きゃない、初のフルバンドセットで歌ったリキッドルームワンマン 路上で培った歌の物語性と力強さ

 12月23日、恵比寿LIQUIDROOMにてきゃないOne Man Live『初めまして最初の一歩』が開催された。

 これまで路上ライブを中心に活動してきたシンガーソングライターのきゃない。8月に続き自身2度目となるワンマンライブは初のフルバンドセットでおこなわれ、各地で紡ぎ育てた音楽をバンドサウンドで彩った贅沢な一夜となった。

 定刻、暗転したステージにきゃないのシルエットが浮かび上がると、「僕はヒーローになれない」でライブはスタート。前回のワンマンライブで最後に演奏した曲から始める構成は、その間彼が歩んできた道のりを思わせる。柔らかな歌唱から一転、雄々しいドラムをきっかけにして「エトセトラ」「SHAKE」と続く。クールな歌声で妖しげな雰囲気を醸しながらもバンドメンバーを見回して楽しげに疾走感を紡ぎ、新曲「夕暮れ」ではどっしりとしたタムがドラマチックに演出した。きゃないのギターボーカルから演奏されたのは「私の半分」。路上で培ってきたものなのだろう、1人の演奏でもバンドに劣らない力強さをひしひしと感じる。きゃないの楽曲の多くは90年代近辺へのリスペクトを感じる曲調で、その特徴のひとつとも言えるギターをフィーチャーしたイントロ、間奏での楽器のソロはきゃないが歌う詞の情景を想起させるように響く。物語を描くような丁寧な演奏にオーディエンスはじっと耳を傾けた。

 「今日は来てくれてありがとう!」と笑顔で挨拶をすると、大きい会場で開催できたことへの感謝を口にする。レスポールからアコギに持ち替えると「僕にとってすごく大事な曲です」と「君のはじまり」へ。〈君にはもう二度と会えない〉という切ない詞は落ち着いたトーンで歌唱されることで沈み込むような悲しさは感じさせず、しかし時々隠された痛みが表出するように声色が変化する。噛みしめるように大切に歌い上げた。

 1stシングル「イヌ」で過去を思い返すような詞を歌い上げると「紫陽花」へ。リズミックなバンドサウンドに乗せクールに歌う。オーディエンスに寄り添うような、あるいは切なさを強調するような柔らかい歌声を持ち味とする反面、クールにパフォーマンスする楽曲も多いきゃない。バンドとともにその対比を見せた。

 バンドメンバーを紹介すると、「この5人で鳴らせる音を楽しみたいと思います」と「人間」へ。〈僕は歌えるしギターも弾く 上出来かは知らんが曲も書ける でも誰かになりたいわけじゃない〉。自身を反映させた歌詞を生き生きと奏でるきゃないからは、この曲をバンド編成で歌うことの喜びが感じられた。

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