ばってん少女隊、いぎなり東北産、fishbowl、タイトル未定……アイドル論客4者が語る、2021年に起きたロコドルの活況

『アイドル楽曲大賞2021』(インディーズ編)

 アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。今回のインディーズアイドル楽曲部門は、ばってん少女隊が「わたし、恋始めたってよ!」で初の1位を獲得した。前身の桜エビ〜ずから2019年、2020年と2連覇を成し遂げたukkaはトップ10に2曲ランクイン。ほかにもクマリデパート、RYUTistといった常連組が上位に並ぶ中で、fishbowl、タイトル未定と2組の地方ローカルアイドルが新たに仲間入りしているのが、コロナ禍2年目となる2021年のランキングの特徴だ。

 リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開き、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、『VIDEOTHINK』制作・運営に携わる岡島紳士氏、著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を持つ音楽評論家の宗像明将氏、(コロナ禍以前は)日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立っていたガリバー氏が参加してもらった。後編では、いまだに出口が見えないライブシーンにおいて、突如現れたインディーズ界の希望にスポットライトが当たる。(渡辺彰浩)※本取材は2022年1月5日に実施。

ばってん少女隊が首位に

ばってん少女隊『わたし、恋始めたってよ!』-Music Video-

ーーインディーズの1位は、ばってん少女隊「わたし、恋始めたってよ!」となりました。

ピロスエ:これはリリースが2021年11月なんだよね。アイドル楽曲大賞の投票受付終了までは1カ月もないくらいの曲なんだけど、それが1位になった。

岡島:私立恵比寿中学がメジャー部門で1位だったので、スターダストプラネット所属グループがメジャー、インディーズ、ともに1位を取ったことになります。

ピロスエ:去年も一昨年もそうだよ。この曲の完成度は1位にふさわしいクオリティだと思いますけどね。音楽ジャンルでいえばドラムンベース的ですけど、このソフトで洗練されたサウンドは、むしろリキッドファンクと形容したほうがしっくりきますかね。

宗像:これは、グローカル・ビーツに分類できますね。グローバルに通用するローカルなビーツ。ばってん少女隊はジャンルをワールドミュージックにしてほしいですね。MVは長崎県の壱岐島で撮影していて、音楽的にも「OiSa」からの流れで渡邊忍(ASPARAGUS)がこれだけの楽曲を書いていると。

ガリバー:ばっしょー(ばってん少女隊)は、ちゃんと九州に根付いて活動をしていて感心します。地元でのイベントだけでなく、企業自治体とのコラボレーションというのはロコドル(ローカルアイドル)としては王道ではあるんですけど、そこをスタダの中でも早くから地道に続けてきたことで、着実に九州に根付いているんだと思います。グループ的に2021年は、新メンバーに蒼井りるあさんと柳美舞さんの2人が加入したのがトピックスだったと思います。特に、柳美舞さんは加入以前から『博多どんたく港まつり』でカメコ(カメラ小僧が語源。ライブ等で写真を好んで撮影するファン)に「橋本環奈の再来」と見つけられていた子で、彼女がどんな道に進むのかをみんなが期待していました。f

クマリデパート / 「限界無限大ケン%」 / MUSIC VIDEO

ーー2位のクマリデパート「限界無限大ケン%」は、サクライケンタさん、玉屋2060%さん(Wienners)が作詞、作曲、編曲を担当しています。楽曲自体は、Maison book girlとでんぱ組.incをマッシュアップしたような曲調ですね。

ピロスエ:作家の名前を曲名にフィーチャーするのは、ありそうでなかったですよね。清竜人やヒャダインはパフォーマーだからまた話が別なんですけど、作家の名前を曲名に入れ込んで、それが上位にくるのは面白い手法ですよね。筒美京平や松本隆の名前が入ってる曲名なんかはないもんね。

ガリバー:そういえば、裏方にはなりますがNMB48に「北川謙二」って曲があったなって思いましたけど。

宗像:この曲には、でんぱ組.incの「バリ3共和国」を彷彿とさせるフレーズが出てきたりして、意図的にそういうこともやってるだろうなと。作家の個性が出た曲が支持されているのは、『アイドル楽曲大賞』らしいなと思いました。

ピロスエ:楽曲にしてもMVにしても力が入った曲で、これが1位でも違和感はなかった。

ガリバー:クマリって去年も2位でしたっけ?

ピロスエ:そう。シルバーコレクターになってしまってますね。

宗像:そろそろ1位を取らせてあげたいね。MVには、Maison book girl「lost AGE」のMVパロディが入ってるんです。

ピロスエ:ほかにも、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』最終回のパロディがあったり、7位のいぎなり東北産「うぢらとおめだづ!」にもゲーム『ときめきメモリアル』の要素が入っていたりして、そういった傾向が一定数あるのかなと今回のランキングを見ていて思いましたね。

ukka 「WINGS」 MV

ーー2019年、2020年と2年連続1位だったukkaですが、3位に「WINGS」、9位に「ファンファーレ」がランクインとなりました。

岡島:ukkaは2020年12月に桜井美里さんが卒業、2021年3月には水春さん(現:水映)が脱退しています。その後、新メンバーの結城りなさん、葵るりさんを含む新体制6人でのお披露目が11月に行われました。2021年にはマネージャーの藤井ユーイチさんも直接的なマネージメントから離れているんですよね。メンバーやスタッフらの変動がある中で、「WINGS」は〈羽ばたけ〉と歌われるukka(羽化)の象徴的な楽曲だった。

宗像:ライブパフォーマンスNo.1アイドルを決める日本テレビ主催のイベント『IDOL OF THE YEAR 2021』にukkaが出ていて、それを配信で観ていたんですけど予選で負けてしまっていたんですよね。いろんな要素で審査されるのでストレートには勝てなかったけれど、実力ではぶっち抜きだった。水春さんが抜けた後もパフォーマンスのレベルは高いままですし、ukkaはukkaっぽいイメージを確立しているんですよね。

ガリバー:その象徴が「ファンファーレ」でもあるんだと思います。ファンへはもちろんですが、グループとしてもメンバーが抜けていく現状に対して自分たちを鼓舞するような、エールを送るような楽曲がランキングに上がってきている。どちらもミニアルバム『T.O.N.E』の収録曲で、曲調は違えどそこは「WINGS」と共通していると思いました。

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