くるり、アレンジ光るダイナミックな演奏で結成25周年をお祝い “終わらぬ旅”を続ける『くるりの25回転』東京公演

くるり結成25周年公演ライブレポ

 第2部は、岸田と佐藤がサポートメンバー全員とともに登場し(マニピュレーターの沢圭輔は客席からは見えない)、『ワルツを踊れ』収録の「ジュビリー」からスタート。大所帯らしい妙味が生きたのは続く「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」で、個性豊かなプレイヤーが揃った演奏は出色。重層的なアレンジと岸田の気だるげな歌い方が面白く絡み合った。その余韻のままに「さよならリグレット」「pray」「魔法のじゅうたん」と進む。複雑な演奏が、熱を帯びるほどに存在感を増す岸田の歌に惹きつけられていくと、「everybody feels the same」のイントロでセンターに立つ岸田にスポットライトが集まった。大小2本のサックスがダンサブルに曲を盛り上げ、フロアからのハンドクラップを引き出すと、岸田も体を揺らした。

 「この曲を作ったのは2011年。〈2012年の冬〉と歌ってるから9年経ったわけですけど」と岸田が言うと「10年ちゃう?」と佐藤。リラックスした2人の会話に笑いが起こり、岸田は「everybody feels the same」から羽生結弦選手のことを歌いながら考えたと話す。そして「まだ10年前ですから、ゆっくり聴いてください」と岸田が話を締めて、「o.A.o」へ。

 穏やかな日常を願うこの曲から、広い愛を歌う「loveless」、明日は晴れると希望を込めた「There is (always light)」が続いたのは、コロナ禍で閉塞する世界へのくるりからのメッセージのように思えた。親しみやすいメロディや歌詞の曲に、ギターやクラリネット、アルトサックスなどが色を重ねていく。安定感のあるベースとドラムを下敷きに楽器が1つずつ際立っていき、見事なグラデーションを描いていた。

 岸田がギターを置き、マイクを持ったラップ調の「琥珀色の街、上海蟹の朝」は、どの楽器も遊び心を見せた演奏で楽しませる。そんな空気をマリンバが受けて始まった「ふたつの世界」はさらに楽しそうな演奏になり、「How Can I Do?」は佐藤が再びアップライトベースを弾き、山崎はティンパニを叩いて、この曲のオリジナルの管弦楽アレンジを引き継いだ。

 ここでメンバー紹介をして、岸田は「早いものでこの数時間で25年が経ちました。領域展開ですね」と『呪術廻戦』を思わせる用語で煙に巻く。そして「これからも何年やるか……まあやるでしょう。やるんでまた、気が向けば何十周年とか何百周年とか、お祝いに来てください。皆さんと一緒にお祝いできて光栄です。本当に感謝しています。ありがとうございました。最後にもう1曲。この曲は長々やると思いますけど、楽しんでください」と「ソングライン」へ。

 岸田の歌を真ん中に、それぞれの楽器が縦横無尽に飛び交うダイナミックなスケールの演奏は、さながらロックなオーケストラ。メンバーそれぞれの表現力が見事に発揮されていた。そんな曲の最後を、岸田はアコースティックギターだけで歌って締めた。なんとも心憎い構成だ。

くるり

 アンコールに応えて岸田と佐藤の2人が登場し、「ありがとうございます。久しぶりに大きなところでやっているんですけど、25周年を皆さんとお祝いできてよかったです」と挨拶した佐藤の物販紹介が終わると、「もうちょっとだけ」と岸田が言い、「心のなかの悪魔」を弾き語りで歌い始めた。ギター、ドラム、キーボードが穏やかに加わっていき、次第にこのライブでの心の着地点が見えてくるような気がした。そして、岸田が言った。

「月並みですけど、ほんまにお体に気をつけて、元気な顔でまたお会いできればと思います。また会いましょう、最後にもう1曲やらせてください。『潮風のアリア』をやって帰ります。どうもありがとう、くるりでした」

 〈終わらぬ旅〉と歌う曲は、25年の足跡を辿ったこの特別なライブの最後を飾るにふさわしい。落ち着いた歌とバンドサウンドは、今のくるりそのものだった。参加メンバーに身振りでリスペクトを送り、全員で並んでオーディエンスに挨拶をした岸田と佐藤の笑顔には、節目を無事に越えた安堵と喜びが溢れているように思えた。

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