宇多田ヒカル、スタジオから届けた極上の陶酔感 『BADモード』からUtada時代の楽曲まで披露した貴重な配信ライブ

 続いて披露した「PINK BLOOD」は、歌始まりで言葉が強い一曲。〈自分のためにならないような/努力はやめた方がいいわ〉のフレーズ直後に表情を少し変化させたのが印象的だった。自分に言い聞かせるような強い詞を繰り返し、それが音源にはない演奏のアレンジと融合。歌と演奏の力に意識が吸い込まれていくようだった。「Face My Fears (English Version)」では物寂しいピアノと歌、そして轟音のギターがポリリズミックに進行し、やがてボレロ式に盛り上がっていく。次の「Hotel Lobby」(Utada名義で2004年にリリースした『Exodus』収録)では今まで鳴っていなかったユニークな音色も登場し空気が一変。軽快なリズムにスタジオの全員が揺れていた。静寂の中で爪弾かれるギターサウンドがリフレインする「Beautiful World (Da Capo Version)」では、途中からコーラスとリズム隊がじわじわと出現し、緊張感に思わず息を呑む。これぞ宇多田ヒカルだと言わんばかりの深い陶酔感があった。

宇多田ヒカル『Face My Fears (English Version)』Live ver.

 そして最後は「About Me」(『Exodus』収録)。音源で本人がギターを弾いているこの曲は、初期宇多田作品のR&B感を彷彿とさせる。どこか懐かしさのあるこの歌で、彼女の世界に飲み込まれていくような感覚に陥ったが、演奏後のメンバーたちの拍手で再び現実世界に戻ったような気がした。

 すべてのパフォーマンスを終えると、最後に彼女は「普段は共有できない、奥の方の特別な空間を初めて共有できた気がしてます。とはいえ、またいつか、どこかの会場で会えるといいなと思います。みんな元気でまた会いましょう」とコメント。

 スタジオという閉ざされた空間で、音楽が、歌が、ここではないどこか外の世界へと広がって行く感覚を味わえたこのライブ配信。彼女の歌と、ミュージシャンたちによる魔法のような音楽の力で、宇多田ヒカルの世界がより高度に、より純度高く表現されていたと感じた。そして、人と作り、人と鳴らす。今現在の彼女の最新の“モード”を知れた一夜でもあった。

※1:https://realsound.jp/2020/05/post-554160.html

宇多田ヒカル オフィシャルサイト

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