梶浦由記、物語を引き立てる劇伴ならではの面白さ ルーツも織り込まれた『海賊王女』サントラ制作を語る

梶浦由記『海賊王女』サントラ制作を語る

「劇伴はパーツ職人に徹する方が面白い」

ーーアニメのオープニングテーマである「海と真珠」のメロディがいくつかの劇伴でも効果的に使われていますよね。そこにはメインテーマ的なイメージがあったのでしょうか?

梶浦:そうですね。基本的にフェナのために書いた曲は「海と真珠」のメロディをアレンジしたものになっていて。それが本作でのメインテーマという感覚ですね。フェナのシーンになるとサブリミナル的に「海と真珠」のメロディが流れてくることで、それがフェナの曲であるという認識に結びついてくれたらいいなという狙いがあったので。そういうことができたのも、オープニングテーマまで作らせてもらえたからこそだと思います。

JUNNA 「海と真珠」Music Video (short ver.)

ーーまた、Joelleさんをボーカルに迎えた曲が4編収録されているのも印象的で。

梶浦:「vise versa」という曲があるんですけど、物語の中の人たちにも認識されている歌なんですよ。挿入歌というよりも、もうちょっと強い意味合いのある曲。要はBGMではなく、ストーリーの中に出てくる曲ということなので、誰に歌ってもらうかが一番重要だったんですよね。いろいろ考えた結果、Joelleさんの声がすごく合っているなと思ってお願いしました。そこからの流れで、「fight to the finish」「ruins」「what she was here for」も歌っていただいた感じです。この3曲は完全にBGMとしての役割ですけど、物語の中で効果的に使われていると思いますね。

ーー「vise versa」の歌詞は造語、いわゆる“梶浦語”ですよね。

梶浦:この曲は監督が書いた日本語の歌詞が元々あって、それに合わせて私がメロディをつけていったんでけど、劇中で流すのであれば造語のほうがいいんじゃないかということになったんですよね。

ーーJoelleさんの抜擢はそういった部分でも納得ですよね。これまでも梶浦さんの楽曲をたくさん歌われてきた方なので。

梶浦:そうですね。造語の曲を歌っていただく場合、海外の言葉で歌ったことがない方にはちょっと難しい部分がありますし。造語をローマ字読みで歌ってしまうと雰囲気が出ないというか。「ちょっとイタリア語っぽく歌ってみましょうか」「ラテン語っぽく歌ってみましょうか」みたいなディレクションをすることもあるので、外国語の発音を知っている方だとより綺麗に歌ってもらえるんですよね。そういった意味では、英語を自在に操れるJoelleさんは文句ナシ。もうお互いに慣れたものなので、レコーディングでは楽しみながら歌ってくださって。私としては「お見事です!」といった感じでしたね。

ーー「vise versa」の日本語バージョンも気になるところですけどね。

梶浦:日本語バージョンは「vise versa」のメロディに乗せると日本語でしっかり歌うことはできますので、挑戦してもらえると面白いかもしれないです(笑)。

ーー今回リリースされるサントラを聴かせていただくと、そのすべてに楽曲としての強いパワーを感じます。でも、アニメの中だと物語をより鮮やかにするため、一歩後ろに下がった一つの要素になっていて。同じ曲なのに不思議ですよね。

梶浦:私は物語をよりいい形で届けるためのパーツ職人なんですよ。劇伴を作っている以上は、そうあるべきかなと。劇伴としての役割を果たしてないと、結局はその音楽自体がいいものとして聴こえないじゃないですか。画と音楽が噛み合っていない作品は、どうしたって魅力的には感じられないので。だからサントラを聴いて楽しんでもらうことはもちろん大きな喜びではありますけど、やっぱり映像と合ってるということが、自分で望んでいる評価なのかなとは思います。

ーー梶浦さんはFictionJunctionをはじめ、ご自身が前に出る活動もされています。だからこそ、一方では映像に寄り添う“パーツ職人”という考えの元で、劇伴作家という場所を楽しめているのかもしれないですよね。

梶浦:どうなんでしょうね。確かに私は元々バンドをやっていたので、劇伴に対しての気持ちを持てるようになるまではちょっと時間がかかったんですよ。BGMを作るようになった当初は正直、自分が主役でない仕事をすることに対して戸惑っていたというか。どう向き合っていいのか、どう取り組んでいいのかがわからなかったんですよね。

ーーそういう感覚になるのもわかる気がします。でも、そこから抜け出したわけですよね。

梶浦:そうですね。いつからか、パーツ職人に徹する方が面白いんだなっていうことに気づいたんです。言い方がちょっと難しいんですけど、結局は関わる作品が魅力的になることがみんなにとって一番幸せなことなんだなって思うようになったというか。誰が主役で、誰が主役じゃないみたいなことは、いつの間にかどうでもよくなったっていうことですね(笑)。そう思えるようになったからこそ、自分が主役になれる活動もより楽しくなったところがあると思いますし。だって、ライブで皆さんから拍手をいただけるのって、ものすごく気持ちいいことですから。その場で私が演奏した曲に対して、お金を払って観に来てくれた人たちが「わー、素敵!」と言ってくれるんですよ。それってすごいじゃないですか(笑)。こんな幸せなことがこの世にあっていいのかって思える場所がある。それも自分にとってすごく大きなことですからね。

ーー『海賊王女』の物語はさらにクライマックスへ向かっていきますが、楽しみにしているファンに向けて、最後に梶浦さんから一言お願いします。

梶浦:前に前に進み続けるロマンと冒険、そして憧れの物語が、ここからどこに行きつくのか。どんなところが終着点なのかをひたすら楽しみにして欲しいですね。音楽も含め、この美しい世界を最後まで一緒に旅していただければと願うのみです。

※1:https://realsound.jp/2021/10/post-874368.html

『海賊王女』

■放送情報
『海賊王女』
TOKYO MXにて、毎週月曜24:30~放送
キャスト:瀬戸麻沙美、鈴木崚汰、櫻井孝宏、悠木碧、逢坂良太、田中進太郎、村治学、平田広明
原作:中澤一登、Production I.G
監督:中澤一登
脚本:窪山阿佐子
音楽:梶浦由記
音楽制作:FlyingDog
制作会社:Production I.G

■リリース情報
梶浦由記『TVアニメーション「海賊王女」オリジナルサウンドトラック』
12月8日(水)発売
¥3,630(税込)VTCL-60555~6

梶浦由記 公式サイト

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