく遊助っぽい表現だなって思いましたね。そう自分で感じるほど、「この船のテーマ」は遊助として今までちょっとずつ積み上げてきたものを集約した1曲になっています。

――「この船のテーマ」のMVは、遊助さん初の完全オリジナルアニメーションMVとなっていますが、初めからリード曲になることや、その先の展開を意識して曲作りをしていたんですか?

遊助『この船のテーマ』オリジナルアニメーションMV

遊助:初めからリードを意識して作り始めたのではなくて、作っていくうちに「これ、リードになるな」と思って、後からアニメーションMVがつきました。といっても、自分としては全曲リードのような感覚なんですけど。特に「この船のテーマ」は遊助っぽさもあり、20代や30代の僕には思い浮かばなかった言葉やメッセージが込められた曲でもあったので、“今こそ聴いてほしい曲”としてこの曲が一番リードにふさわしいなって思いました。きっと、もしこの曲が20代・30代の頃にできていたとしても、当時の僕が歌ったら軽く流されてたと思うんですよ。言葉に説得力がないから、「お前に何がわかんねん!」って思われてたんじゃないかなって(笑)。

――ということは、今まで積み上げてきたものの中には、言葉に対する説得力も含まれているんですね。

遊助:いや、今も言葉に説得力があるかどうかはわからないけど、間違いなく当時よりは増してるはずだし、素直に言葉が届くんじゃないかなと思います。積み上げてきたものという意味では、トラックもそうですね。13年も音楽をやってるとお願いする作曲家さんが大体固まってきて、今は10人くらいでグルグル回しているので、みんな、遊助が好きそうな曲調を理解して作ってきてくれるんです。だから「この船のテーマ」のトラックも、漠然としたテーマやニュアンスを伝えただけで「遊助さんの好きそうなメロディで、こういうテンポで、ちょっとEDMっぽさも必要なのかな?」って考えて作ってきてくれて。そこに「ここにこういう音を足してほしい」とか、細かい調整を加えていくっていう流れで仕上げていきました。トラック制作と作詞は同時進行で進めていたので、このメロディだったらこのメッセージが合うなとか、相乗効果でパズルのピースが揃っていきましたね。

――「この船のテーマ」のアニメーションMVは、どのような経緯で制作することになったんですか?

遊助:今回はジャケットのイラストも自分で描いているってことで、スタッフが「アニメーションMVもいいですよね」って提案してくれて。どんなアニメーターの方がいるかを調べて、イメージに合う方と打ち合わせをして作っていきましたね。登場するキャラクターや大まかなストーリーは曲を作っている段階から自分の中にあったので、「主人公は子どもの男の子にしてください」とか「走っている姿をイメージして作った曲なので、そういうシーンは絶対入れてください」とか、結構細かくお伝えして描いてもらいました。

――アニメーションMVでは自ら声優もされていますし、今はセルフプロデュース欲が強まっている時期なんでしょうか。

遊助:豪華な声優の方々と自分の作品で共演させていただくのは、とてもありがたいことだと思っていますが、これまでも声優をやらせていただく機会はあったし、絵も以前から描いていたので、やっていることは今まで通りというか。今回だから特別っていう意識はなかったですね。でも、遊助というフィルターを通して、みんなにどれだけ元気を分けてあげられるかな? と思いながら作っていたし、結果的に、やっぱり俺ってこれだよな! って思える作品ができたなとは思います。

――今作には昨年リリースしたシングル表題曲「マジ歌」「こむぎ」と、アルバムでは恒例となっている遊turing曲(コラボ曲)、今話していただいた「この船のテーマ」の他に、新録曲が7曲収録されています。その中で難産だった曲を挙げるとしたらどれですか?

遊助:僕、あんまり悩まないんで、ないですね(笑)。もちろん微調整したりはするけど、軸はブレないし、基本的に悩まない。悩み始めたら、これは全然違うんだなって思って作るのをやめるから、どの曲もスムーズに完成します。

――レコーディングだけでなく、作曲のペースも早いんですね。そのためには日頃のインプットが大事だと思いますが、歌詞や曲のヒントをメモしていたりするんですか?

遊助:たまにメモしようって思うこともあるんですけど、あんまりしないです。そもそも僕は、その時に思ったことを一気に歌詞に落とし込んで、そこで完結しないとダメなタイプなんですよね。多分みんなもあると思うけど、昔の日記で夢を語ってる自分にひいたりすることってあるじゃないですか(笑)。それと同じで、1カ月前に良い言葉だなと思ってメモっていたとしても、今読み返すと、何言ってるんだよってしらけたりするし。メモを元に歌詞を書こうとすると、メモした言葉をサビで言いたいがために物語を作っていく作業になるから、歌詞がつぎはぎだらけのストーリーになっちゃうんです。僕はそれが嫌だから、全体のストーリーを思い浮かべて、その中で生きる人にピントを合わせて、その人がどう動くか? その人がどういう言葉を待っているか? そこにどういう風が流れているか? というのを大事に作っています。

――遊助さんの楽曲はどれも歌詞が具体的で、景色が見えやすいですが、個人的には、12曲目の「Divo Diva」を聴いた時に感じた、春風が舞い込むような感覚が印象的でした。この曲はどういったところから作り始めたんですか?

遊助:「Divo Diva」は絵本みたいな曲を作りたいなって思って作った曲ですね。タイトルの「Divo Diva」は、女の子の妖精とか女神を意味する名前なんですけど、最初は丘の上で1人で鼻歌を歌っている羊飼いが思い浮かんで。その周りを妖精が飛び回っていて、たまに雨が降ったり、雷が落ちたりもするんだけど、幸せそうに暮らしている世界観をイメージして作りました。その一方で、以前からオペラの「春」(ヴィヴァルディ「四季」より)を使いたいというのも思っていて、歌詞のイメージと上手い具合にはまりましたね。

――その前に収録されている「百花繚乱」は夏祭りのようなにぎやかさがあるし、1曲ごとに違う世界に連れていってくれるアルバムですね。

遊助:ありがとうございます。自分で見ても、似たようなテイストの曲が1曲もないなって思います。どんなジャンルもできるのが遊助の良さだと思うし、僕自身も音楽性にはそんなにこだわりがないので、メッセージ性を最優先にして作った結果、今回もミディアムナンバーあり、ラブソングあり、激しい曲ありのバラエティ豊かな1枚になりました。例えば、今挙げてくださった「百花繚乱」は、以前リリースした「一笑懸命」が和太鼓を取り入れた、ライブでみんなで盛り上がれる曲なので、和とEDMを掛け合わせたらどういう感じになるんだろう? っていうところから生まれた曲ですし。「Divo Diva」も既存のオーケストラを今風にしたらどうなるんだろう? ってデビュー時から思っていて、以前リリースした「いちょう」でもクラシックの「カノン」を使っていたから、そういうことを久しぶりにやってみた曲だし。「History Ⅷ」は自分のおじいちゃんが宮古島の人ということで、沖縄のニュアンスを取り入れた曲だし……どれも今までやってきたことではあるんですけど、それらをパワーアップさせた楽曲たちが出揃いました。

――「この船のテーマ」の歌詞やアニメーションMVのストーリーに影響されて、他の曲が生まれることはありましたか?

遊助:歌詞に関しては、全曲、完全に別物として書いていましたね。むしろ、前に作った曲で使った言葉を他の曲で使いたくないっていう気持ちが強いので、違いを出すことを意識していました。……と言いつつ、今まで250曲くらい作ってきたうちの240曲くらいは歌詞を忘れちゃってるんだけど(笑)。

――あははは。

遊助:どんどん吐き出していかないとインプットできないから、ドラマのセリフとかも翌日にはもう忘れてます。でも、街中で「この匂い、誰かの匂いに似てる」って思うみたいに、口ずさんだ時に「このメロディ、歌った覚えがあるな」って思うことがあって。そうすると新鮮な言葉じゃないから、気持ちが乗らなくなっちゃうんですよね。いろんなお仕事をさせてもらってるから、それがお芝居で言ったセリフなのか、トーク番組で話したことなのか、前の作品で歌った言葉なのか、リリースしてないけど途中まで作った曲なのか、わからない時もあるんだけど。それでもなんか嫌だなって思って消しちゃうことがよくあって、今回の制作もその繰り返しでした。

――そういう自己ルールがあるにも関わらず、コンスタントに楽曲を発表しているというのがすごいですよね。私だったらすぐにネタ切れして、何も言えなくなりそうです(笑)。

遊助:あははは。仕事柄いろんな世代の方と出会ったりとか、今はSNSなど新しい感覚をインプットできる場所も多いから、そういった新たな出会いにかなり助けられていますね。あと、アルバム制作の場合は、1曲1曲順番に作っていくと残り物の寄せ集めになりそうだから、そうならないように何曲も同時進行で作ってるんですけど、それが自分には合ってるのかも。

――というと?

遊助:僕の場合、1曲ずつ作っていったら、1曲の中にあれもこれも入れたいってなっちゃって、余計なことで悩むと思うんですよね。でも、アルバム全体の地図を俯瞰で見ながら、同時進行で作れば、その曲で何を書くべきかが明らかだから、迷わずに歌詞を書けている気がします。

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