當山みれい、川崎鷹也らとのコラボを経て広げた恋愛ソングの表現 「MIREI TOUYAMA EXTENDED」を振り返る

當山みれいが広げた恋愛ソングの表現

 當山みれいが、2021年11月より連続コラボ企画「MIREI TOUYAMA EXTENDED」をスタート。第1弾では南雲ゆうきによる「食えない」、第2弾では荒谷翔大(yonawo)作詞作曲、mabanuaアレンジの「嵐の前の静けさに」をリリースした。そしてこの度第3弾として、川崎鷹也提供曲「雨の音」を2月9日に配信。プロジェクトをスタートした経緯や、それぞれのアーティストとのコラボ、そして「MIREI TOUYAMA EXTENDED」を経て広がった恋愛ソングの表現などをじっくりと聞いた。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】

聴いてくださる方の層も“EXTENDED”してくれた

――昨年11月よりスタートした「MIREI TOUYAMA EXTENDED」は、當山さんの恋愛ソングの世界観を拡張させることを目的としたコラボプロジェクトになります。この企画はどんな思いから始まったものだったんでしょうか?

當山みれい(以下、當山):2020年にやらせてもらった「#私はそれでも恋をする」という連続カバー「いやいいや」のリリースプロジェクトがひとつの大きなきっかけになっているんですよ。そこでは「大迷惑星。」「HACK」「かくれんぼ」「偽愛」という4曲をカバーさせていただいたのですが、その中の「偽愛」を歌うことを決めるまでにはけっこう迷いもあって。あの曲は恋愛の中でもすごく極致というか、けっこう尖った内容を描いた作品だなと私は思っていて。

偽愛 / STUPID GUYS covered by 當山みれい

――歌詞にはかなり刺激的なワードが出てきますもんね。

當山:そうなんです。私は今まで自分の中の理想のような恋愛ソングを歌ってきているし、もし「偽愛」のような恋愛をしている友達に相談されたら全力で止めると思うんですよ。だから、カバーとはいえ、そういった恋愛の形を當山みれいとして表現することへの迷いがあったんです。ただ、実際に歌ってみることでちょっと気持ちに変化があったというか。「偽愛」で描かれていることも見方を変えればひとつの純愛なんじゃないかなと思えたし、それによってもっといろんな形の恋愛に寄り添って肯定していきたい気持ちが強くなったんです。結果、それが今回の「MIREI TOUYAMA EXTENDED」に繋がっていくことになりました。

――デビュー以来、大切に表現し続けてきたラブソングに対しての視野が、「偽愛」をカバーしたことでグッと広がったということなんでしょうね。

當山:めちゃくちゃ広がりました! 「偽愛」との出会いはもちろん、コロナ禍で自分自身を見直すことができたのも視野を広げられた大きな要因だとも思います。コロナの影響でファンの方と生配信で話をする機会が増えたんですけど、そこですごく思ったんですよ。今までの私は、自分のことをいい人に見せようとしていた気がするなって。人間としてバランスが悪い部分があるにもかかわらず、それを隠している私には人間味がないような気がしちゃったんですよね。で、ここから先、長く活動を続けていくのであれば、このままでは間違いなくしんどいぞと思ったので、自分の中の“いい人キャンペーン”をやめたんです。別にわがままでも、身勝手でもいいんじゃないかなって(笑)。

――だからこそ恋愛にも様々な形があってもいいと思えるようになったわけですか?

當山:そう。恋愛においてはわがままにならないことの方が珍しいと思うし、自分の感情に素直になったほうが楽しかったりもするじゃないですか。それがもし100人いる中の20人にしかわかってもらえない恋愛の形だったとしても、今の私としては全然それでもいいかなって思えるようになったというか。そういう思考になったことで、気持ち的にはめちゃくちゃ楽になったところがあったんですよね。

――でも、當山さんはデビュー時からずっとナチュラルに活動されている印象があるんですよね。自分のやりたいことを正直に表現し続けているというか。だからいい人に見せようとしていたっていうのはちょっと意外ではあります。

當山:デビュー当時は15歳だったから右も左もわからない状態だったんですけど、たくさんの人に音楽を通して思いを発信する立場としての責任を自分なりに取ろうとしてたところがあったような気がするんですよ。それが、“いい人キャンペーン”を知らず知らずのうちにやることに繋がってしまっていたというか。結果、アーティストとしてこうあるべきという自分の中の理想が独り歩きしてしまって、そこに対して自分自身でもちょっと違和感を感じることが多くなってきた。そこのギャップを今、ようやく埋められるようになってきたんだと思います。

――逆に言うと、デビューからの約8年で當山さんが思い描く理想のアーティスト像が築き上げられたからこそ、それをいい意味で壊していく新たなフェーズに突入したということなのかもしれないですよね。

當山:うん、それもあると思います。當山みれいとして様々な名曲に対してアンサーソングを作るという部分ではひとつやり切った感もあったし、デビュー以来やってきたことに自信を持てているところもある。だからこそ、ここからさらにもう一皮むけなきゃなっていう思いも強くなってきていたので。

――恋愛ソングの表現の幅を広げる意図を持った「MIREI TOUYAMA EXTENDED」においてコラボという手法を選んだのはどうしてだったんですか?

當山:自分で歌詞と曲を書き、それを自分で歌うというスタイルで今までにない恋愛の形を表現することに対して、まだあまり自信が持てなかったというか。だから今回は、自分がリスナーとして聴いて「この人すごい!」って思う方々のお力を借りようと思ったんですよね。自分に近い主人公を主語にする楽曲から少し距離を置いて、提供していただいた楽曲を自分の声で表現しつくすことに力を注いでみようと。他の方が書いた曲であっても、実際に歌うことでそこで描かれた恋愛の形に共感できるのは「偽愛」のときに学んだことでもあったので。

――11月に配信された第一弾楽曲「食えない」は、南雲ゆうきさんがトータルプロデュースを手掛けた楽曲でしたね。

當山みれい 『食えない』 Lyric Video

當山:実は私、中2くらいからボーカロイドの楽曲をずっと聴いて育ってきているんですよ。当時のボカロシーンはアウトサイダーというか、「俺らにしかわからない音楽だぜ」みたいな雰囲気がありましたけど、時が経つにつれてどんどんポップに昇華されて音楽シーン全体にも大きな影響を与えるようになって。私にとってそれはすごく感動的な出来事だったんです。なので今のタイミングでボカロというバックボーンを持つ南雲さんに、ボカロらしさを取り入れた當山みれいの楽曲を作ってもらいたかったんですよね。

――歌詞ではあいまいな関係に溺れていく主人公の思いが描かれています。

當山:歌詞に関しては、棘のある世界観を表現して欲しいですっていうお願いをしました。ボカロ曲っていうのは生身の人間が歌わないからこそ、普通だったらなかなか口に出しづらいことでも言葉にできてしまう部分があると思っているので、今回はそういった歌詞にして欲しかったんですよね。私の曲を聴いてくれるのは新世代の方が多いので、若さゆえの勢いで飛び込んでしまう世界みたいな部分は、きっと共感してもらえるんじゃないかなって思います。個人的には“蝶”というワードを入れてもらえたところがすごく気に入っていて。當山みれいの楽曲として、少し夜の雰囲気を持つ色気のある楽曲にもなったと思うので、蝶になったつもりでしっかり心を込めて歌いましたね。

――新しい歌い方が引き出された実感もありますか?

當山:そうですね。今までにない声色が出たなって思います。幼さと、ちょっと背伸びしている感じの狭間を狙って歌ったので、いつもの自分の楽曲と比べると声色も若い感じがします。もちろん狙ったところもありますけど、曲の世界に入り込んだことで自然と導かれた歌い方なのかなと思います。

――12月には第2弾として「嵐の前の静けさに」が配信されました。作詞と作曲は福岡のバンド、yonawoのボーカル&キーボード・荒谷翔大さんによるもの。アレンジはmabanuaさんが手がけています。

當山みれい 『嵐の前の静けさに』 Lyric Video

當山:私はR&Bが好きで、それをちょっとポップな方向でアウトプットしているタイプだと思うんです。でも、yonawoさんはそれを高い純度で表現されているタイプのバンドなんですよね。表現の仕方は違うにせよ、共通するバックボーンを持った方だと思ったので、今回、荒谷さんに楽曲を依頼させていただきました。荒谷さんから届いたデモはすごくシンプルで、どこか歌謡曲っぽさのある素晴らしいものでした。さらに今回はそれをもう少しUSトレンドのHipHop~R&Bっぽい雰囲気に寄せたいということでmabanuaさんにアレンジをお願いすることにしたんです。アレンジしていただいたことで曲の雰囲気がかなり変わったので、それに合わせて歌い方もけっこう大きく変えました。

――「食えない」同様、この曲もなかなか複雑な恋愛模様が描かれていますよね。

當山:はい(笑)。お互いに帰らなきゃいけない場所のある2人の曲ですね。だからこそ燃え上がる2人、みたいな。本来は肯定されるべき関係性ではないのかもしれないですけど、でもそこにある感情は押さえつけられるものでもないと思うので、だったら私が歌うことで2人の思いを燃え尽きるまで燃やしてあげようっていう気持ちでレコーディングには臨みました。

――大人っぽい曲の雰囲気にマッチしたせつないボーカルになっていますね。

當山:これはかなり狙って声を作りました。ちょっとため息交じりの独り言みたいな雰囲気で歌いたかったんですよ。歌としゃべりの中間くらいな感じのボソボソとした表現なんだけど、でもちゃんと音楽になっている。そこを自分なりにかなり模索して。ロングトーンの声色とか、細かいところまですごく研究しましたね。この曲はデビュー当時から応援してくれてる方はもちろん、はじめましての方からの反応もすごく多くて。そういった意味では、聴いてくださる方の層も“EXTENDED”してくれたなって思います。

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