『My FRAGMENTS+』インタビュー
PLOT SCRAPS 陶山良太、葛藤の先で掴んだバンドとしての自信 自分らしいままポップであるために重ねてきた挑戦
〈僕には心がないんだ〉と赤裸々に歌った真意
ーーポップバンドという言葉も何度か出ましたけど、多くの人に届けたい作品が18曲という大ボリュームになっているのも挑戦だなと思いました。10曲くらいのコンパクトなアルバムにまとめていないからこそ、全体の大きな流れも含めて楽しめる作品ですよね。
陶山:1stミニアルバム(『Vital Signs』)〜 3rdミニアルバム(『INVOKE』)の曲は、最初は抜いて考えていたんですけど、途中からやっぱり入れたほうがいいんじゃないかなと思って、18曲にもなったんです。新旧織り混ざっていて苦戦はしましたけど、意外と全てうまいことハマったんじゃないかなと。暗いところに潜ってから、フッと抜けて行き、最後は先につながるようないい余韻で終われる流れにできました。
ーーその流れを綺麗に締めくくる「タイセツナモノ」と「こころ」の2曲は、どのようにできた曲なんですか。
陶山:「こころ」はたぶん最後の曲になるだろうなっていう雰囲気を最初から感じていたんですけど、どちらも弾き語りでナチュラルに歌いながらできたので、難産な曲ではなかったです。
ーー「タイセツナモノ」で〈二人でいればそれだけでいいんだよ/君以外 大切なモノなんて無いから〉とはっきり歌い上げられたのはどうしてなんでしょう?
陶山:大切な人たちがいるからじゃないですかね。なんか恥ずかしいですけど(笑)。その部分の歌詞は結構そのままでしかなくて、今生きていて、大切な人がいて、「他に何が不満なんだろう?」っていうことです。困った時はそこに立ち返れば、悩みなんてなくなるかもよって。成長するために直面すべき課題って人生でたくさんあると思うんですけど、要らぬことで悩む必要はないじゃないですか。時間の無駄だし、ストレスでしかないから、そういうものは徹底的に排除してほしいなっていう気持ちです。
ーーその後の「こころ」はどうでしょう?
陶山:「タイセツナモノ」の歌詞の後、ラストが「こころ」になると、いい余韻になるなと思っていて。〈僕には心がないんだ〉と最初に歌っているんですけど、「自分には心がない」と感じたから書いたんです。「何をもって心と言っているのかな?」みたいなところから書いていった曲で、最初は「こころがないんだ」という曲名だったんですよ。
ーーどうしてそういう風に感じたんでしょうか。
陶山:「リブラ」の内容とも関係しているんですけど、何というか……生きていると、他人って本当にみんな親切だなと思うんですよ。悪い人だっているだろうけど、それは別として、自分だけが人に善行を返せていないような気がしていて。誰かに何かをしてあげたとしても、それが相手の為になっているのか自信がないんです。「リブラ」のサビでも歌っている〈一体 何度 与えては 与えられて来たんだろう/到底 あぁ 釣り合っちゃいない 君との天秤〉とかもそうなんですけど、「こんなに他人の優しさを受け取って生きているのに、周りに対して何もできている自信がなくて、ヤバくない?」みたいな。仮に浅ましい優しさだろうと、何かできていたらいいんですけど、本当に何もできている気がしないんですよね。
ーーそれは具体的にはどういう時に湧き上がってくる気持ちなんですか?
陶山:例えば曲をリリースすると、ファンの子たちが感想をいっぱい送ってくれて、ライブにも来てくれるじゃないですか。信じられないぐらい嬉しいんですけど、まさにその「信じられない気持ち」というか。曲をいいと思って、ライブに足を運ぶって相当なことだと思うんですよ。「俺って、そこまでさせるぐらい人に何かを渡せているのかな。だってこんなにダメな人間なのに、果たして……」みたいな。
ーーなるほど。堂々巡りですね(笑)。
陶山:猫を撫でている時も、「本当に心地よくなれてるのかな?」とか(笑)。相手からの真心って身に沁みてよくわかるんですけど、とにかく自分の行為だけはわからないんです。
ーーだからこそ、「もっといい曲を書かないと!」みたいに盛り上がるわけでもないんですか?
陶山:もちろんそれはあります。けど、人に何かを渡せている気がしないっていうのとは裏腹に、ソングライティングそのものに関しては自信しかないし、過去最高なぐらい絶好調なんですよ。『My FRAGMENTS+』を作れたからこそ、今は音楽を作る筋肉が活き活きと動いている感覚があって。自分が「もっとこうしたい」とか「もっとこう受け取って欲しいのに、なんで違うんだろう?」っていうことと葛藤し続けた結果、そういう経験をフルで活かせるようになったんだと思うし、それにメンバーがついてきてくれたことも嬉しい。だから後悔は一個もないし、次もさらに大きく踏み出せる気はしているんです。そこはベストを尽くすのみというか。
ーーその相反する感覚は面白いですね。“何かをあげられないという不安”がありつつ、その気持ちがもとになってできた曲には絶対の自信があると。冒頭で話していただいた「集大成」についても、次への手応えも含めて実感できているんですね。
陶山:そうですね。未熟だった自分にとって、『My FRAGMENTS+』はようやくの一歩目という感じがします。やっていることと結果が結びつかない時もありましたけど、今は聴いてくれる人たちの評価も、やっと体感できるところまできたのかなっていう気がしています。
■リリース情報
PLOT SCRAPS『My FRAGMENTS+』
2022年3月2日(水)リリース
¥3,000税込/No Big Deal Records
<収録曲>
01. My FRAGMENTS
02. リブラ
03. 告白
04. Teardrop
05. レーゾンデートル
06. ユクスキュル
07. やさしさパラドックス
08. PRAY
09. IRREVERSIBLE OK?
10. 月夜に提灯
11. Cover Story
12. ねがいごと
13. 透命花火
14. Telephone Box
15. pinky
16. FLAWLESS YOUTH
17. タイセツナモノ
18. こころ