BRAHMANが見せた新たな景色の1ページ 貫かれた“歌うこと”で伝えるという強い意志

 ステージ前面の紗幕に「BRAHMAN Tour -slow DANCE HALL-」の文字が映し出されている。2022年1月13日、東京・中野サンプラザホール。夏に行われていたツアーの続編となる全国8カ所を巡るツアー最終日だ。2年以上続くコロナ禍を経て自分たちは何をすべきか模索してきたBRAHMANの答えがここにあった。

 SEが流れる中、紗幕に現れた文字は「霹靂」。白いシャツを着たメンバーの姿が透けて見え、ゆったりとしたテンポのベースに合わせてTOSHI-LOWが歌い出した。YouTubeで公開されているライブ映像と同様に降りしきる雨の映像が重なり、アグレッシブに転調するサビでは雷鳴が光る。公開されていた映像と違うのは紗幕が下りたまま曲が進み、TOSHI-LOWたちは抑えた動きで歌い演奏する。それを全身で受け止めながら着席してステージを凝視しているオーディエンスの葛藤を、紗幕が結界となって跳ね返しているように思えた。だがBRAHMANはその結界を超えて熱と音を届ける。

 お馴染みのブルガリア民謡に続いた「空谷の跫音」は肌が泡立つような緊張感が紗幕越しに伝わってきた。幻想的な森の映像が印象的だった5曲目「A WHITE DEEP MORNING」の終盤で紗幕が上がると待ちかねたオーディエンスが立ち上がり、ステージから流れ出したスモークにメンバーと共に包まれた。美しい光景だった。

 RONZIのドラムがシャープにビートを刻む「其限」は4人一丸となった歌と音が見事に呼応し、「汀に咲く」「LAST WAR」「BASIS」と彼らのライブらしい熱気を放っていく。以前から彼らのライブは爆音でありながら音の粒だちがいい印象があったのだが、このホールツアーではさらに一回り大きな広がりを作り、歌を中心に据えたサウンドスケープを作り出していた。フィジカルな動きを抑えて演奏に集中したと考えるのは簡単だが、席のあるホールで動きもままならぬオーディエンスに届けるために、彼らは音の一つ一つを研ぎ澄ましている。ボーカルも然り。感情を込めながらも感情に走らず、歌そのものを届けると言ったらいいだろうか。曲によって投映される歌詞や様々な映像とともにしみ込んできた。

 KOHKIのギターソロが切なく響いた「鼎の問」「ナミノウタゲ」は東北の被災地の今を投映しながら聴かせ、起伏をくっきりとつけた「ANSWER FOR…」、最後のシャウトが圧巻だった「ARRIVAL TIME」と、BRAHMANの真骨頂を示していく。MAKOTOのベースが腹の底に響きTOSHI-LOWの歌に力が入った「FAR FROM...」の終盤で、再び紗幕が下りた。SEと映像が流される。メンバーの写真に送られた大きな拍手に応えるように、緊張感のあるギターから「Slow Dance」が始まった。

 この曲のボーカルは出色だった。野太く力強く怒りと優しさが入り混じり聴くものを鼓舞してくる。歌詞が投映されているからではなく、TOSHI-LOWの歌う一言一言が確実に届いてきた。歌うことで伝えるという強い意志に貫かれた歌だった。その余韻が残る「旅路の果て」では、この世を去った多くの仲間たちの写真が投映された。曲が終わりRONZIの力強いドラムに乗ってTOSHI-LOWが語り始めた。

「この2年間、大変だったでしょう。何やっていいとかだめとか、そんなことの繰り返し。こんなライブに来るのだって、むちゃくちゃ悩んで来たでしょう。この2年間、どんだけ繰り返されても、やっぱり慣れないんだわ。俺たちは慣れない中でホールツアーを始めたら、やっぱり慣れない。よく言われた、あの頃に戻ったらいいですね、2年前のあの頃のライブが出来たらいいですね。俺はそうは思わない。あの頃に戻ってしまったら、この2年間は何だったんだよ! 2年前に戻るんじゃなくて、あの頃の先に行きたい。先に行って新しい景色を見せないと、さっきスクリーンに出てきた仲間たちに申し訳ねえ。長く生きてしまったから、いろんな土産話をあいつらに聞かせるために。俺たちは変化を恐れない。立ち止まることはない。俺たちはまだ進んで行きます。ようこそ、俺たちの“DANCE HALL”へ。俺たちらしくない曲だけど、一緒に踊ってよ。今夜ここで、俺たちと踊ってよ!」

 最後を飾った新曲「DANCE HALL」は、確かに彼らには珍しく明るくダンサブルな曲だが、そこに込められた想いはTOSHI-LOWが語ったことの何倍もある。〈何度も大丈夫と言い聞かせて〉一人ひとりが自分のダンスホールで踊るのだ。この夜の中野サンプラザは、それにふさわしいホールになった。これが彼らの見せる新しい景色の1ページ目なら喜んで踊ろう。その新しい景色は2年前、いや10年前、それ以前から繋がっているから見えるものだ。このライブを東日本大震災後に発表した「霹靂」で始めたのは、ホールツアーはBRAHMANだけでなく我々にとってコロナ禍からの復興の象徴であり、「DANCE HALL」は誰もが復興の途中にあると歌っているように思えた。BRAHMANとともに、次の新しい景色を見たい。

■セットリスト
1.霹靂
2.空谷の跫音
3.ONENESS
4.俤
5.A WHITE DEEP MORNING
6.其限
7.汀に咲く
8.LAST WAR
9.BASIS
10.鼎の問
11.ナミノウタゲ
12.ANSWER FOR…
13.今夜
14.ARRIVAL TIME
15.FAR FROM…
16.Slow Dance
17.旅路の果て
18.DANCE HALL

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