家入レオ、ひたむきな毎日に届ける感謝とエール 他者と交わりながら新たな表現を紡いできた10周年の軌跡
今年の2月15日に、デビュー10周年を迎えたシンガーソングライターの家入レオ。13歳の時に地元・福岡で、音楽プロデューサー 西尾芳彦が主宰する音楽塾ヴォイスの門を叩いて曲作りを学び、15歳で完成させた曲「サブリナ」でメジャーデビューを果たしたのが2012年2月。当時はまだ17歳、あどけなさも残るルックスに、大人びた強い眼差し。自身の孤独や大人への反抗心をぶつけるようなリアリティのある曲の世界観と、研ぎ澄まされた歌声での登場はあまりにも鮮烈な印象を与えた。
昨年10月にはデビュー10周年に先駆けて、このデビュー曲をセルフカバーした「サブリナ(10th Anniversary Version)」が配信された。これが本当に素晴らしく、家入レオというアーティストの10年の歩みが凝縮されたような歌唱だった。リズムの取り方、繊細に変化する声の表情、ダイナミックな突き抜け感ーーもちろんデビュー当時から歌唱力はずば抜けていたが、こうしてセルフカバーすることで、まだ高校生だったあの頃の不安や危うさのようなものが今、自信や強さになって声に宿っていることがわかった。家入レオが家入レオを超える10年が、確かにここにあったのだと思わずにはいられない仕上がりだった。
2月16日には家入レオの2枚目となるベストアルバム『10th Anniversary Best』がリリースされた。今作には13thシングル『ずっと、ふたりで』(2017年)以降にリリースされた、ドラマや映画、アニメなど数々のタイアップ曲たちがズラリと並び、新曲2曲を含む全14曲が収録されている。デビュー当時は自身の内面を掘り下げて外へ発信するタイプの楽曲が多かったが、それだけではなく、キャリアを重ねて少しずつ大人になりながら、「他者の視点」で描かれた楽曲と自身の表現との化学反応を楽しみながら制作をするようになったことがよくわかるベストアルバムだ。
特に、ドラマ『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系)主題歌として書き下ろされた「ずっと、ふたりで」はターニングポイントになった。デビュー5周年で初の日本武道館公演を経験したことで「みんなのために歌いたい」という気持ちを強くしたことも大きかったようだ(※1)。この曲で家入は作詞・作曲・編曲を杉山勝彦に委ね、ボーカルに徹することでメッセージ性の強いバラードを豊かに表現しきった。
そんな「ずっと、ふたりで」では、愛する人の秘密をどこまで愛せるか、というシリアスな内容のドラマの主題歌として作品に寄り添いながら、彼女の歌声は癒しの効果も抜群だった。この挑戦は、家入レオの活動に風穴を開けたところもあったのだろう。2019年にはドラマ『緊急取調室』(テレビ朝日系)主題歌「Prime Numbers」や映画『コードギアス 復活のルルーシュ』オープニング主題歌「この世界で」、2020年にはアニメ『メジャーセカンド』第2シリーズ(NHK Eテレ)のオープニングテーマ「Answer」やドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)の主題歌「未完成」など、次々とリリースする中で音楽性をさらに豊かで幅広いものにしていく。作詞を北川悦吏子、作曲を川上洋平([Alexandros])が手がけた、『ウチの娘は、彼氏ができない!!』(日本テレビ系)主題歌「空と青」など、楽曲と自身の関わり方も、よりフレキシブルになっていった。
なかでも、家入と岡嶋かな多が作詞を手がけた「未完成」は、YouTubeのオフィシャルチャンネルで公開されたMVの再生回数が1300万回を上回るなど(2月中旬現在)、ロングヒットとなった。〈愛を止めて 僕から逃げて〉と言いながら、〈好きだよ 好きだよ 好きだよ〉と相反する感情を不器用にぶつけるこの曲は、タイアップ曲として書き下ろしながら、家入自身も自己投影できたからこそエモーショナルな表現ができたのだろう。こうして幸福なクリエーションを重ね、家入レオは日本の音楽シーンに欠かせない唯一無二の存在になっていく。