西城秀樹が体現したロックシンガーとしてのダイナミズム サエキけんぞうによる復刻ライブアルバム徹底解説
ついにスタジアムで濃厚なロックグルーヴを実現
4枚目のライブアルバム『全国縦断サマーフェスティバル’75 ヒデキ・オン・ツアー』は、『ブロウアップ ヒデキ』として20歳の西城秀樹を追ったドキュメント映画にもなったツアーのライブ盤。1975年7月20日から8月24日まで開催された初の全国縦断コンサート『BLOW UP! HIDEKI』の模様が収録されている。
ここからSHŌGUNを後に結成する芳野藤丸率いる“藤丸バンド”が全面バックアップとなり、極めてロック色が強くなってクオリティがグッと上がっていく。芳野藤丸(Gt)、渡辺一也(Dr)、渡辺和義(Ba)、中島正雄(Key)というメンバーに加えて、長尾公弘とザ・ダーツや、女性コーラスグループ・クルクルがバックメンバーを務める。不動のパートナーである芳野を得た秀樹が、ロック、ソウル色を強めたこのツアーで黄金時代を迎えることになる。
冒頭は、ポール・マッカートニーに楽曲提供を受けたバンド BROWN RICEの惣領泰則による編曲のプログレ風「オープニング」と「ブロー・アップ・マン」。冒頭から一気に熱量が上がっていく。後者はオリジナルのファンクソウルであり、秀樹がグッと洋楽的な体制になったことを宣言している。続く芳野藤丸の編曲となる「愛を求めて」もSHŌGUN風でゴキゲンである。
さらに「ゲット・ダンシング」はDisco-Tex and His Sex-O-Lettesによる本場ディスコヒッツのレア名曲である。それを発掘したセンスもなかなかだが、「この世で一番楽しいことを知ってるかい? それは歌って踊ることよ!」と心の底から楽しそうにMCする秀樹のイノセントな眩しさがたまらない。
「ケニーのバンプ」も凄い。バンプとは、70年代に流行したお尻をぶつけ合うディスコダンスだが、それをステージに上げた観客と共に踊るのだ。その際にもMCでは、決して観客を傷つけない秀樹の細かい心遣いが伝わってくる。
興奮はGrand Funk Railroadのカバー「ハートブレイカー」で頂点へ。芳野藤丸が自身の活動45周年ライブでアンコールの最後に演奏したのは、自身の代表作ではなく、秀樹との思い出を噛み締めたこの「ハートブレイカー」だったが、それほど彼らにとって特別な曲だった。最後、大ヒット中の「傷だらけのローラ(フランス語)」でファンがそれまで体験したことなかったような熱狂を迎える。
途中、「モニターが悪いから歌がズレるかも!」という秀樹のMCがある。広いステージの野外ライブは、歌手とバックミュージシャンとの間に距離があり、バッキングのモニターは実際の演奏とズレる場合がある。また客席への音響もやまびこのようにズレて返ってくる。機材がまだ進化していない時代のスタジアムライブの草分けアーティスト・秀樹は、極悪の状況でライブを行っていたのだ。しかしここに収録された歌唱は信じられないほど完璧である。動画サイトで観られるTV番組での歌唱も常に完璧に近い。秀樹がスタジアムロックの草分けとなった所以である。
『傷だらけのローラ』は海外でも評価された作品に
5枚目のライブアルバム『MEMORY/西城秀樹20歳の日記』は、アナログ1枚目(M1「Opening~ブローアップマン~翼があれば」~M12「白い教会」)はベストヒット曲集的な構成で、曲間に秀樹のモノローグが入り、生いたちから20年間のドキュメントが綴られている。この秀樹の語りにはレアな話が満載で、特に厳しい時代を支えてきた家族との絆が語られているエピソードには、思わずホロリとさせられる。
『傷だらけのローラ』は、『LOLA』として1975年にフランス、スイス、ベルギー、カナダで発売され、カナダではチャート2位まで駆け上がった。沢田研二のフランス進出も有名だが、西城秀樹もカナダやフランスで人気を獲得していたのだ。
また、「薔薇の鎖」は発表された「Aタイプ」の他に、やけに楽しいラテン調編曲の「Bタイプ」があり、その貴重なバージョンが公開されている。雰囲気の全く違う曲になっており、ファンにとってはお宝である。
アナログ2枚目(M13「Opening(バッハのトッカータ)」~M23「ケ・サラ」)は、1975年11月3日に日本武道館にて開催された第1回リサイタルの模様がライブ録音で収録されている。藤丸バンドと繰り広げられるライブは、再びエネルギッシュなものとなっており、冒頭「翼があれば」「至上の愛」と歌い上げ系の曲が続き、そこには風格といえるほどの迫力がある。アップ系な曲でのバンドとのコンビネーションも素晴らしく、特にキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」を秀樹節でカバーしているのが楽しい。長時間演奏されるKC & the Sunshine Band「ザッツ・ザ・ウェイ」では、ほとんどのボーカルを芳野に託しており、バンドとのコンビネーションがバッチリだったことを物語っている。最後から2曲目、当時のファンにはお馴染みだったオーティス・レディング「トライ・ア・リトル・テンダネス」の日本語バージョンは、メロディをかなり変えて歌う秀樹の熱が、存分にそのスタイルを物語っている。
以上、この5枚のライブアルバムをじっくり聴けば、西城秀樹が常に流行のサウンドと闘いながら、自身のスタイルを作り上げてきたことがおわかりになるだろう。
歌謡曲とロックのボーダーを超えた熱量で、日本語と英語の垣根を壊し、日本にロックを定着させていったオリジネーター。だからこそ、たくさんのロックアーティストにリスペクトされている。そんな西城秀樹の功績はこれから再認識されることになるだろう。
■リリース情報1
『西城秀樹 オン・ステージ』(1973年発売)¥3,300税込
『西城秀樹リサイタル/ヒデキ・愛・絶叫!』(1974年発売)¥3,300税込
『西城秀樹リサイタル/新しい愛への出発』(1975年発売)¥4,400税込
『全国縦断サマーフェスティバル’75 ヒデキ・オン・ツアー』(1975年発売)¥3,300税込
『MEMORY/西城秀樹20歳の日記』(1976年発売)¥4,400税込
・2021年12月24日(金)発売
・Blu-Spec CD2仕様
■リリース情報2
DVD BOX『THE 50 HIDEKI SAIJO song of memories』
2022年3月25日(金)発売/¥33,000税込
写真集ブックレット付属、豪華三方背BOX入り
・ソニー・ミュージック公式オンラインショップ『Sony Music Shop』:https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?cd=DQBX-1241
・西城秀樹オフィシャルショップ「HIDEKI FOREVER.COM」:https://hidekiforever.com/
・TBSショッピング:https://shopping.tbs.co.jp/tbs/product/S2104065?program=0012&airdate=20211221