um-humが『steteco』で目指したポップとアンダーグラウンドの黄金比 激動の1年でバンドに起こった変化
「頭を空っぽにして踊れる曲が作りたかった」(ろん)
――それにしても、「凡能」が今作の制作タームの初期にできていたとは。まずは「エイムズ」辺りができて、それをもっとポップに押し進めたのが「凡能」だと思っていたので。
ろん:むしろ「エイムズ」はかなり終盤にできたんですよね。だけど、レコーディングまでの時間は一番短かった。
小田:「エイムズ」だけ、ろんが完成した状態で投げてきたんですよ。だから、それをみんなで聴いて、弾いて、歌って、終わりです(笑)。
――今までの話は何だったんだというぐらい、「エイムズ」だけ作り方が違う(笑)。「エイムズ」は他の曲とは違う何かが見えたと?
ろん:ポップとアンダーグラウンドのバランスも含めて、今のum-humに見合う作品を本気で作ってやろうと思ったんですよ。メンバーがどう思うかはちょっと不安だったんですけど、気に入ってくれて良かったです。
――「エイムズ」はモノクロのMVもクールで。乃愛さんはコロナ禍において以前から「よりum-humを知ってもらうために、ライブだけじゃなくMVにも凝っていきたい」と言っていましたが、今回の3カ月連続配信ではそれが具現化していますね。「meme」では、乃愛さんが大好きな3Dアニメーター、Really3Dとのコラボレーションも実現して。
小田:私がただただReally3Dのファンだったんですよ。元々3Dアニメーションが好きで、2~3年前にYouTubeをあさっていたら出てきて。「meme」のMVを作るときに、「かなうかどうかは分からないけどお願いした人がいる」とメンバーに伝えて、何も接点がないので直接メールを送ってみたんです。でも、ずっと返信がなくて……そりゃそうだよなと。
――向こうからしても、日本のよく知らないバンドから、訳の分からないメールが来たと。
小田:でも、私は絶対に諦めたくなかったので、この人のありとあらゆるSNSを探しまくって、プライベート用のアカウントを見つけたんですよ! それでイチかバチかDMを送ったんですよね。そうしたら、「あなたのバンドのアカウントからメールが来ていたのは知っていました。でも私は今、旅行中なのでごめんなさい。HAHAHA!」みたいな返事があって(笑)。そこから、行きつけのリハーサルスタジオの店主の方がちょっと英語ができるので翻訳をお願いして、みんなで頑張ってまた送って、やっとコンタクトが取れて……。
――その情熱が言葉も国境も越えて、ついに相手を動かしたんですね。すごい!
小田:かもしれないです。本当に自信があったんですよ、um-humとReally3Dのタッグには。今作の中でも「meme」は特に好きな曲だったので。
ろん:僕はチープなサウンドのあのリフがめっちゃ好きで、わざとチープに、もっとチープにしてやろうと入れまくって。頭を空っぽにして踊れる曲が作りたかったんですよね。
――そう言われると確かに、コロナ禍以前のように頭を空っぽにして踊る機会はかなり減っている気がします。音楽にはそういう快感があったよなと思い起こさせますね。
ろん:コロナ以降、モノの見方が変わったじゃないですか。そこから作品に変に意味付けをするようになったり。それに比べて「meme」は一見、意味がないように見える。それは映像もしかりで。だから僕も「meme」が好きなんですよね。
小田:多分、メンバーみんながそうですよ。この曲をレコーディングして、その場でちょっとミックスした時点で拍手が起きましたから。
ろん:リフを駆使する音楽って、最近は意外と少ないんですよ。例えばThe Beatlesだって、リフが主軸にあるじゃないですか。だから曲と共にリフが耳に残る。今は歌から始まったり、そもそもメロディのリフを表に置く音楽が減ってきているので。
――この曲はメインのリフが最後までずっとループしていますもんね。
小田:リフ自体が「meme」(=ネットスラングの一環で、急速に模倣されて広がっていくネタみたいなもの)にもなっているんですよね。
ろん:「meme」を初めてライブでやったとき、同行してくれていたカメラマン兼スタッフから、「あのリフしか耳に残らんわ!」と言われて、成功したなと思いました。2回目のサビ前にわざとJ-POPっぽいニュアンスを入れているところも好きですね。
――あと、リリックにある〈dape〉とはいったい? “dope”(=coolと同意)ではなく?
小田:そこは本当は“dope”だったんですけど、ろんがリハで「これはダープな感じでいこうか」みたいにずっと間違っていて(笑)。でも、だんだんそれが良く思えてきて、造語なのに何となくメンバーに伝わっていく感じが「meme」だなと。だからこのフレーズはぜひ歌詞の中に入れたいなと思って。
――めちゃくちゃ分かりづらいけど、説明を聞くとめちゃくちゃ分かる(笑)。
小田:だからこの話は取材のときに絶対に言いたかったんです(笑)。